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10-29 天の騒ぎと地の騒ぎ

 ハコネがゴーラと地上を目指してから、3日。

 急いで戻りたいと言う事で、ハコネは昼夜を問わずの強行軍で地上を目指している。何かどうしようも無い事があった時のみ、扉を呼び出して僕らに連絡するという事だ。そしてその連絡が無いから、順調だと信じたい。


 地上も宇宙も、色々な事が起こっている。


 リンは僕のパソコンを使って、幾つものプランを描いて、計算して、諦めるを繰り返している。その息抜きに、一緒に星を見ようという事で、玄関まで連れて来た。そして、扉を開き、宇宙空間を眺める。

 そこには、光る柱が次々と視界を通り過ぎていく。それはとても高速で、幾つと数える事も出来ない。それらは、地上の方から天頂方向へ続いている。


「光って見えるのは、スライムが太陽光を反射してるんだろう。柱と柱の間をつなぐ構造も見えるから、地球はスライムで出来た檻の中に閉じ込められた状態だね」


 リンも確信は持てないだろうけど、僕よりは理に適った解説をしてくれる。

 この宇宙空間に漂うのは、月の体積に相当する分のスライムだ。地球を覆うカゴになる位は、充分な体積がある。

 何かの構造物を形成するスライムは、ゴーラの一部となった物だ。それ以外のスライムは、ただただ宇宙空間を漂ったり、地球に降り注いだりという事になってしまう。そう言うはぐれスライムが居なくなる様に、全てのスライムを取り込むという仕事もゴーラは負っている。


「天頂方向の遠くを見ると、板状の部分もある。地球を囲むリングかな。万が一、我々が扉の外に出て、宇宙の果てまで飛ばされそうになった時、あの板の部分が受け止めてくれそうだ」


 ゴーラは、そうやって僕らを守ろうとしてくれているんだろうか。

 そのリングは濁った色をしている。スライムだけで無く他の成分も含むのかも。スライムは月を溶かしたんだから、岩石や金属も大量に含まれてたはずだ。


「これだけ変わると、地上が騒ぎになるのも仕方が無いね」


 外交を経由して、あちこちで騒動が起きている事が伝えられて来てる。関西で反旗を翻した勢力は科学技術を使っているため、個人の能力では負けていても戦力としては優勢だ。あちこちの拠点を奪取し、ジョージBの息子達の1人を担いでいる。形の上は、お家騒動ってやつだ。息子が父と戦うのは、戦国武田家と同じか。

 反乱を起こした側は、「文明再興同盟」と称して、他の勢力に外交攻勢を掛けているそうだ。みさきちにも参画の要請が来たそうだ。ちなみに、僕の所には参画の要請は来ない。最大の敵は僕である事になってる様だから。


 この武田家内戦が始まり、科学技術が再び使われ始めた事で、世界の終わりへのカウントダウンは2ヶ月になってしまった。武田・長尾同盟側は世界の危機を知って貰う事で帰参をさせようとしている様だけど、天には世界の終わりの様な光景が広がっていては、2ヶ月後の破局よりも頭上の終末に心を動かされてしまう。

 騒動は地球のあらゆる所に起きているけど、再び科学技術を持ち出してきたのは武田家の反対派のみだ。反対派が優勢な地域は、名古屋から大阪。そのエリアは元々科学技術を使った時期が長く、生まれた頃から科学技術があった世代も多い。科学技術が無い時代を知らない世代が大きな反発を起こしたというのが、ジョージBの考えだ。

 武田・長尾同盟で確立しかけていた大陸の覇権は、崩れかけている。力尽くでそれを再確立しようとしているそうだけど、広大な領域を再征服するのに掛かる時間は、1ヶ月や2ヶ月では済むまい。


 一方、みさきちと魔王の方は、特に問題無いみたいだ。どっちも科学が入ってきてなかったし、危機だからこそ団結しようと、リーダーが不安を抑える事に成功している。

 他の地域の情報は、まだ入ってきてない。戦略ビューで小田原付近を見ても敵を示す表示は無いので、何事も無いのだと良いけど。




 今日から7月だ。ログに刻まれるターンは、ついに898となった。世界の終わりまであと2ターン。状況は改善していない。

 以前よりも、地上で魔法が役立たなくなってきたらしい。ゴーラが源泉を取り込み、地上に降り注ぐ魔素が足りていないのかも。そんな状態で、魔法に頼る武田・長尾同盟は、科学技術を用いる文明再興同盟に対してあまり優勢で無い。

 僕が地上から月まで1ヶ月掛かって辿り着いたけど、ハコネは何日で地上にたどり着けるのか? 静止軌道まで行けば、この前作った基地がある。ハコネはそこを目指す事になっている。ハコネを迎え入れる為に、静止軌道の基地にはみさきちシスターズの誰かが待機しているそうで、そこからの状況が僕の所に伝えられてくる。


 今のところ、スライムは静止軌道まで下りてきていないそうだ。ゴーラよりも早く他のスライムが来てしまうという事は、そのスライムはゴーラの制御を受けておらず、そのまま地上に降り注ぐ。それを防ぐ事も、ハコネとゴーラに託されている。

 月の体積分あるスライムが、地球に降り注ぐとどうなるか? 答えは、厚さ43kmのスライムが地上を覆い尽くす事になる。ヒマラヤだろうと5倍富士山だろうと、全てはスライムの下に沈む。900ターンを待たず、世界の終わりだ。


「ゴーラには静止軌道までで、全てのスライムを捕まえて貰わないと」


―――


「伸ばした指先が、ついに届きました」

「そうか、長かったな。それで、我らはいつ着くのじゃ?」

「あと3日くらいでしょう」

「まだ3日もあるのか……」


 サクラ達と別れて、 降下しつつスライム達を併合していく事、17日。まさかそれ程掛かるとは思わず、手ぶらで来てしまった為、とても退屈な時間じゃった。何度扉を呼んで本を借りに行こうと思った事か……


 ようやく目的地に手が届く所まで来たのじゃが…… まだ3日か。行くのに3日も掛かる遠くまで、ゴーラの触手は長く伸びておる。

 遠くは月の場所より彼方。そこから長くここまでが、ゴーラの身体の一部となっておる。これほどまでに巨大な生き物が、この世界に居ただろうか。

 地球より大きな存在になってしまったゴーラは、今後どの様に過ごせば良いのじゃろうか……


―――

「見えた!」


 軌道基地の窓に張り付いて監視活動。人間はここの壁に穴が空くだけで命に関わるため、そのくらいは平気な女神4人が監視に当たる交代制。連絡役として、扉の向こうからミサキさんの1人がこちらを見てる。何か見つけたら、その子に知らせる事。それで応援が来る。

 監視するのは、アタミさん、ゴテンバさん、シモダさんとハチオウジさん、私ミシマ。そのうち、2人が配置につく。


 今は昼だから良いけど、夜の側になると魔法の明かりが届く範囲しか見えない。

 地上に落ちるスライムを見つけて駆除する必要は無い。大きな地球の周りでこの1点のみ頑張ってもあまり意味が無い。それよりも、ハコネさんが戻ってくるまでこの基地を維持する事が目的。

 とは言え、もし落ちて行くスライムを見かけたら、何とかしたい気持ちはある。その1つでも、誰かの命を奪うかも知れないから。サガミハラさんは数m級なら大気圏突入時に燃え尽きるというけど、それ以上だと分からない。海に落ちて大津波という恐れもある。


「ぶつかりそうな進路ではありません。大きさも問題無いです」


 今見えた物は、遠方から斜めに地球に近付いて来る。この基地に衝突する心配は無さそうだ。もし衝突しそうなら、進路をそらす為に魔法を撃つなどしなくてはいけない。


「あっ! さらに1つ!」


 次々と着始めた様です。

 短時間の見える範囲だけで2つ。全体では相当な数になってしまうでしょう。降り注ぐ地上では、助けが必要な人も出てしまう。早くここでの監視を終わって、助けに行きたい。ハコネさん早く来て……


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