10-19 みさきシスターズ
「まずは外の景色を見せてもらおう」
「外に出たら危ないと思うから、その手前まで」
扉から1歩出ると紫外線飛び交う真空の宇宙。生身のマリやアリサが出たら大変な事になるから、彼女達が行けるのは玄関まで。そこで扉を開けて、外の様子を見せる。
強力な紫外線は入って来るだろうから、紫外線対策に長袖と長ズボン。顔の前には紫外線を遮断するガラス板を持って、外を覗く。
扉は地球に背を向けて配置されてるので、見える景色は星が光る以外に何も無い宇宙。
「ちょっと試して良いか?」
「危なくない範囲でなら」
許可すると、マリは紙を折り始める。そして出来たのは、紙飛行機。
「それ、行け!」
マリが放った紙飛行機は、玄関を進んで扉を抜けると一瞬で加速して飛び去ってしまった。
「じゃあ次は、これだ」
「私のはこれ」
マリとアリサが次々と紙で模型を作っては、玄関から投げる。ひとしきり遊んだ所で、ちゃんとした実験の開始だ。
「これは?」
「風で引っ張られる力を測るための物だよ」
目盛り付きの筒に入ったバネの先に、4本の太い紐が付いていて、その先にハンカチサイズの布。紐は四角い布の四隅から延びている。アリサが作った道具は、布に引っ張られる力を測る道具だ。
その布を拡げて扉の外に出すと、風を受けて帆の様に拡がり、紐に引かれたバネが延びる。布はバタバタと激しく動き、やがて結んだ紐が2本解けて、旗の様にたなびくだけになる。
「これ、手に持ってたら危なかったよ」
バネの反対側は紐を伸ばして、風呂場の扉に結びつけてある。手で持っていたら、その引く力で宇宙に引きずり出されてしまうと心配したからだ。まあ、そうなる前に手を放すだろうけど。
2回目は少し強化して、今度は風に耐えている。扉から少し離れた所まで伸ばしてみたり、扉の直線方向やそこから左右にずれた場所に飛ばしてみたり。そうやって、どこでどうなるかテストしてる。
「扉から離れると急激に風が弱まるな」
「こんな感じか」
2人は図面に色々書き込んでいく。扉からの距離と場所による、風から受ける力の違い。扉に最も近い場所では、400とある。400kgの物を吊り下げた時と同じだけバネが延びているそうだ。ついでに、この身体になって初めて体重を量った。体重計はあったけど、身体の持ち主であるハコネに悪いから測ってなかった。
その体重と実際作る帆の広さで、飛び出す速度が決まる。その辺の計算は、得意なアリサに任せよう。
設計と部品作成を終えるまでは、これまで通りの方法で進んで行く。飛んでは扉、飛んでは扉。
5回の飛行の後に見に行くと、部屋にはみさきちだけだった。
「私は留守番、3人は外」
ハコネが秦野に移動して、扉をアリサとマリの工房前に移したそうだ。小田原に居ると、必要な道具を揃えるのが面倒だかららしい。
「外に行く前に、ちょっと……」
みさきちはそう言って、僕をテーブルに着かせる。
「私の他の6人を探そうと思う」
「会ってみたい?」
「会いたいだけじゃ無くて、7人集まればもっと大きな力になると思うから」
長尾がそれによって力を得たと言ってたし、長尾リンはそれを目的にリンを攫って行ったんじゃないかと思われる。僕らジョージ組はバラバラで行動してるけど、もしもの時は考えた方が良いかもしれない。
それに対してみさきちだけは、あとの6人がどこに居るかも分からない。これから長尾リンの動き次第では嵐が吹き荒れるかも知れず、一体化をするかは保留としても見つけてたいという。それがみさきちの考えだそうだ。
「そもそも、この世界に居るかも分からないよ。皆、最初は天上に居て、召喚されて出て来た訳で」
「それはそうなんだけど…… だったらまず、私を召喚出来るか試すってのはどうかな?」
魔王もジョージBもみさきちも、天上に居た所を女神に召喚されてやって来た。僕がこの世界に来たのも、それまで天上に居たのをハコネが召喚したからだ。
もし他のみさきち6人が天上に居たら、召喚出来るだろうかも。
「と言う事で、やってみたいのだけど、どうやったら良いの?」
「さあ…… それをやった事があるのはハコネだから、ハコネに聞かないと」
ハコネの扉を出ると、アリサとマリをハコネが手伝っていた。これまでこの手の作業をハコネが手伝った事って有ったっけ?
「それは、ゴーラを取り戻すために、やれる事はやろうという訳じゃ」
ハコネもゴーラとかなり仲良くなってたから、ゴーラ奪還に関してはかなり燃えているらしい。
それはそうと、召喚についてみさきちへ教えて貰う件だ。
「そうじゃな…… お主が信仰の力を蓄えているかじゃが…… どうじゃ?」
その見方を教わり、みさきちから結果を聞いたハコネの様子は、さっきのやる気を見せていたのとは正反対の姿だった。信仰の集まり具合で、みさきち、圧勝。6人召喚に足りるかを心配してたのが、してもまだ余裕があるレベルだ。
「まあ、ハチオウジさんの分を引き継いだんでしょう。あとは家臣からの分かも」
「だとしても、それ程までか…… 一体、我の数百年は、何じゃったんじゃ」
「引きこもりでしょ」
―――
扉を呼び出して部屋に入り、準備を整える。これから行うのは、転移召喚という女神の奇跡。
「コールリスト」
呼び出す候補が…… なんか凄く多い。視界全体に見えるのは、多数の人物像。ハコネは多くの候補から適当にサクラを選んだそうだけど、私はこの中から自分を探さないといけない。検索をする様な機能は無く、地道に探すしか無い。
ハコネの場合は、持ってるポイントで呼べる候補が少なかった。私の場合はポイントが余ってるので、候補者も多い。そうして見て行くと、居た! 選ぶと、私の名と必要ポイントが出る。
「クイックサモン!」
何も無い場所に現れるのは、普段着の私。あの時、シモダさんによって呼び出された私と同じ。
呼び出された私は、記憶がリセットされて元の世界に居た時の記憶しかない。とても混乱する事は間違いないが、自分自身だ。何をどう説明すれば理解して貰えるか、大体分かる。
「ようこそ、私」
―――
「上手く出来てるじゃろうか?」
結構時間が経っても出て、みさきちは戻って来ない。様子がおかしかったら見に来て良いと言ってたけど、そろそろ見に行くか。
「失礼するよ…… って、あれ? 部屋が……」
以前は僕のと同じで、扉を開けるとすぐに部屋が有ったけど、今はハコネと同じで、がらんとした空間に建物がある。
バルコニーがずらっと並んだ、7部屋ある集合住宅だ。
「なんかハコネの空間にある僕の部屋みたいな」
近付くと、右端の1室からバルコニーに姿を見せたみさきち。そしてその部屋から、同じ姿が続々と。さっきまでみさきちが着ていたこの世界の服で見分けが付くけど、それ以外に元の世界の服を着たみさきちが6人。これは見分けとか無理だ。
「サクラとハコネのを真似して、全員同じ部屋の事を願い事にしたわ。これで7カ所行き来出来て、凄く便利になったよね」
この世界の服を着たみさきち。これ、4人組でも出来なかっただろうか。いやあの4人は、どさくさで死人扱いのまま連れてきたから、召喚じゃ無いか。
「サクラちゃんとハコネちゃん、双子みたい」
「でも、その正体は」
「男の娘」
「可愛ければアリ」
「愛でたい」
「飼いたい」
何か言ってる事が酷い…… みさきちにはちゃんと統率をとって貰わないと、僕らの身が危ない。




