11-3 異世界探訪記
「ゴーラが取り込んだ源泉はどこにあるんだろう?」
「以前の源泉は、エーテルが湧き出す穴みたいな物だったけど、今はどんな状態だろうね」
「見た事有るのはリンだけなんだし、お願いね」
再びのゴーラダイブで、ゴーラの中でリンやみさきちと相談する。相談と言っても、姿の無い僕らの意思がそこに有り、語り合ってるような感覚がする。夢の中でどこからともなく声が聞こえているような、そんな感じ。
見る景色は、どうもゴーラの感覚と同調しているようで、巨大なゴーラが見える場所はどこでも見える。そしてその視界の中には、ゴーラ自身の内部、エーテルの源泉もあるはずだ。
あるはずなのに見えないという事は、形ある物では無くなっているという事だろうか。
「目で見て感じる物じゃ無いのかしら」
エーテルを感じるにはどうしたら良いのか考える。人間の感覚でなく、ゴーラが持つ感覚。ゴーラの感覚というと、何かを取り込む時の、触り心地と味だろうか?
そう思って感覚を探ると、濃い味のように感じる場所がある。そして、それが引き起こす誘惑。
「この感覚、一緒に感じてる?」
「分かるわ」
「こういう物なんだね」
そこに有るのは、エーテルに対するゴーラの欲求と喜びか。
触ろうとすると、みさきちとリンから待ったが掛かる。
「もし源泉に取り込まれたら、戻ってこられないかも」
「安全策として、ゴーラの一部でそこに入るのを提案する」
リンが作り出したスライムを起源とするゴーラは、無数のスライムになる事が出来る。その一部だけで、源泉に入ってみようという訳だ。
「なら、こうしよう。非分離、チェーンスライム化」
リンがそう念じると、異なる景色が感じられる。
「触手のように、ゴーラの一部だけを延ばして、侵入させた。今見えているのは、源泉の向こうにある景色だね」
周りの景色は、いつか潜った遺跡に中のような、前後に続く空洞。そこはエーテルが満ちており、エーテルは前から後ろへと流れている。
振り返ると、渦を巻いて穴に流れ込む液体。これがエーテルの流れ、そして穴は、僕らが居た世界だろうか。
意識を向ければ元の世界の様子も見る事が出来るから、今ゴーラは世界の壁を越えて存在していて、僕らの意識もそのゴーラと一体。世界をまたがって存在している。
「あの時の、幹の中って事かな」
「その景色を私達は見てないけど、そんな感じかもね」
みさきち達は見てないから、僕がそうだと言えばそう思うしか仕方が無い。そんな事よりも、ここを見に来た目的だ。
「他の穴を探してみよう」
「そうだな。穴に入ってみて、違う世界が見えたら当たり」
視点がずるずると前進する。これがゴーラが触手を伸ばしていく感覚か。流れに押されながらも、少しずつ進む。すると、横方向に流される感覚があった。つまりそっちにも、エーテルの流出先、異世界があるのだろう。
「行くよ!」
そうやって、幾つもの世界を見て回った。
僕らの世界ではエーテルの流入口が月にあったけど、世界によっては海底にあったり地中にあったり。ゴーラの触手で各世界の文明探しをするのも、少し時間が掛かる。1つの世界で、体感時間で1日くらい掛けている。
最初に見た世界は、残念ながら文明は滅んでいた。
大地に緑は無く灰色で、海も魚や海藻は見当たらず、人の目に見えるサイズの生物が一切居ない。ゴーラの感覚を通じて、僕らの世界と比べても異常に暑い事が分かった。
「地球温暖化?」
「そんな生やさしい物じゃ無いね。どれだけ工業化して二酸化炭素を出し続けても、文明どころか生命の姿が地上から消える程にはならないよ。気温40度を超える砂漠にも、サボテンは育つんだから」
やがて灰色の地面と生物が見当たらないのは、「酸素がなくなった世界」だからだと分かった。そして温暖化の原因は、メタン。地球で心配してる地球温暖化とは、ちょっとレベルが違う事態が起きて、酸素を必要とする生物が絶滅。そんななれの果てな世界みたいだ。
次に見た世界は、全てが凍り付いた世界。源泉がある月から見た地球が真っ白で、北極から赤道まで全部が凍った世界だと分かった。
分厚い氷の下には、こうなった理由が眠っているのかも知れないが、それを掘り起こす時間は無い。次に行こう。
その次は文明も生命もちゃんとある。とても発展していて、飛行機も飛び交い、宇宙まで手を伸ばそうとしている。
だけど、ダメな理由があった。その世界で戦略ビューを見ると、ちゃんとターン数が出る。そしてその残りは、あと10ターン。ちょっと引っ越し先としては適していない。
この世界の文明もどこかに逃がしてやりたい所だけど、残念ながら今は余裕は無さそうだ。
ちなみに、灼熱の世界も凍結の世界も、その寿命はあまり長くなかった。
そうやって見て回った異世界の中で、初めて見付けた希望を持てそうな場所。
残りのターン数の表示が存在しない。これは相当余裕があるという意味か、それとも終了という縛りが無い世界か。
文明レベルは、帆船はあるが蒸気船や飛行機は無い。城はあるが高層建築は無い。
「もしかして、超優良物件?」
「少し踏み込んで、様子を見てみましょう」
文明が息づく大陸から離れ、ずっと沖合にある火山島。その中にある火山の奥深く、そんなところに源泉。いや、温泉じゃ無いんだし。
そんな場所で、触手の先を分離してスライム個体を作成。作り出したスライムに海を越えさせて、大陸に上陸。そこで情報を集めさせる。
「なんかこう、すごく、見覚えがある感じ」
「私もそう思う」
僕らがずっと前に見た、中世に様な雰囲気の都市。街には神殿があり、武器を持った戦士がうろつき、魔法使いらしき人も居る。道行く人々は、人間らしいタイプ、獣の耳が生えた人種、それに尖った長い耳。
しかし困った事に、スライム達はかなり狩られてしまっている。分離したスライムは以前リンが使役したのと同じ様に、かなり強いのにも関わらずだ。
「この世界にいる人達、かなり能力が高いのかしらね」
そして気付いた、この世界とこれまで見た世界の違い。この世界、重力が強いのだ。高い所から落ちる速度が、僕らの知る世界よりも速い。
その強い重力に打ち勝つ為、この世界の生物はかなり強いのだ。
「この世界に移住してきたら、元の世界の住人は弱くて生きていけないかもね」
「そもそも重力が相当違うのだから、歩く事にさえ不自由するんじゃないだろうか」
とても良い世界に見えて、元の世界との差がそんな所にあったとは。
しかし、時間制限という大きな敵と比べたら、まだ救い様があるのでは無いだろうか……
今回見付けた、移住先として有力な異世界、仮の呼び名は異世界5号。
ゴーラの触手はそこに伸ばしたまま、一旦僕らの意識は元の世界に戻し、姿を取り戻す。そうやって、他の皆と相談するのだ。
「他の異世界を探す活動は続けるけど、まずは良い候補が見つかったから、そこへ全ての人々を連れて行く方法を考えるよ」
「じゃが、源泉へ行けるのは、ゴーラと一体化出来る者だけじゃ。他の者は行かれないのじゃぞ」
ハコネの言う通りの問題がある。それを克服する方法…… 異世界への転移とか、出来ないかな。他にも事例があるのだし。
いや、僕らは実際には異世界から来たのでは無かったし、アリサ達は転生だから元の世界では死んでいる。そういうのをやりたい訳じゃ無い。
残された時間は短い。この課題を解決しなくては、助かるのは僕ら僅かな者だけになってしまう。




