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10-18 宇宙を行く手段

「重力から解放される予想地点は、この辺り。そこを越えるまでは、地道に繰り返しね」

「じゃあ、実験だ」

「いいじゃろう」


 サガミハラさんの意見も聞きつつ、本番前に手順の確認。地表を起点に僕が上空へ飛び、限界まで行ったら扉を出す。その扉を起点に再び上空へ飛び、限界まで行ったら扉を出す。これがサガミハラさんと試したやり方だ。

 扉は地球から見て上空のある地点に固定されているから、地球の自転と一緒に回ってる事になる。地表から遠くなると遠心力が大きくなり、36000km辺りで遠心力と重力が同じになる。そこまで行けば、もう地球に落ちる事は無い。そこまで行くには、数百回飛ばないとならないけど、コツコツやればいつか到達出来るのだ。1日に12時間繰り返して、1ヶ月。


「気の長い話じゃな」

「ハコネの扉は地上にあるままだから、いつでも戻れる。他の事をやりながら空いてる時間に進められるから、ゆっくりやっても良いんだよ」




「危なかった…… 吹っ飛ばされる所だった」

「何か凄い音がして居ったが、どうしたのじゃ?」


 魔王軍の移動が終わり、サガミハラさんを伴って小田原に戻る。そして、翌朝からコツコツ始めた宇宙進出。やってみると、想定外の危険があった。それは飛行を終えて、扉を開けた時に起きた。

 部屋の便利さはどこでも使えるように願ったお陰で、僕の部屋は1気圧が保たれている。風呂やトイレなどが使える様にするには、1気圧である必要があったんだろう。

 その結果、ほぼ真空の宇宙空間で扉を開けると、気圧差で猛烈な風が部屋の中から外に噴き出す。それに飛ばされてしまってから、なんとか扉まで戻って来たのが今の状況。部屋の中に居たハコネとサガミハラさんによると、玄関から凄い音がした以外に部屋で異常は無かったと。と言う事は、空気が外へ吹き出した際も減った空気は玄関部分で生成して、部屋は1気圧が保たれた事に成る。


「でもこれは使えるな」


 扉は外開き。開く向きが上空になる様に扉を出せば、その風圧も加速に使える。飛距離が少しだけ伸びて、繰り返す回数が減る事が期待出来る。


「風を受けやすい様に帆を付けて、風を受けやすくしたらどう?」

「そして、我らもサクラの背を押す。かなり速くなりそうじゃな」


 ハコネの居る場所には当然の様に居るオダワラさん。素材についてはオダワラさんに街で丈夫な布を探してきて貰い、僕の服に縫い付ける。

 帆に相当する物を作ったり、それを改良したりで、飛んでた時間より作業してた時間が長い。でもこの作業分、これからの飛距離は伸びるはずだ。


 扉を開けて宇宙を見上げる。ムササビの様に両手と両足を伸ばして帆を拡げると、扉から宇宙に向けて飛び出す。その際は玄関から3女神が僕を押し出す様に魔法を掛け、僕も扉を押す様に魔法を掛ける。風と3人の魔法で一気に加速し、すぐに扉は遠くなる。風を感じるのは最初の1秒だけながら、その際の加速は有ると無いで大違いだった。

 風に押されなくなったら帆は不要で、進行方向を見える様に姿勢を変える。進行方向には、ただ星が有るだけ。回りはほぼ真空で、何の音も無い。太陽は地上で見るより遙かに明るいが、空は青くない。目的地の月は、今の時点では進路上に無い。月は地球の周りを巡っているから、計算して月が来るタイミングでその場所まで行けば良いのだ。


 時間にして10分くらいだろうか。下を向いて扉を呼び出す。呼び出された扉は地球に対して水平で、その上に僕は着陸する。そこで再度離陸する準備だ。

 また帆を拡げて、扉の脇に有るインターホンをつま先で押す。魔法で浮き上がり、扉が開くだけの空間を取った所で、ハコネが扉を開けてくれる。そうしたら、先程と同じ様に魔法で飛行するのだ。




 太陽が地球の向こう側に隠れると、真下の地球が夜になる。そうなれば位置関係が分からなくなるので、その前に今日の分は終了だ。星を頼りに進むだなんて、そんな航海術の様な芸当は出来ない。

 指をL字にした左手を地球方向に伸ばして、右手に持つカメラで写真を撮る。これは地球までの距離を測る簡易的な方法だ。指の長さや手の長さ、そして地球上にある目印間の距離から計算して、不正確ながらも地球までの距離が分かる。その写真を部屋で見て、地上の地図と照合するのだ。

 扉を呼び出すと、今度は帆を拡げずに扉に向かい、吹き出す風に打ち勝つ力で部屋に入る。扉から1センチでも部屋に入るとそこは空気が止まっており、もう大丈夫だ。


「はい、これ」


 カメラをサガミハラさんに渡す。僕の部屋に居るサガミハラさんは、僕が少し教えるとパソコンの使い方を覚えて、もうエクセルで距離の計算をするまでになった。結構前からハコネには触ってるのに、そんな難しい事は出来ない。技術に対する熱意が違うからだ。受け取ったカメラから写真を読み込み、今の飛行でどれだけ進んだかを計算してくれる。


「1回で40kmです。今の方法だと、これが限界みたいですね」


 今日1日で600km進んだ。今回は加速方法や距離測定方法を検討しながらだったけど、明日からは飛距離も伸びるだろう。

 この先、カメラが使い物にならなくなるだろう。宇宙では放射線が強く、蓄積したデータが破損しやすくなる。宇宙探査用の機器などには対策済みの機器が使われるが、僕のカメラには当然そんな機能は無い。既に画像圧縮が掛かるフォーマットではエラーが多くなり、エラーに強い無圧縮の形式で保存している。それでも赤や黄色の光点が画像にブツブツと散らばっている。


「これだけ行くと、自分が宇宙に居るんだって実感出来る景色になるね」

「明日には私が行った最高高度を超えます。その先は、何が起きるか分かりません。気を付けて進みましょう」




「私も見に行って良いかな?」

「俺も見たいぞ」


 その夜の外交で、みさきちと魔王に進展を連絡。こうなるだろうとは思っていた。


「小田原にハコネの扉があるから、そこまで来て貰えば、宇宙空間に来られるよ」


 2人とも来る気は満々の様だ。


「とは言え、ダメージは無いかしら?」

「紫外線で肌にはダメージ。それに気圧差の暴風があるから、それに耐えられる服で来ないと、脱げるよ」

「……ちょっと考える」


 そもそも肌にダメージってレベルじゃ無いか。ほぼ真空で呼吸は出来ないし、太陽を見れば失明の危険。地球が守ってくれないから、放射線も太陽や宇宙の彼方からビシバシ飛んでくる。カメラのデータが壊れる様に、人体のデータだって壊れる訳で。




 そして翌朝。


「早いよ!」

「だって、すぐ見たいじゃない」


 なんとみさきちが来た。夜通し飛んで小田原までやって来たのだ。


「それで、昨日聞いた話で、アイデアがあるんだけどね……」


 そう言うと、紙に図を描き始める。


「これは……」

「魔法よりで進むのと比べて、断続的に風を受ける方が速度が出るんじゃないかって」


 みさきちが見せたのは、紙に描いた加速装置の図面。僕の扉の外に上空へ向けて筒を配置して、その中で僕はパラシュートを着けて立つ。扉を開けると風が吹き出し、筒の中を加速。

 要するに、部屋の空気が宇宙空間に吹き出す圧力を利用した空気銃だ。そして、その弾丸は僕である。


「魔法で飛ぶのと比べて、どっちが速いか、試そうよ」

「良いけど…… とりあえず今日は今の方法で進めてるから、工作は任せるよ。出来上がったら、試して良いよ」

「じゃあ、助っ人を呼びに行ってくる!」


 そして僕が10回の飛行を終え、高度1000km到達を喜んでいると、予想通りの助っ人達が到着していた。


「こんな面白そうな事、なぜ最初から呼んでくれないのだ!」


 マリとアリサが現れた。これはとんでもない物が出来そうな気がする。

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