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10-15 SFが宇宙から降ってくる

 長尾リンにより、スライムに包まれたリンが扉の中に押し込まれる。そしてリンを覆うのに参加しなかったスライムに手を触れると、スライムは長尾リンの手の中で部屋の天井まで届きそうな細長い棒と化す。


「こういう事だから、この子は貰っていく。お兄ちゃん、あとは宜しくね」


 そう言い残すと、天井に届くスライムの棒が縮むのに合わせて上昇し、天井に着く時には既に溶かされた天井の穴を通って上へ消える。

 一瞬の出来事で、行くのを止める間も無かった。


「どういう事だ!?」

「いや、俺も聞かされてない。とりあえず、追うぞ」


 4人に分裂してたのがいつの間にか1人に戻った長尾、そしてジョージBの2人が飛び上がり、長尾リンを追う。魔王と僕はその後を追うのだけど、僕は同時にリンへ外交が繋がるか試す。しばらく待つも、外交の呼びかけに対して返答は無い。そしてその返答を待つ間に、要塞の最上部で長尾達に追いついた。


「あれか?」


 見上げた先には、空へ向かって行く2人の後ろ姿。その更に先には、追われてるはずの長尾リン。そしてそれらのずっと先にあるのは、日中でも薄らと見える月だ。


「うむ…… 追撃は無駄だな」


 やる前から諦める魔王。まあ、僕も同意見。

 先に行った長尾とジョージBが追いつけるなら僕らが行く必要は無いし、追いつけないなら僕らも追いつけない。だから、無駄。

 それで、何もしないのかというと、そうではない。追撃を行わず、東へ飛ぶ。今僕らが立つ位置からは見えない何か(・・)があるのではと期待したからだ。そうする僕に、魔王も着いてくる。


「あの光は何だ?」

「光の線?」


 追う者と追われる者。追われる長尾リンに向かって来る光の線が見え、それに長尾リンが接触すると、光の線と一体になって高速で飛んで行く。その線は、自らが光っていると言うより、蜘蛛の糸のように光を反射してる感じだろうか。

 長尾リンとその光は、追っ手の速度よりも遙かに高速で飛んで行き、すぐに見えなくなった。


「なんだったんだ、あれは……」




 しばらくして、追いかけた2人が戻ってくる。僕らも要塞上部に戻り、彼らを出迎える。


「リンのあの動きと速度。何だあれは?」

「僕らが見た物がその原因だ。何を見たかと言うと……」


 遠くから延びる光る糸。どこまで続いて居るの、その果ては見えなかった。それに牽引されて、長尾リンは空を飛んだ。それを説明すると、長尾は納得が行ったようだった。


「月から地球まで延びる線とか?」

「月から伸ばされた線という説も面白いが、宇宙を目指すならその手前からでも充分だ」


 長尾の考える説は、簡単にまとめると次のようになる。

 空高く、高度1000kmあたりに巨大なスライムが居るとしよう。なぜ地球に落ちないかというと、人工衛星と一緒で、秒速7キロ以上という超高速で地球を回っているため、遠心力と重力が釣り合うからだ。その高さで地球を周回するスライムは、100分くらい毎に地球を周回する。

 そして巨大スライムは細長くなって、バトントワリングのバトンみたいに回転させる。地球の周りを回る、長さ2000kmのバトンだ。そのバトンが14分で1回転という速度で回る時、地面から見たら先端はかなり遅くなる。秒速7キロのバトンに飛びつく必要は無い。

 そんな空想上の人工衛星はロトベーターという呼び名で知られており、その回転を利用して宇宙船を飛ばせば良いとして、研究されている。


「そんなわけで、言った通りだったなら、リンは宇宙旅行中だ。または、6000km離れた次に地表にバトンが着く場所に着陸だ」

「良くそんな話がすぐ出来るな。前からそんなにSFに詳しかったか?」


 長尾がここまで宇宙飛行に詳しいというのは聞いた事が無い。

 すると長尾は、頬を掻きながら、真相を語った。


「これを計算してなんとか実現しようとしてたのは、リンだからな。さて、今の話が本当なのか、証拠探しだな」




「どっちのリンも、やっぱりリンなんだね」

「スライムの生態を聞くと、実現可能性が十分高い。エーテルだけを食べて成長出来るなら、宇宙空間でも生存し増殖出来る」


 僕らが知るスライムの生態を聞いた長尾のコメントは、可能性アリ。

 こっちのリンが、大昔スライムを宇宙に飛ばしたら暴走して制御不能になったって話をしてた。もしそのスライムがまだ宇宙を漂っていて、長尾リンはそれを制御出来ていたとしたら、今回の事を実現出来ただろう。いや、こっちのリンも、それを狙って宇宙にスライムを送り出したんじゃないか? 何のためにって、あの時に聞いておけば良かったか。


「さて、俺の最優先事項が変わったので、2番目はお前達に任せよう」

「何だそれは?」

「2番目は、勝利条件の事だ。そして最優先は、妹を連れ戻す事だな」


 言い換えれば、制覇勝利はジョージBに任せ、長尾はどこに行ったか分からない妹捜し。自分の意思で行ったんだから、見つけても帰って来ないだろうけど、帰って来ないなら自分もそこに行くと。妹の事をとても大事に、普通の兄妹と比べても溺愛というレベルに大事にしてたっけ。ロ○コンに加えてシスコンと言われるくらいに。


「なんなら妹捜しのついでに、宇宙勝利も目指してやるさ。さらに終末を100ターン先延ばしするぞ」

「それ、先に妹が達成するんじゃ無いのか?」

「それもありだ。リンの目的も、そうで有ると良いんだけどな」


 リン失踪の事でいっぱいだったけど、他の疑問点も解消すべく、長尾に色々質問して行く。

 まず、長尾リンは長尾が他大陸に渡るきっかけ、世界のために何をすべきかを伝えた張本人だそうだ。僕らよりも遙か前に、やるべき事を突き止めていた事になる。

 どうやって長尾リンがそれを知ったのか。それはあの扉が関係する。扉全体を使ったあの端末は僕のパソコンと同じで、リンが僕のパソコンでルアの事を調べるのと同じで、ルアにもアクセス出来るのだとか。そうやって得た情報をわかりやすく整理して、長尾にも知らせていたと。


「それを早くこの大陸に知らせに来なかったのは、なぜ?」

「この大陸で科学を進歩させている様子が無かったからだな。それがしばらく前から変わり始めて、それに気付いて戻ろうとしたら、邪魔が入った。俺と同じ長尾孝と遭遇して、ユーラシア全体で勢力争いだ」


 そう言えば、4人に分裂して、いつの間にか1人に戻った件。あれはこれまでに倒した他の長尾孝を吸収(!)した事が関係していて、自由自在に再分離と再統合出来るからなのだとか。統合しているとその分能力が上乗せされるけど、あんな場面では分離した方が有利。ちなみにあと3人居て、別行動しているそうだ。ちゃんと7人が揃った訳だ。


「リンもそうだな。既に4人で統合してて、あと3人足りないと言ってた」

「リンが統合されてしまう!?」

「1度はするだろうな。だが、どちらかのリンが居なくなるとかでは無いぞ。本来、1人の人間であるのを、性格の多様な面を拾い上げて分離しているだけだ。元に戻ると言った方が良い」




 並行して確認していくと、リンツーとも連絡が取れなくなっており、これまでの艦隊で他大陸に行く事は出来なくなっていた。リンツーも長尾リンに捕まったんだろうか。

 そうなると、航海中だった人達はどうなったのか? 連絡手段も無いから確認は困難だけど、通信不能でも自律的に動けるはずだから、目的地まで安全に行けるとは思いたい。


 リンの事を説明しにみさきちが居る沼田を訪ねると、ハコネが居た。そう言えばここに居るんだった。


「大変じゃ! ゴーラが言う事を聞かなくなり、飛んで行ってしまったのじゃ!」


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