11-5 プロパガンダ
「ルールの破壊とまで言った割には、成果は抜け道の発見か」
「結果として助かるなら、そんな言葉の差は良いじゃないか。サクラ達の成果、俺は評価する」
例によって外交の機能で集まった5人の仮想会議。
大言壮語だった点をチクリと突くジョージBと、フォローを入れる長尾。
長尾は基本、年下女子には甘い。今の僕は、中身はとにかく、外見はそういうヒットするカテゴリーに含まれるので、こういう扱いになる。
そして、長尾の言葉に頷くみさきち。リンは黙して動かず、やり取りを聞いている。
あちらの異世界5号で分かった状況を説明すると共に、こちらの世界がどうなってるかも教えて貰う。
あちらの異世界は、言葉は全世界共通。「神様がくれた翻訳機能」って可能性もあるが、現地の人々の間でも問題無く通じてるので世界共通言語なのだろう。
人種については、人族が居たりエルフが居たり、こちらの世界と同じ。ここまで似通ってくると、自然発生した人類では無いのだろうと推測される。全部どっかの神様が同じテンプレートから作り出したのだろうか。でもその神様、テンプレ通りで言葉さえ同じ世界を作るとか、横着すぎやしませんか?
こちらの世界は、内乱や反抗などの混乱が継続中。内乱の方は、ジョージBが実力行使で対応してるが、あの戦闘機もどきが中々に手強く、手を焼いているそうだ。
長尾は大陸外で同じ混乱が起きて居る事に対応中だが、内乱までは至っていない。科学技術を奪われ、それを取り戻して反抗してくるこの大陸の方が状況は悪い。
「ラジオ局からプロパガンダ放送が始まってやがる」
電波はこれまで通じなかったのが、月が無くなったら通じるようになった。月からの魔力供給が途絶え、魔力がゴーラから供給される様になったら、電波に乗るノイズが変化したそうだ。今では、AMラジオが使う電波、一般に中波と呼ばれる電波は、かなり遠くまで届く。それを利用し始めたのが、反乱勢力側のラジオ放送だ。
以前ジョージBが科学技術を推していた頃に、ラジオを試験して断念していた。その資産が残っていて、こんなに短い準備期間で放送が開始できたのだろう。
「何を放送してるかは、私が聞いてる。世界の終わりというのはデタラメで、女神と魔王による人類支配の方便だって」
「信じる信じないは自由って事で、そいつらまで救う必要は無いだろ」
「だが、周りが反体制で加熱してると、本人の意思を示せない可能性もある。本当に本人の意思を確認出来るなら、救いが欲しい者だけ選んでも良いんだろうけどな」
放送を聞いていたのは、マリ達とラジオを作ったリン。ネットの落書きレベルに噂話や誤解と誇張に満ちあふれた、電波に乗せるに値しない物。しかしそんな放送が電波に乗って、関西から中部で聞ける状態だ。
ちなみにマリとアリサはそのラジオ放送を聞く為に、渥美半島に基地まで作ったそうだ。そこへの移動は、みさきちシスターズ5号に扉を置いて貰っている。
ラジオ放送を聞いて、電波ジャックで対抗しようとリンとみさきちが画策中だ。マリとアリサはラジオからの派生で、暗号化通信が可能な通信機を作ろうとしてる。ラジオを自作するエルフ。なんか新しい。
「ラジオで放送の手も、ここぞという時に使いたい。準備に掛けられるあんまり時間ないけど、よろしくね」
「こっちは問題無いか。さすがは魔王」
「褒めても何も出んぞ。ここの連中は、生きる事に貪欲だ。そして、冷静だ。月が無くなったとて、それがどうしたと言わんばかり。水棲の連中は、ちょっと対応が必要だがな」
江戸の城に居る魔王に連絡を入れると、異世界移住どんと来いだと。そもそも魔王の配下は、地下暮らしが多数派。代々地下暮らしをして来て、地上を支配するようになった今も、生活を変えていない。そして、地下に住む者にとっては、月が有ろうと無かろうと関係ない。むしろ暗い新月の夜は敵に発見されず安全と教えられてきており、月明かりが無いのを歓迎するくらいだ。
海に生きる者は、月が無くなる事で潮の満ち引きが無くなってしまったため、生活環境の変化に対応しなくてはならない。大潮の時期に産卵する生物だと、繁殖に問題が出てしまう。その辺を別の手段で補う必要が出ているそうだ。
「ところで、反乱軍がラジオ放送を始めたって話、俺たちも放送出来ない物か?」
「マリとアリサが送信機を作ってるけど、地下に住んでると受信出来ないよ」
地下鉄でラジオが聴けたり電話が使えたりするのは、トンネル内に電波を再送信する設備が付いているからだ。本来地上の電波は、地下にはあまり届かない。地下の住人に利用させるなら、有線放送にした方が効率的だ。
「いや、戦いが止んだとは言え、人間との間には和解の雰囲気が無い。そこで、ラジオ放送だ。姿が見えず声だけなら、ここの連中も人族も同じ。新しい繋がりを作り、和解への道を歩みたい。うちの連中も、そういうのを望む奴が出て来たからな」
音声だけである事が、交流の機会を作れると。確かに、その通りかも知れない。魔王の提案、ぜひ試そう。
しかしまあ、魔王と魔の者はラジオを和解に使おうとし、人間が争いに使おうとするって、何だかね。人間もそもそも争いが無ければ交流に使うと思うけど、戦争は良い物さえ良からぬ事に使わせる。
「あと、例の件だが……」
そして小田原に戻ると、ハコネとオダワラさんが住民に囲まれていた神殿へ。
あの時は散々な状況だったけど、今はかなり落ち着いて、神殿には静けさが戻っている。
「落ち着いて良かったね」
「話を聞かぬ連中が来なくなっただけじゃがな」
「でも、聞いてくれる人は増えましたよ。姉さん頑張りましたから」
オダワラさんがハコネの頭をなでて、ハコネがそれを振り払う。
ここからは、他の人には聞かせない方が良さそうな話があるから、僕の部屋に移動しよう。
「それで、どうじゃった?」
「向こうの世界を見ていると、違いが無さ過ぎてどっちの世界に居るのか分からなくなるね」
「私達は行けないですが、映像とかで見る事は出来ませんか?」
向こうの世界に行くと、僕は扉を出せなかった。扉を出せたら、そこを通ってハコネ達も移動出来ると思ったのに。そして扉が使えれば、この部屋にあるタブレットを持って出られるから、写真や動画を撮影する事も出来るはずだった。
「絵でなら、何とかなるかな。確かリンはそういうの得意だったはず。でもリンは、ラジオの事で忙しいから、今は無理かな」
「急ぐ訳ではないので、時間が出来たらお願いします」
リンの絵って、風景の写実と言うよりは人物の特徴を捉えたマンガチックな感じのだけど、出来るかな。
「それで、この世界からその世界に、多くの者を連れていかねばならぬのじゃが、方法は決まったのか?」
「それね。思い付いた方法を試そうと思ってるんだけど、もし失敗したら無事で居られなくて、どうしようかと」
「どんな方法なのじゃ?」
ハコネ達に簡単に説明する。やることは、ハコネ達にはお馴染みの方法だ。
「ふむ。出来そうに思うが、こちらの世界でその条件に適した者は……」
「あの人はどうでしょうか?」
そう言って、オダワラさんが指さした先。そこには押し入れがある。
押し入れ……? 誰の事かと少し考え、忘れかけてたのを思い出した。
その押し入れの中、そこに布団を拡げて寝かされている者が居る。それは、天上から運んできた、本来はジョージBのであるはずの身体だ。
「えっと…… もし失敗したら、元の身体に戻れなくなるんだけど」
「お主、まだ戻るつもりがあったのか?」
いや、あるって。




