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10-28 長尾リンが願った物

「この事態を収めるまでは、このまま居させて下さい。でもリンさんはお返しします」


 そう言って何かを抱える様に両手を前に出す。するとそこに、本来の小柄なリンが現れる。見た目はもとの人間と同じ。スライムっぽくはない。ちなみに、服は無い。


「では、外の問題を片付けましょう。大丈夫、あれも私の一部です」


 そう言って、ベランダへ向かおうとするゴーラ。


「待って! その前に!」


 その呼びかけに、振り返るゴーラ。


「真っ裸は、何とかして!」




 まだ目を覚まさない小柄な方のリンには、とりあえず僕の部屋にある服を着せてある。裸ワイシャツという状態だ。まだ目を覚まさない為、僕のベッドに横たえてある。ちなみにずっと眠ったまま(?)なジョージB本来の身体は、ベッドの隅。大きめのベッドにその2人が並んで寝てて、リンは裸ワイシャツ。事情を知らないと、色々問題が起こりそうな状況だ。

 ゴーラの方は、残念ながら服が無い。でも隠すべき部位(・・・・・・)は、何となく分からなくなる様に変形した。半透明な彫像の様な姿だ。


「私がマイマスターを地上に降ろします。マイマスターが地上で扉を出せば、皆さんは出られます。ではマイマスター、来て下さい」

「溶けたりはせぬのじゃろうな?」


 ゴーラ(2倍サイズのリン型スライム)に近付くハコネ。するとゴーラは、ハコネを抱きかかえる。

 そしてそのまま、扉へ向かう。


「じゃあ、行ってくる!」

「姉さん、お気を付けて」

「でも大きすぎて出られない様な…… おおっ!?」


 扉まで進むと変形して、直径2mくらいの球形に。球形になるとき、ハコネが包み込まれた。半透明なお陰で、ハコネが無事な様子が分かる。

 そして扉が開かれる。開いた扉に合わせて変形しつつ、ゴーラは吸い出される様に扉から出た。




 さあ、外はどうなっている?

 扉から出ずに外を見ると、ハコネを包んだゴーラは先程よりも大型化していた。僅かな時間で扉近くのスライムを融合して、さらに大きくなっている。

 周囲のスライムを吸い尽くすと、次は触手の様なものを伸ばして、さらに離れた他のスライムと繋がる。

 拡大を続けつつも、その中央にいるのはハコネを包んだ部分。やがてその中央部が降下を始めて、遠くなっていく。


「地上まで、相当時間が掛かりそうな…… ここまで来るのに掛かった時間くらいかな……」

「この状況、なに!?」


 後ろで大きな声。声がした方を振り返ると、リンが起きていた。隣に寝ている元ジョージB、そして裸ワイシャツな自分を見て、声を上げた様だ。

 混乱を収める為に、これまでの状況を簡単に説明。リン自身も、夢で見たかの様に朧気ながら知っていたので、それが事実と確認した感じだ。


 リンから色々聞くと、このリンは間違いなく僕らが知るリンだった。そして元々あったリンの記憶以外に、長尾リンの記憶まである状態だという。この騒動の記憶は、長尾リン視点で色々やった所から、さきほどスライムから分離された時点まではあると言う。その先は寝ていたから仕方が無い。


「長尾リンに聞きたかった事が沢山あるはず。今の私はそれを記憶から説明出来る」


 そうだ。月で聞いたけどはぐらかされた幾つもの事がある。

 リンを取り戻す方法が主だったけど、他にもある大きな疑問。異世界から長尾リンはどうやって来たのか、そして他の世界へどうやって行こうとしているのか。


「この世界と他の世界を繋ぐ部分を、彼女は知っていた。この世界、私達が知る元の世界を真似ていながら、合わない箇所がいくつもある。そこを異世界からの補填で補ってある。そこが鍵」

「魔法とか?」

「そう。そして魔法の原動力になる魔素は、月からやって来てた。それは知ってるのだったね?」


 ずっと前、ヘイヤスタとエーテルXを手にした頃に得た知識だ。地球で使われる魔法のエネルギー源は魔素で、それは月からやって来るという。


「月にあるエーテルの源泉。あれは、この世界へ無限に魔素を供給するためにある。エーテルとして供給され、蒸発して魔素として地球に降り注ぐ。そんなエーテルの源泉は、この世界の外からエネルギーを流入させる経路だった」


 例え話を交えたリンの説明によると、蛇口に相当する源泉から水道管から水の流れを遡れば、別の家に行けるって感じ。そして水が流れてるという事は、その家は今も生きているという事。そんな感じで、エーテルの流れを遡って、他の生きた世界へ行こうと目論んだ訳だ。


「でもそれ、リンを連れ去った理由とは、関係あるの?」

「エーテルの流れというのは概念だけど、それに逆らって泳ぐ為には、大きな力が必要。そのために、少しでも大きな力があると良い。だからこの世界にいるコピーを求めた。コピーを全員集めて自身の力を最大化して、源泉に挑むつもりだった。サクラが押しかけたのがもう少し遅ければ、旅立っていたかも知れない」


 長尾リンは月を拠点にして、源泉をこの世界からの脱出に使おうとしていた。その源泉をスライムが襲ってしまい、本能のままに取り込んだ結果が、今の状態だ。


「そしてそのスライムに取り込まれた源泉は、私の中に無い。おそらくは、宇宙空間を漂うスライムと共にある。無尽蔵にスライムが湧く厄介な代物と化して」

「それをゴーラが回収して、スライムの湧きを止めてくれないと、世界がスライムに埋め尽くされるのか」


 源泉を知るための話は1段落。とりあえず裸ワイシャツ状態のリンに、僕の部屋にある服から好きなのを選んで貰う。そして着替えてもらう間に、外交でミサキチ他へ説明を済ませた。リン奪還完了と。

 連絡を終えると、リンは着替え終わって居たけど…… 選んだのはメイド服って、そんなのあったっけ?

 まあそれは良いとして、ハコネが地上に着くまでまだしばらく掛かる。その間に今後の事を考えよう。


「今の状態で、源泉を通じて他の世界に行ける?」

「やってみないと分からないけど、それを出来るのは私だけ。皆を連れて行く事は出来ない」


 リンしか行かれないとなると、結局は長尾リンがやろうとしてた事を継続するだけになってしまう。僕らも含めてこの世界の人々を救う事は出来ない。

 何か良い案が無いか、オダワラさんも交えて話し合うも、画期的な案は出て来なかった。


「僕とハコネ、みさきち達みたいに、リンも複数拠点を繋ぐワープゲート的な物を疲れたら良いんだけどね」


 リンとリンツーで経路を作れたら、そこを通って多数の人を他の世界に送り込めるかも知れない。扉を通り1人ずつだから、膨大な時間は掛かるけど。


「私とそのコピーは、それを出来ない。サクラとハコネのを見て、出来ないか試したけど、もう無理だった」


 残念ながら、扉を通って向こうに行こうって作戦は無理な様だ。


―――


「上様、反乱です! 廃棄したはずの武器を手に、数カ所で城を占拠。文明再興同盟と称して、我々に宣戦布告してきました」

「奪われた物、兵力、首謀者は?」


 科学技術放棄からの反動。長尾も来て押さえ込めると思っていたが、月の事件が不味かった。月が突然溶解し、それを誰もが目にした事は、多くの民に限度を超えた不安をもたらしてしまった。

 月に向かっていたサクラ達が原因という風説が流れ、俺もそれに加担している事になっている。風説を流したやつの狙いは、俺を追い落としてその座を奪う事か。


 今の居場所は、福岡だ。名古屋から大阪にかけて関西地域が敵の手に落ちた。

 そして大変厄介な事に、敵が新勢力としてこの世界のシステムに認識された。この世界は再び、産業時代になってしまった。1ターン1ヶ月となり、この世界の寿命はあと2ヶ月に縮んでしまった。


「もはや、手段を選ぶ余裕は無い。犠牲は厭わん。やれ」

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