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11-10 世界をその肩に乗せられてしまった司祭

「まあ、長話になるから、座って話をしよう」


 手頃な物が無かったから、座るのに適した岩を4つほど魔法で作り出し、円形に並べる。

 僕の両隣にみさきちとリン、向かい側にマルコが座る。さて、この世界に来て初めての、権力側の人物との対談だ。


「大魔王と魔王が来たにしては、たった3人でお供も軍勢も連れずに、何だと言うんだ? 侵略に来たという訳では無いのか?」

「もしこれから非戦闘員1億人がこの世界にやって来ると言ったら、それは侵略と思う?」

「そりゃ、史上最大の侵略だな。その1000分の1でも充分だ」


 まあ、そうなるか。人口比で言えば、この世界に居る人数と匹敵するかもしかしたらもっと多いかも知れないし。

 この世界に1億人がやって来て食べていく為には、どこかを耕すしか無い。開墾するとして、農耕向きの土地は既に使われているとすれば、あとは奪うのみ。軍隊が来なくても、侵略に変わりは無い。


「そうは言っても、何か理由があるのだろう? 住み慣れた環境を捨てて新天地へ行こうだなんて、物好きしか考えない。そんな物好きだけで1億人も居る世界だなんて事、想像出来ん」

「まあ、そうなんだけどね。じゃあ我々の世界がどうなっているのか、そこから話そうじゃ無いか」


―――


「事情は分かったが…… さすがにその数が来るのは、受け入れられんだろうな。1億人が食って行くには、どれだけの土地が要るか。俺たちの国が1つや2つじゃ足りない。大砂漠が丸ごと農地になる位は必要だ」


 大砂漠というのは、大陸の半分を占めるどこまでも続く砂漠だ。大陸の残りの部分を数十に分割して生きているのが、俺たちの国を含めた諸国。そんな規模の新しい土地が無くては、1億人が入る余地は無い。砂漠を農地にするなんてのは俺たちには無理だが、異世界の魔法でそれが出来るならそこに活路はあるかもしれん。


 そんな対策を真面目に考えもしたが、実際の所は対策を俺が考える必要は無い。必要なのは、船に戻った連中が、安全に母国に帰れるだけの時間。それだけの時間を、俺がここで稼げれば良い。そんなわけで、このどうするべきかの議論を何日でも続けてやろうと考えている。

 俺は世界を救う勇者でも、異世界魔王の悩みを解決する賢者でも無い。ただの不良司祭だ。


「砂漠を農地にか…… 出来ると思う?」

「一時的に水を供給する事は、魔法で可能。ゴーラの膨大な魔力があれば、サハラ砂漠でも水で満たす事は可能。しかし、砂漠に水を()いただけでは農地にならない。土の中に住む生き物を連れてきたり、何年もの生き物の営みがあって初めて、砂が土になる事が出来る」

「岩や水を出す魔法はあるけど、土を出す魔法って無いのよね。生き物が居ないといけないなら、無いのは当たり前か」


 魔王達も俺のアイデアで真剣に考えている。それで良いのだ。見た目が少女だが、実際にそんな年齢なんだろうか。簡単に話に乗せられて助かる。


「……無理か」

「水耕栽培はまだ無理よね」

「やはり、犠牲はやむなし?」

「いやいや、待て待て。そんな簡単に諦めないでくれよ。そうだな……移住者が土も持ってくるってのはどうだ?」


 人間1人が生きるのに必要な畑がどれだけか、こいつらが知っているだろうか。もしよく知らなければ、このアイデアで暫く時間を稼げるだろう。


「ところで、そろそろ腹が減ったんだが、飯にしないか? お前達も飯は食うんだろう?」




「この3人は? 見た目は俺たちのよく知るエルフ達と同じだが」


 ミサキと名乗っていた女がどこかに飛んで(・・・)行き、連れてきたのは男女女という3人組のエルフ。


「アリサです」

「こっちにも同族が居るのか。それは興味深い。私はマリという。研究者だ」

「スロです」


 さらに仲間が居たというのは気付かなかった。今後1億人も連れて来ると言うからには、もう多数こちらに来ているのだろう。このエルフ達にしても、いつの間にか紛れ込んだら見分けがつかない程に、大陸のエルフと差が無い。いや、6人ともが、大陸に居ても違和感を持たない見た目をしている。

 つまり、こいつらの仲間が既に侵入していたとして、俺たちは気付く事が出来ない訳だ。とっくに侵略は始まっていたのかも知れない。


 連れてきた場所は、俺たちの宿舎だ。緊急だったので物資も最低限しか持たずに引き上げたのだろう。食料などは残されている。


「見たところ、ここに居たのは20人程度か」


 マリと名乗ったエルフが、ほぼ正解を言い当てる。寝床でも見たなら分かるだろうが、どこを見てそう思ったのか。

 何故分かったのかと問いそうになったが、それを言っては正解だと知らせる事になる。ここで知らせた情報がどんな問題を起こすか分からないからには、余計な事は言わないに限る。


「あるのは干し肉とライ麦のパンだけだが、我慢してくれ」

「それだったら、場所を借りて私が料理しても良いかな?」

「それは構わないが……」


 アリサと名乗っていたエルフが、調理場に向かう。それを止める気は無い。面白いじゃ無いか、異世界のエルフ料理を食べられるとか。

 材料なんてろくな物が無かったはずだが、どこかから取り出したタマネギと何か良く分らない物を刻んでいる。そして、いつの間にか湯が沸いている鍋にそれらを入れる。他にもどこから取り出したかも分からない材料を次々と出しては、調理していく。


―――


 もしかしたら、この世界では認知されて無い食材だったのだろうか。どうもマルコはジャガイモの事を何なのか知らないようだ。

 このジャガイモはこの島の中で自生しているのを見つけた物で、現代の品種とはかなり違うが、同じ様に食べる事が出来る。特に毒も無いようだった。

 そしてアリサが作った料理は、ジャガイモとタマネギを煮込んだスープ。まだスパイスを発見出来ていないので、味付けは素朴。干し肉を幾らか頂戴して、そこから出た塩味が効いている。


「さて、食べながらで良いんだけど、マルコさん」

「何だ?」


 本当に食べながらで答えるマルコ。


「お仲間の船が大陸に戻って、誰かを連れてくるまで、何日かかる?」

「ぶふぉっ」


 食べ終わるまで待てば良かったか。

 さっきまでのやり取りで、結構無駄話の割合が多いのを感じてた。マルコが残った時のやり取りを見ても、時間稼ぎの為にそうしているのだという事は明白だ。だからと言って、それを邪魔するつもりは無くて、存分に母国に行って情報を伝えて貰えばいい。

 実は船には、不可視の状態でゴーラの一部を乗りこませている。彼らがどの様なやり取りをしているのか、スライム通信網で情報は入るようにしてある。

 異世界から魔王が来たら、その報告がどこに届けられるのか。そのルートを知る事で、誰を交渉相手にすれば良いのかも分るという物だ。とは言え、あまりに長く時間が掛かるようだと、あちらの世界がタイムアップだ。そうで無い事を期待したい。


「暫く時間が掛かるだろうけど、その間は今後の良い関係の為に、情報交換をしようじゃないか」

「俺は仲間を売るような事はせんぞ……」

「どうしても敵だと思うなら仕方が無い。でも、この世界の人々と敵対しない様に僕らを誘導した方が、世界を守る事になるでしょう?」


 そう言うと、マルコは黙って、静かにスープをすする。

 きっと、どの様に誘導すれば最善の結果になるか、考えているのだろう。

 マルコは中々面白そうだ。そして、これからのやり取りは、これは異世界5号の人々とどう付き合うか、それを探る試金石になりそうだ。


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