11-1 決断の時
久しぶりの、地上での生活。月へ出発したのが2ヶ月近く前で、波乱に満ちた時間だったので地上はとても久しぶりに感じる。
ちなみにここは、箱根の街にある館。月から帰って、まずは不在の間に有った事を確認中だ。みさきちやサガミハラさんから話は聞いてるけど、その人達が得やすい情報に偏るのは避けられない。だから街へ来て情報収集するのだ。
「そんな面白い物があるなら、ぜひこの目で観たいものだな」
今1番の話題は、ジョージBと長尾が岡山上空で遭遇したという、謎の戦闘機。
魔法を弾いてしまう為、最終的には体当たりして「レベルを上げて物理で殴る」を地で行く戦法で撃墜したそうだ。恐るべし、戦闘機を殴り倒す、長尾軍団。
そして、そう言う物があれば興味を持つのが、マリとアリサ。
「サクラさん、1機撃ち落として、持って来て下さい」
「それが、簡単で無さそうだ」
横から口を挟むのは、長尾達との外交に参加したリン。リンは一連の騒動で、21人力を得るに至ったけど、全然使いこなせていないらしい。あと、リンツーはゴーラの方に合体させているそうだ。ゴーラのサポート兼監視。あまりに巨大な存在になり、ちょっとした行動が大きな影響を及ぼす様になった為、以前より目が離せない。
「普通、戦闘機を撃墜したら、残骸から技術を研究出来るものだろう? それがその戦闘機は、材料の金属と石が残るだけだったそうだ」
「石?」
「その石については、正体不明」
それを聞いて少し考えて、アリサとマリが考えを示した。
「その戦闘機、一種の魔物なんじゃ無いでしょうか?」
「ダンジョンに発生するゴーレムは、倒すと材料の金属と魔石を残す。魔石は魔道具に魔素を供給する材料として、使い道が有る」
この魔道具という概念は、魔法の効果を発揮する道具という、ぼんやりと広いものだ。エーテルを消費して効果を発揮するもの、魔石から魔素の供給を受けて効果を発揮するもの、他に魔素の供給源が分からない物もある。僕らの扉に付けてある魔砲から、ヨコハマさんが再現していた地下鉄まで、様々な物が該当する。
「状況からすると、その戦闘機そのものがゴーレムと思われる」
「そんなのが居るの?」
「ゴーラになったあの機体を作る時、目標はゴーレムとして自律して動ける様にすることだった。達成には至らなかったけど。もしその魔石が手に入ったら、動作原理を解明してゴーレム作成に役立つ」
「完成したら、私にも1機……」
案の定、欲しがるリン。
そんな戻って来た日常だけど、実際には悠長なことは言っていられない。残る時間は54日。その間に、この世界の延命策を見付けなくてはならない。
「石と言えば、サクラの部屋にあった4つの石は?」
「石……? ああ、種か」
ウルモズルと呼ばれる、“世界を創造し、見守り、やがて壊す”存在。彼女(?)を訪問した際に、持ち出した種と呼ばれる物が、僕の部屋にある。見た目はただの石だ。
しかしあの時見たシーンからは、これはただの石で無い。終わった世界をウルモズルが吸収し、その後に残ったもの。何か特別な力がありそうに思うから持って来たのだけど、何も役立ててない。
「その情報を読み取れたら良いんだけどね。どうやって滅亡を回避しようとしたのか、参考に出来る」
「成功事例の情報が入るのが1番良いけど…… でも、滅亡に際して他の世界に脱出した事例とか、入ってるかも」
根拠の欠片も無い希望的観測だけど、良いアイデアが出ないから何かに縋りたい、せめてヒントが欲しい。
でも1つの世界を小さな石1つに記録出来るのか? ある世界に全てを記録しようとしたら、どれだけのデータ容量が必要? そう考えると、情報が詰まってるなんて希望的観測は、相当無理がある様に思えてくる。僕らが見る様なログファイル程度での情報なら、この石に入りそうではあるけど。
「種の情報を読み取るプロジェクトを始めるのはどうだい?」
「当てはあるの?」
「ゴーレムのプログラムが書き込まれた魔石を参考にして、石に情報を書き込む方式を解析してみようと思う」
リンとアリサとマリ。こういう事になると、力を発揮出来るトリオだ。彼女達に任せて、僕は魔石入手を頑張ろうか。
「で、この状況は何?」
ここは小田原の神殿。
一旦は無くなっていたオダワラさんの神殿は、オダワラさんが戻って以降、丘の上に再建すべく工事がされていた。それが僕らが月へ行って不在の間に完成したそうだ。
神殿とは言っても、立派なステンドグラスとかそういう教会風では無い。何十人かが入れる大広間と、少々の付帯設備があるだけのシンプルな建物だ。
そんな建物で、ハコネは信者(?)が多数いる大広間で、一段高い所に座らされている。その多数居る人達は、入口側と奥側に分かれて、大声で議論している。
神殿の広間に入った所で、状況を飲み込めずに奥に居るハコネを眺めていると、オダワラさんがやってきた。
「姉さんが月での出来事をここで話したら、不安な人が集まって来ちゃって。月が無くなったことで、姉さんを非難しても仕方が無いのに」
月の消失と天高く何かが見える状態は、長年親しんだ空を一変させてしまった。脱科学の社会変化もあって不満があった一般の人は、より一層不安を抱えている。それが原因で、西では反乱が起きてる程だし。
危険は無いから安心しろと言われても、安心させるだけの根拠が無い。そもそも、女神の信仰が廃れてしまっている昨今。人を守る者では無く、人を支配していた存在と思う人も居て、その様な人は疑いの目を向けて来る。そんな所に、この月の騒動があった。さらに、僕とハコネとオダワラさんはその場で関係していた3人だ。わだかまりを持つ人が、最も文句を言いたい相手が僕らだろう。
「でも姉さんは、不安な人にもちゃんと向かい合うって、困難な仕事を引き受けたんです。ゴーラの分は、自分が背負うって」
「ハコネ……」
ゴーラを大事にしてるハコネは、ゴーラへの非難も自分が引き受けるつもりらしい。
でも、根本的に悪いのは、誰だ? 異世界のリンだって、自分が居た世界が滅ぶから、仕方が無くやって来た。
根本的に悪いのは、世界が滅ぶ様な仕組みを作った誰かだ。
ウルモズル? 彼女は仕組みを作ったのか、仕組みを維持しているのか。でも仕組みを変えずに維持して、それを僕らに強いるのなら、同罪だ。
「決めた。世界が終わるなんてルールを、変えさせよう。ハコネが、ゴーラが、異世界のリンが、悪い訳じゃ無い」
「それをやろうとして、管理者の世界まで行ったのでしょう?」
「管理者にお願いして変えてもらおうってのは、無理だった。だとしても、変えなくちゃならない。期限の延期じゃ、やっぱりダメなんだ」
あの種から引き出さないといけないのは、滅ぼされた世界の情報じゃない。滅ぼされない為の方法じゃ無い。
滅びないルールに変える為の情報だ。
「期限迫る中、反乱の対処で忙しいってのに」
「それでも時間を割けと言うからには、よっぽどだろうな?」
外交で呼び出されたジョージBと長尾が、少し迷惑そうに言う。
「良いアイデアが出なくて、刺激が欲しかったところだよ」
リンは種から情報を引き出す方法を、ずっと考えていたらしい。
「全員呼ぶからには、何か面白いことでも思い付いたのかしら?」
みさきち7人組もまとめて呼び出した。そして、魔王やルイ達4人も。
「ルールを壊しに行く。力を貸して欲しい」




