表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

190/215

11-4 まじないの言葉

「ラガシアからの旅人め。よくもまあ、そんな遠い所から。1人だけか?」

「ああ。見ての通り、1人だ」

「では、詰め所で話を聞かせて貰おう。それで問題無ければ、入市が許可される」


 背の低い衛兵について行く。異世界から来たというのは表に出さず、遠くにあるというラガシアなる国から来た事にしてある。

 ここはこの異世界5号にあるキエサ国。最初に辿り着いた源泉から海を渡り、到達した大陸にある国の1つだ。


 何故こんな場所でこんな事をしているかというと、この異世界5号に入れる者が限られるからだ。その中で、旅人として異世界5号を調査するために、我々4人が選ばれた。

 この世界では女の旅人というのはとても少ない。相当に治安が悪いのだろう。だからサクラや美咲、リンが来るのでは目立ってしまう。そして、魔王、Bの野郎、そして長尾は多忙につき無理。

 要するに、暇な男4人で行ってこい、という訳だ。4人というのは、ルイ、ガイウス、ヨリトモと私オットーだ。それぞれが、別の国に潜入して、活動を行っている。


 元々の姿は、全員がほとんど同じだが、この世界では違う。ルイは長身細身で色白、ガイウスはがっしりとした色黒の中年、ヨリトモは東洋系の若者、そして私は顎髭を生やした中年の身体だ。そんな事が出来るのは、この世界に来る為にゴーラに溶かされ、そして再生されたからだ。再生時に、ちょっとデザインをいじった。まるでMMOのプレイヤーキャラを設計するかのような、そんな身体の改変。

 その様にして、うっかり同じ姿の別人があちこちに出現という、怪しまれる事を避けている。


 リンが放ったスライムは、5日程で世界の簡易マッピングを終えた。空高く、成層圏まで打ち上げられた気球スライムが、源泉にいるサクラ達に情報が集まっている。気球スライムが観察した地上の情報、そして気球スライムが通信網になり集めた地上スライムからの情報だ。


「各地に危険なスライムが多発して、大変だっただろう?」

「我らが信じる神に、スライムよけの加護を受けているのだ。襲われる事は無い」

「そんな良い物があるのか。そんな加護をくれるのは、どこの神様だ?」


 地上スライムはかなり狩られてしまっているそうだが、アレは相当強い。この世界の人間は全体的に強いとは言え、一般人には相手しづらいだろう。

 我々が街で情報を流す事で、この世界の信仰をサクラに集めようとしている。これから行おうとしている、大仕事の為だ。




「伝承集なんて物は無いが、実際にその目で見た奴に聞いてきたらどうだ?」

「エルフの年寄りなら魔王との戦いまで遡る歴史を知ってるはずだ」


 酒場で集める噂話。男2人組に1杯奢ってやり、情報を集める。

 この世界にも色々な種族がおり、長生きなのはここでもエルフだそうだ。どうしてこうも、同じ特徴を持った人種が居るのだろう? 似たような世界ばかりでは、世界の創造主とやらもつまらないだろうに。

 そんな創造主の娯楽の心配はともかく、歴史ならエルフに聞けって事らしい。さて、この酒場にエルフは…… 見回すが、居ないな。


「エルフは酒を飲まないってのは、お前の所でも同じじゃ無いのか?」

「俺たちの国には、エルフは居なかったからな」


 出身地として使うラガシア国は、このキエサ国とはかなり離れた場所にある。だからいい加減な情報でも、嘘がばれにくいだろう。


「エルフなら、裏のボア麺屋に行くと良いぜ。そこの先代のオヤジが、お望みの昔をよく知るエルフだ」

「そうか。その店が閉まる前に、早速行ってみるか。この酒代で好きにやってくれ」


 そう言って、この世界で広く使われる銀貨を渡す。この銀貨は、地上スライムが手に入れてきた軍資金だ。どうやって得たのかは、敢えて聞かない。正当防衛(・・・・)の報酬だと良いのだがな。




「いらっしゃい」

「ほう、この香りは! 1杯くれ!」


 店に入った途端、馴染みのある香りに包まれる。これは正しく、とんこつラーメン。

 なるほど、ボア麺ってのは、イノシシでだしを取った麺の事か。

 そして話に聞いていた様に、店主はエルフだった。ただし、見たところは若い。見た目で年齢が分かりやすい種族では無いが、向こうの世界に居たエルフを基準にすると、まだ100歳まで行かないくらいか。


 思わず目的を忘れて、麺をすするのに熱中してしまった。老エルフを探すんだったな。


「本当に旨いな。代々店に伝わる味ってやつか?」

「代々って、俺で2代目だよ。3代も前になると、この街も無かったからな。親父がここに店を出して、150年だ」


 普通そんな老舗ラーメン店は無い。それは良いとして、都合良くその親父さんについての話題に持って行けたな。

 親父さんの事を聞き出していくと、魔王と戦った時代の生き残りで、故郷が滅びてこの街にやって来たそうだ。


「昔話が聞きたいなら、呼んでやるぜ」

「それは良いな。ぜひ聞きたい」

「おう、分かった。オヤジ~!」


 出て来た中年エルフに話を聞くと、かなり重要な情報を多く持っており、4人で聞き入る事になった。

 この世界のエーテルの源泉は、大魔泉と呼ばれており、前の魔王はそこからやって来た。魔王討伐後、やがて次の魔王がやって来るのを防ぐ為にそれを封印すると、世界から魔法が失われてしまったそうだ。まあ、そうなるか。

 魔法が使えない悪影響は魔王による被害以上に大きく、議論の末、封印は解かれる事になった。それ以来、異常が無いか監視はされるものの、大魔泉を封印という意見は少数派。幸いにも魔王はその後160年現れず、監視もいい加減になっているのでは無いかと心配しているそうだ。


―――


 スライム通信網を使って、オットー達からのレポートが届いた。


「ここから魔王が来たって話があるのか。僕らの居た世界に長尾リンが来たみたいな事件がこの世界にもあって、その誰かが魔王として討伐された。そういう風にこの世界の歴史では語られてるんだね」

「その魔王、何やってそう呼ばれたのか分からないけど、やはり違う世界から来るのは厄災という事が多いのかしら」

「そして、私達がやろうとしている事は、この世界にとっては厄災となる可能性が高い。まさに、魔王だ」


 異世界5号の源泉、この世界の人が言う大魔泉近くには、砦が建っていた。数千人は滞在出来そうな立派な物で、それが監視をしっかりやっていた頃の設備なんだろう。恐らく徐々に監視の規模が小さくなったのか、半ば廃墟になっている区画もある。今は誰もおらず、残された物の状況からして、半年くらいは無人だった様子がうかがえる。


「そして、ギルドに出ていた掲示で、この砦に観察隊を派遣する為の募集が掛かっているんだって」

「てことは、しばらくしたらまた誰かが来るのね」

「どうもスライムが大量に出現して、魔王復活かと心配する声があるんだとか」


 ある意味、正解。


「そして、作戦は順調に進行中」


―――


 その言葉はどんどん普及して行った。多くの旅人が、旅の中でその効果を実感して、他の者へ伝えていく。そんな事が、あちこちの街で繰り返される。

 今日も新しい街で、その言葉は旅人から街の者へ。


「スライムよけの加護?」

「それがあれば、スライムに襲われないのかい?」


 実際には、スライムは攻撃してくる者だけの相手をしているはずだが、勝手に凶暴なイメージが付いているようだ。

 この際、その誤解も利用して、目的に合う情報の流布を進めてしまおうと思っている。この作戦は、サクラ達も了承済みだ。


「そう、私がとある街で旅人から聞いた“まじないの言葉”を唱えれば、スライムは襲ってこない。さあ、教えるから、他の人にも教えてやって欲しい」


 ありがたい“まじないの言葉”を聞こうと、街の者が旅人に傾注する。


「まじないの言葉は、こうだ。“サモンゴーラ!”」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ