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10-17 再びソラへ

 小田原から足柄氏綱さんを連れてきて、引き継ぎを行ったら、ジョージBと長尾一行は出発。

 飛べる者だけが今回の九州遠征に向かうため、西の空へ去って行くのはここに集まった兵のごく一部。同行しない連邦の者達が、僕らと一緒に空を見上げ見送る。


「物事が目まぐるしく変わりすぎて、着いて行けません」

「確かにこの1ヶ月は色んな事が起こりすぎた。それでも、あまり悲惨な事にならずに済んでるのは、彼も上手くやってるんだと思うよ」


 ジョージBは長尾に全てを奪われかねない状況から、新潟を半ば失っただけに留めるというまずまずの結果で危機をクリアした。何でも戦えば良いって短絡でなく、引き際も弁えた動きだった。

 でも、会ってみれば世界の存続という同じ目的で、そのための手段にも差は無い。交流がちゃんと成されていれば危機にさえならなかっただろう。そう考えると、この騒動は無駄だったか。

 そして連邦側の残る課題は、他大陸に遠征した人が無事に帰って来られるか。ユーラシア大陸側に向かった人については、長尾の協力も得て引き上げ船を出すそうだ。アメリカ大陸には長尾軍がまだ居ないそうで、新たに船を造って迎えに行く事になる。そんな辺りは、ここにいる氏綱さんに託された仕事だそうだ。

 つまり、面白い仕事は自分がやり、面倒な仕事は家来に押しつけ。やっぱり、あまり評価には値しないか。さっきの少し上げた評価は元に戻そう。


「その後マルレーネは元気?」

「母上はご年齢にも関わらず、若者の様に動き回って居られます。あるべき技術で動くゴーレム馬車を作るとの事で、ハダノの賢者達と何やら始めておいでです」


 その賢者ってのは、アリサとマリだろう。そういやこの人、マリとの間にスロという子が居るけど、その事に関しては何も語らない。まあ、捕虜時代にマリが襲った様だから、責任がないとも言えるし。


「エルフの感性は良く分からない所がありますが、母上も良く分からなさは同程度。長生きで元気なのも含め、もしやエルフなのでは無いかとも思う次第です」


 マルレーネは見た目にもちゃんと歳を取ってるからそれは無い。でも、実年齢にしては若いから、何かその秘訣があるのか?


 氏綱さんと立ち話をしてる間にも、魔王軍が撤収準備を進めている。ハコネには小田原から江戸に飛んで貰って、魔王軍撤収の手伝いだ。家に帰るまでが遠足である様に、全軍が撤退するまでが僕らの川中島戦役。幸いにも実際に戦火を交える事無く終わり、犠牲は一切無し。それを無駄足と見るか、良い結果と見るか。


「この遠征のために、結構な量の物資を集めたのだがな。これだけあれば、半年は戦える。陸路、甲信を征服しつつ戻るか」

「話をややこしくしない!」


 魔王はこんな軽口を叩くが、確かに近代技術を捨てた連邦は以前より弱体化してるに違いなく、戦えば勝てるかも知れない。とは言え、今しなくてはならないのは勢力拡大で無く、共同での勝利条件達成。


「冗談だ。連邦は弱くなったとは言え、長尾と協力して居る。長尾との戦いは、無理だ」


 まだ大陸に出て行く前の長尾に倒された歴史がある魔王。当時の長尾は女神シナガワの勇者として魔王に立ち向かい、というかケモミミの自由を目指して魔王と戦い、勝った挙げ句に自分が大魔王になってしまうと言うミラクルを成し遂げた。それからさらに力を伸ばして、魔王を倒した当時の彼自身に匹敵する勇者を1000人従えるという。そんな戦力、この地球に他に無いだろう。

 まあ地球の外にいる長尾リンなら、それに伍するのかも知れない。




 ハコネが江戸に到着し、魔王軍が続々と扉を抜ける。800km近くを一瞬で移動出来るこの方法は、本当に大きな戦力だ。

 その通過していく魔王軍を尻目に、僕の部屋で今後の事を打ち合わせる。メンバーは、魔王とみさきち、そしてハコネ。


「次の戦いは、他大陸か」

「長尾軍が征服してないアメリカ大陸って可能性はあるけど、もっと遠い所かもよ」

「私のコピーだけ全然見つからないけど、それを探すのは?」


 みさきち、本当に自分と同じ姿の人に会いたいの? 会いたいと願わずとも会ってしまった僕には分からないけど、他の3人はそれらが揃ったのに自分だけ違う事に、何か感じるんだろうか。

 ユーラシアで長尾勢に見つからずにひっそりと生きてる可能性もあるけど、まだ行ってない他大陸に居る可能性もある。そう言う目的の遠征も候補に入るか。


「南極とか言うなよ? いや、箱根のアレがあるなら、南極も何か埋まってるのか? だったら、それを探しにでも良いかもな」

「私、前からアメリカに行ってみたかったの。私と同じ考えの人ならアメリカに行ってそうな気がする」

「どこで呼び出されるかに、そんな好みが事が関係するのかな」


 まあアメリカに関係あると言えばある下田に召喚されてるし、無いとは言い切れないけど、それなら横須賀とか横田で呼ばれそうな。

 そんな与太話をしつつも、実際に起こすべき次の遠征は、アメリカで無く別の場所だ。


「魔王軍に酸欠でも問題無い種族は居る?」

「生物に由来する者はダメだな。スライム系は、今回ばかりは連れて行くとどうなるか分からん。そうなると、鉱物系とアンデッド系か」 

「女神は大丈夫なら、半女神になってる私は行けるんじゃないかしら」


 次の目的地を、魔王もみさきちも即座に理解してくれてる様だ。


「ゴーラに自由を取り戻してやらねばならぬな。月でも太陽でも、どこへでも行くぞ」


 いや、ハコネ、太陽は止めよう。




「そんな事が…… でも、それなら、私の出番ね」


 魔王軍が通る扉はそのままにして、僕とハコネだけで飛んで来た先は、相模原。宇宙を目指すべく、コツコツと試行を重ねていたサガミハラさんに新しい情報を聞くためだ。

 その前に、なぜ宇宙を目指す必要が生じたか、長野で起きた事を説明した。


「あれから何度か試して、どの高さで何が起こるか確認しておいたわ」


 足場があれば魔法である程度の高さまで行ける事を示し、足場構築を繰り返せば月へも届きそうな感触は得ていた。それを使って、さらに高い所まで行く事を試したそうだ。

 前回の10倍、1200kmまで行っても、サガミハラさん身体に異常は起きなかったそうだ。


「でもね。そこまで上がると、無数の氷の粒が飛び交ってたわ。ぶつかって、ほんと痛かった」


 そんな所に氷があるとは、それは地球とは違う様だ。あるいは、過去にリンが宇宙へスライムを送ろうとする時、何かやった残骸かも。


「サクラさんとハコネさんで宇宙を目指して、月との間に通路を開くなら、ぜひ呼んでね」


 サガミハラさんの監修と、パソコンで調べた知識。それらを駆使して、月を目指す作戦を立てる。

 目標は、月面に都市を造る事。長尾リンがそれを目指すとすれば、月で再遭遇出来るだろうという狙いと、勝利条件の達成。それらを兼ねて、僕らで月を目指す。

 月面に都市と言っても、人類が住むにはかなり過酷。ほぼ真空な上に温度変化も激しく、さらに放射線も襲いかかる。それら全てを解決する方法は、すぐには思い付かない。

 しかし、女神達が行くには問題無い。真空についてはサガミハラさんが身を以て問題無い事を示してくれた。放射線の影響は見ていないけど、元々か物理的な身体が主では無く、どこかにある情報が主で身体は従。放射線によるDNAの損傷とか、考えなくて済むだろう。


「じゃあ、ハコネ、一緒に行こう。次の目的地は、月だ」

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