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10-22 軌道基地

「ここからが難しい。月への軌道を計算しても、その通りの速度に調整出来るかどうか。それが出来ないと、宇宙を放浪することになる」


 ここはアリサとマリの工房にある設計室。部屋の中央には大きなテーブルがあり、壁に向いて4つの机。僕らは部屋中央のテーブルを囲んで、これから月へ向かう方法について打ち合わせる。


「この位置に、サクラの扉がある」


 机の上に置いた図面上には、地球とその周囲を回る円が描かれている。マリに示された位置は、地球の周りに描かれた円上の1点。この円に沿って、地球の自転と同じ24時間弱で1回転する。

 これまでの上昇は、厳密には真上に向かっていない。元いた場所の上空でなく、少し南の上空に向かう様に上昇してきた。そして、今居る地点は赤道の36,000km上空。元の地球なら、通信衛星だとかが居る場所だ。

 そしてこの先どのようにすれば月まで行けるか、アリサとマリ、そしてサガミハラさんで計算していた。その内容について、詳細な説明を聞く。さらに、もし予定とずれてしまった場合、正しい軌道に戻る方法についてもレクチャーを受ける。


 なぜこの様に色々説明を受ける必要があるのは、理由がある。これから暫くは、彼女達の力を借りずに宇宙を移動することになるからだ。

 僕はしばらくの間、扉を呼び出さずに移動する。何の為かというと、静止軌道上に施設を設置したいという、サガミハラさんの要望があったから。僕とハコネの扉を通って、静止軌道に物を運び込める。その為に、僕の扉をしばらく移動させないで欲しいと。

 とは言え、長尾リンを追って月に行く必要があるから、ここに留まっている訳にも行かない。そこで扉は呼ばず、そのまま進んでみようという訳だ。遠心力だけで地球の重力に打ち勝てる場所まで来たから、扉を出さなくてもどこまでも行ける。そうなった今だからこそ、この様な作戦も可能になった。


「この先は我らも一緒じゃ」

「姉妹で宇宙の旅。いいですわね」


 ハコネとオダワラさんも一緒だ。ハコネも扉を呼ぶ訳には行かないが、月に行く理由がある1人。ここからは僕と一緒に行くと。そしてハコネが行くならオダワラさんも。オダワラさんが扉を呼び出せるから、もしもの際に助かる事があるかも知れない。




「まさかの展開です」


 3人で僕の扉を離れて、10日。

 明るい時間は移動して、暗くなったら休み。その休みは、オダワラさんの扉を呼び出し、中に入って休憩している。その際には、地球との位置関係を外交でサガミハラさんに伝える様にしている。

 

「今の場所は、月までの距離の40%。そこまで来ても、まだオダワラさんの扉は地球表面を基準とした座標に固定ですか……」

「それって、不都合あるの?」

「いいえ、都合が良すぎるというか、この宇宙の仕組みが余りにも地球本意というか……」


 まあ、色々難しいことは彼女達に任せ、僕らはどう進むべきかを教わる。地球重力の束縛が弱まり、結構な速度で移動出来ているが、それでも月までの飛行は時間が掛かる。

 これで進路上に月があって、徐々に近付くのが見えるとやる気も出るのだけど、残念ながら進路の先に月は無い。月は移動しているので、これから向かう場所は月が来る予定の場所で、そこで月と落ち合う(・・・・)のは20日後だ。だから今そこに、月は無い。


「それはそうと、軌道基地が完成しました」


 サガミハラさんが静止軌道上に作っていた基地は、扉を囲うように作られた建物。それがついに完成したという。

 その基地には、みさ1こと美咲シスターズの1人目が扉を設置した。そもそも建物を設計する際に、生身の人間が来られるような設備という条件をねじ込んだのは彼女だ。そうなれば、美咲シスターズの誰かが扉を置きに行ける。

 そして、やっと僕の扉は静止軌道に留める必要が無くなった。




 月への飛行を中断して、僕の扉を呼び出すとその中へ入る。


「久しぶりの我が家。やっぱりここが落ち着くよ」

「オダワラの部屋は悪くないのじゃが、面白みがない」

「姉さんの部屋よりは、良いじゃないですか」


 部屋で一休みする事なく、そのままハコネの扉から秦野へ。今日は軌道基地の見学だ。

 軌道基地へ行くには、みさきちの部屋を通過し、ベランダからみさ1の部屋に行く。そして扉を抜けると、目的地だ。

 軌道基地に入ると、そこは重力が無い場所。壁が柔らかい素材に覆われている。


「ぶつかって痣を作った子がいるのよ。無重力での移動なんて、誰も経験無いもんね」

「なるほど、ここで無重力に慣れてから、この先に行くのか」


 空を飛べる程に習熟していなくても、最低限の物理魔法があれば簡単に移動出来る。それさえも出来ない人の為に、掴まる為の手すりも準備されている。

 そして次の部屋に行くと、そこは周囲を見渡せる大きな部屋。窓を介して、宇宙と地球が見える。見る位置によってちょっと屈折して見えるのは、窓がとても分厚いからだ。飛来物で破壊されるようなことが無い様に、頑丈にしてあるのだ。また、基地内に居る人が浴びる放射線を少しでも減らそうと言う意図もあると聞いた。


 そんな大きな窓に、みさきちが張り付いて見ている。その先には、青い地球。


「いいわね、地球」


 これまでに宇宙から地球を見た人は、何を感じたのだろうか。

 この星を守るとか、そんな事は思い浮かばない。守りたいだなんて感想を持つ程、弱々しそうじゃ無い。

 そして、地球の向こうから上ってくる月は、地上から見るよりも鮮明で、まるで偽物かの様だ。




 そして、ついにその時が来た。

 月に向かう最後まで、扉の位置が地球基準という現象は変わらなかった。月軌道まで到達した今や、扉はとてつもない速度で地球の周りを回っていることになる。扉から出た時点で、宇宙の彼方に振り飛ばされる勢いだ。今も扉にしがみついて、その時を待つ。


 こちらに向かって来る月。まだ遠い為、少しずつ大きくなる程度だけど、実際には僕らが猛烈な速度で月に向かっている。地球から38万km上空を、1日で1周する。その時の速度は、時速10万km。この初速度だけで、太陽系を振り切って銀河系の旅人になれる速度だ。

 これから行うのは、最後のジャンプ。3人で一斉に扉から離れ、全力で月と反対方向へ飛ぶ。反対方向へ飛ぶのは何故か? それは、全力で減速しないと、月に激突して大変なことになるので。

 宇宙空間でブレーキを掛ける方法と言えば、逆噴射だ。それを魔法によって行う。ハコネが進行方向に次々と大きな岩を生み出し、それを足場に僕が物理魔法で自らを減速させる。オダワラさんには物理魔法で3人をばらけない様に引きつけて貰っている。3人の連携は、言葉も無く続く。真空中だから言葉にしても伝わらないけど。


 そういった減速を続け、どれだけ速度が落ちただろうか。そんな僕らに近付く月は、先程見たよりもかなり大きく、そして大きくなる速度も速い。もうかなり近付いたが、減速は間に合うか?

 努力の甲斐あってか、速度はかなり落ちただろう。しかし今度は、月が重力で僕らを捕らえる。月の上空数百km。見る見る近付く月面に、減速の不足を感じる。


 突然、前方に風を感じた。


 そして次に気付いた時は、広い水面に浮かんで空を見上げている状態だった。


「なにが起きた?」


 思わず声に出して、その声が音として聞こえた。空気がある証拠だ。

 空は青く、水面は青い。事故で倒れて、地球に戻された? いやそれなら、部屋に居るはず。

 ここはどこだろう? ハコネは? オダワラさんは?


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