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11-11 覚悟の理由

「あれはお人好しってレベルじゃ無い。馬鹿だ」

「おいおい、良くそこまで言えるな……」

「俺は配下でも何でも無いからな」


 夕方になると行き来出来るサクラさん達はあちらの世界に戻って行った。この基地に残ったのは、俺と母さん(マリ)、そして叔母さん(アリサ)の戻れない組だ。そして、囚われ(?)のマルコ。

 サクラさんから言われた俺の役目は、翌朝までマルコの様子を見といて、というだけ。情報を聞き出せとか、何を話して良いかは俺に任せる、との事だ。話して良いかどうかと言っても、向こうの世界の状況はサクラさんがペラペラしゃべってしまい、あまり隠す事が無い。もっと駆け引きとか無いのかと思うが、別の意図も感じる。それはマルコにも伝わっているだろう。


「しかし、そんなお人好しでも、大魔王なんて呼ばれるからには、それなりの出来事はあったのだろう?」

「誰かの命を奪ったという話は…… 戦争の中で敵軍には犠牲が出ているだろうが、それ以外では聞かないな。むしろ他の魔王の連中がヒドい」

「魔王の連中? どんだけ魔王が居るんだ、お前の世界」


 どれだけ居るだろうか?

 魔王としか呼んでないエドの王、スライム好きの西の魔王、海外から戻ってきたナガオとか呼ばれてる魔王。あと武田の王も魔王以上に魔王らしい事をやっているな。


「大魔王と何人もの魔王が攻めてくるなんて、俺は酷い時代に生まれちまったもんだな。なんとか穏便にお帰り願いたい所だが」

「あっちもあっちで、何もしなければ世界の終わりだからな。生き延びる為には、新天地を得るしか無い」

「お前達6人が来るだけなら、どうって事は無いんだがな……」


 そんな話をマルコとしていると、かすかな物音。音がしたのは、母さんと叔母さんが寝床にした部屋だ。


「念のために確認するか」

「レディの寝室に踏み込むとか、そんな悪行には喜んでお供しよう」

「いや、俺にとっては母さんと叔母さんだから。身内だから」


 エルフは体質的に見た目が若い期間が長い。おかげで親子でありながら、見た目の年齢はどちらも若いなんてことはざらにある。まあそんな訳で、俺は本当に若いが、母さん達はそこそこ大人(70代)だ。前世の俺の感覚で行けば、熟女どころじゃない年齢。同じく転生者な彼女たちに言うと、血を見る羽目になるが。


 この基地には多くの部屋が有り、俺達がいる大部屋を囲むように配置されている。本来は1部屋ずつ8人が泊まれる様に作られているが、その部屋を2人ずつで使う事にした。

 レディの寝室というやつなのだが、扉は開け放されている。何かの異変があった際に早く気づけるように、との事だ。その部屋をちらっと覗き込むが、不審者が居たりとか、おかしな事はない。

 問題ないから戻ろうとしたとき、かすかな声。


「スロ…… 逃げて」


 確かに聞こえた、母さんの声。俺に、逃げろと。しかし何も起きておらず、母さんも眠っている。どうやら、ただの寝言のようだ。

 静かに元の部屋に戻り、マルコと席に着く。


「寝言で逃げろって言われてたな」

「よくある寝言だ。自身が経験した悲惨な出来事に、俺も巻き込まれていて一緒に逃げる夢を見るらしい。夢の中で、俺は子供に戻ってるそうだがな」


 悲惨な出来事というのは、前世での死の間際に経験した出来事らしい。今回の異世界渡り実験に3人で挑むことを提案したのも、世界の終わりを見たくない、見せたくないからだ、と。

 ちなみに俺も前世の記憶があるが、語るような悲劇を経験したわけじゃない。


「日頃はクールにしているのに、ああやって夢の中でも息子を守ろうと頑張ってしまう母だ。それはこの世界の人達も同じだろう。それは俺たちも分かっているつもりだ。誰にも何も迷惑をかけずなんて事は出来ないだろうが、最善を尽くしたいとは思ってる」

「そういう話には弱いんだ。守ってやりたくなっちまうじゃないか」


 そう言ってマルコが語ったのは、孤児院を手助けしているという話。戦災や魔物の襲来、天災などで、この世界には多くの孤児がいる。そのような孤児に出会ったら、彼が働いている教会の孤児院に連れて行っているそうだ。

 そんな人が命の危険があるこんな任務になぜ来ているのかというと、戦災を元から絶つ事に繋がるならと引き受けたそうだ。彼は、戦争が起きるのを防ぐために来た。


「だがあいつは、戦争が起きて、それを出世の機会にしたいのかも知れないがな」


―――


「姉さん、しばらくぶりだ」


 小田原に行くと、マルレーネが具合を悪くしていた。食欲がない状態が続き、力が入らずあまり寝床から起きられないと。だけど、鑑定によっても、病気や呪いがあるわけでもない。

 僕はこういうのを知っている。祖母がかつてこんな状態で……逝った。医者はそれを、老衰と説明した。

 そんな状況だったので、秦野にハンスを迎えに行った。ハンスもマルレーネ同様に少し弱っているが、こちらは致命的なレベルではない。そこでハコネと僕の扉を通って、小田原に来てもらったのだ。


「ああハンス、久しぶりね。ハダノの方は落ち着いてるか?」

「残念ながら、そうでも無い。女神が根ざした地を離れたく無いという者が多くてな。その女神自身の言葉が、新天地で繁栄せよ、と言ってるにも関わらずだ」


 そんな非常時の日常的な世間話をして過ごす。多分これも、大事な時間になるだろうから。

 やがてマルレーネがうとうとし始めたので、マルレーネの部屋を出てその隣へ。お城の人がどこからか車椅子を持ってきた。椅子に車輪が着いたシンプルな物で、それにハンスを座らせて氏綱さんが押している。


「叔父様は当面こちらでお過ごし頂けますと幸いですが、ご都合はいかがですか?」

「姉さんが元気になるのを見届けるまで、お願いしたい」




 ハンスを連れてきて5日。朝は異世界5号に向かい、夕方には戻ってくる生活を続けている。異世界5号の方で密かに続ける計画を進めるとともに、マルレーネの様子を見るのも欠かさない。マルレーネはハンスさんが来てから少し元気が戻り、以前よりは食事もするようになっている。この感じなら、また元気な状態を取り戻してくれるんじゃなかろうか。


 ハコネはオダワラさんと共に、こちらの世界の人との対話を続けている。オダワラさんが小田原の町、ハコネは箱根に点在する村々を廻って、新しい世界への旅を受け入れさせるように伝えている。

 他の女神達も、可能な者は同じような事をしているそうだ。自分たちはこの世界から離れられない。この世界と運命を共にしようとしているというのに、そこに住む人々を1人でも多く異世界で生き延びさせようと、努力している。誰も自暴自棄になってならない。

 なぜそこまで出来るのか、ハコネに聴くのは何か気恥ずかしくて、オダワラさんに聴いてみた。すると、こういう答えだった。




 朝、マルレーネの部屋に向かう。いつもハンスが先に起きていて、マルレーネと話しているのだけど、今日は扉の前に言っても人の気配が無い。


「マルレーネ、入るよ」


 ノックして中に呼びかけても、反応なし。不安に感じて部屋に入ると…… マルレーネの姿も、ハンスの姿も無い。

 急いで城の人を呼び、城を捜索。マルレーネが外出時に着ていた服も靴も、そのままある。そして、ハンスも同じだった。どこかに出かける準備をした様子も無いのだ。

 結局、2人の足取りは全く掴めず、城から出た様子も無いのにどこにも居ない。もちろん、僕の扉を通ってどこかへ行ったと言うことも無い。念のために秦野にも確認したが、来ていないと。

 2人は一体どこへ? 神隠し? いや、神が探してるんだけど……


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