1-2 女神と大魔王の共通点
歩きながら、知りたいことを明らかにしていこう。
「魔法って使えるの?」
「誰でもではないが、使えるものは沢山おるぞ。もちろん、我も、いや、今はお主じゃが、女神は色々な魔法を操れるぞ」
魔法か。ファンタジーと言えば真っ先に出て来る。これを使わずして、この世界にいる意味はない。
「使い方は?」
「すでに世界に認知された魔法であれば、魔法の名前、いわば呪文を唱えれば良い。口に出さず使うことも出来なくはないが、それはスキルが必要じゃ。そうじゃな、初級で一つ教えよう。どこに飛ばすかを念じながら、ファイアボールと唱えてみよ」
「分かった。そこの石を狙う。ファイアボール!」
おお、想像したのよりはるかに大きな火の玉が出て、飛んでいった。ただし、狙った石じゃなくて少し左に。
もう1回やったけど、同じだけ左にずれて飛んで行く。
「なぜ外すのかのう。まあとにかく、これが魔法じゃ。では次は中級を。フレイムランスという炎の槍を飛ばす魔法じゃ。使い方はファイアボールと同じ、狙いを付けてやってみよ」
「今度もその石を。フレイムランス!」
今度は外す以前に出なかった。
「我の体なのじゃ。出来そうなものだがのう」
上級火魔法の「プロミネンス」、他の系統の中級と上級の魔法などいくつか試したけど、初級と呼ばれるものしか出来なかった。
「理由はわからぬが、初級のみか。まあ良い。今のお主の初級魔法は、一般人の上級魔法くらいの威力がある。レベルが高いからのう」
なるほど。今の僕は、「今のはプロミネンスではない……ファイアボールだ」ってやれって事だな。プロミネンスは出せないけど。
それからとにかく歩いた。戦略ビューで見ると、まだ半分も来ていない。
ハコネが歩くのが遅い。僕の体なのでハコネのせいじゃないけど、マラソンではクラスの中位になる程度の体力はあったはず。それを余裕で置いて行ける、この体の体力。ハコネに合わせて時々休みながら歩き、日が暮れるまでに辿り着いたのが強羅付近。早川沿いに左岸を歩いて来たけど、ここらで渡った方が良さそうだ。
もちろん橋も無いので、濡れる覚悟で渡ろうと考えたら、
「魔法で岩を出せ。それを飛んで渡ればよかろう」
「さっきやった魔法だね。クリエイトロック!」
ちゃんと岩が出た。ただし狙いと少しずれて。ずれ方のパターンが一緒なので、2つ目からは狙い通りの場所に出せた。
「とい」
無事に岩に飛び移ることに成功。続けてジャンプで、川の向こうへ。やはりこのハコネの体は身体能力がとても高い。助走点けて飛んだら10mくらい飛んだ。これがレベル101の力か!
「次は我じゃ。そりゃー」
良い水音を立てて、ハコネが落ちた。
「お主の体、貧弱すぎじゃろう」
「普通だよ」
「まったく。レベル1は、仕方がないのう」
枯れ木を集めて、弱く出したファイアボールで燃やす。濡れたハコネを乾かしておかないと、僕の体が風邪をひく。
「風邪を引いても、お主が魔法で治してくれたらよい。神の力をもってすれば、なんてことはない」
少し暗くなってきた。今日の移動はこの位にするか。火を囲んでのキャンプ気分だけど、冬にするものじゃない。でもこの星の綺麗さはや静けさは、日本では見ることが出来ないものだ。
そんな静けさを楽しんでると、草を誰かが踏む音が聞こえる。
「ハコネ、この辺に誰か人は住んでる?」
「言ったじゃろうが、住人はおらんし、来る者も滅多におらん」
「じゃあ、この近付く気配は?」
誰か、何人もが近付く気配がする。
「我には分からんが、そうか、この体の感覚は、その程度なのだな。不便じゃ」
度々ディスが入るけど、特殊能力とか無いから。それが普通だから。
「何かがいるのかを知りたければ戦略ビュー、何が来ているか知りたければ戦術ビューじゃ」
戦略ビューで見ると、このあたりの地形とそこに光る点が見える。緑の点が2つに、囲む赤い点が多数。
「戦略ビューは、自分と仲間が緑の点、敵が赤の点、その他が青い点じゃ。赤い点が見えるか?」
「見える。緑の点を囲んで多数」
「なら、次は戦術ビューで身の回りを見てみるのじゃ。暗くても見えるはずじゃ」
今度は戦術ビューか。念じると、視界にマーカーが現れる。そこに書いてあるのは、
「スケルトン レベル35」
「ほう、それなりの冒険者のなれの果てじゃな。死して黄泉に行けぬとそうなる。弔いと思って天に還してやれ」
元人間でしょ、天に還すとか、そんな簡単に。さらに何人もが現れる。
「火を使ったから、人間が居るかと寄って来たのじゃな。残念だったな、ここに居るのは人ではない。神じゃ」
たき火に使ったファイアボールを使うも、慌てていたのでずれて飛ばした。偶然その位置にもスケルトンがいたので、結果オーライだったけど。
続けて火の玉を飛ばすのだけど、当たらない。スケルトンの動きが良い。
「元冒険者のスケルトンじゃ。そりゃ、避けもする」
魔法が当たらないならと、たき火にするには長くて使わなかった木の棒を振り回す。
「やっぱり魔法より物理だよ。これなら避けられない」
当たって一旦バラバラになっても、また組み上がり襲って来る。
「これ、どうしたらいいのさ? キリが無いよ?」
「範囲魔法で再生を止めて殲滅じゃな」
天に還すが、殲滅になったよ。酷い神様である。
「どんな魔法?」
「ホーリーフィールドじゃ。お主を中心に、アンデットに効く円が出来る」
「ホーリーフィールド!」
すると地面が青く光り、その上に居るスケルトンが動きを止める。
「ほれ、効いておる。今のうちじゃ」
「とりゃ、でい、とお」
掛け声は効果あまり無さそうだけど、威力が上がってるような気がする。
「練習じゃと思って魔法も使わんかい」
「ファイアボール! ファイアボール! ファイアボール!」
「動かんでもこんなに外すとか、お主どうなってるんじゃ」
当たれば一撃。制御する僕のセンスはともかく、能力は高いのだ、この体。
「お主は魔法のセンスが無さすぎじゃ」
魔法を諦め物理攻撃。魔法少女風だけど、物理で殴る方が得意!
食らったスケルトンは、人の形を成さなくなっていく。後に残るのは、大量の骨。
「終わりじゃな。ところでお主」
「はい?」
「我を治してはくれんか? 骨も折れてしまっておるし、リカバリーで頼む」
ハコネin僕の体、重傷。
「リカバリー!」
「スケルトン、復活しない?」
「フィールドの効果が消えたら、するぞ。普通はターンアンデッドで土に返すのじゃ。試してみるのじゃ」
「ターンアンデッド!」
散乱する骨は何も変わらない。
「やっぱりか。ターンアンデッドは中級じゃからな。どうしても初級しか使えぬようじゃ」
「他の方法はないの?」
「聖別された墓地に埋葬するしかないのう。オダワラまで連れて行くか。ちょっとお主の部屋を出してくれ」
ハコネが言うままにドアを出して、部屋に戻って来た。外で寝るのは寒いので、ここで寝よう。でも食料はどうする? 冷蔵庫はもちろん動いているけど、冷凍食品と保存食が尽きたら困る。
「ほれほれ、運ぶぞ。お主も手伝え」
「運ぶ? 何をどこへ?」
「この骨を全部、お主の部屋にじゃ」
今日は僕が寝る場所じゃなく、遺骨が寝る場所になるそうです。やめてそれ!