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10-12 夜河を渡る

「兵営は地下を使えたので楽が出来た。明日には完成するだろう」


 ここは松代にある魔王軍が建設中の基地。旧日本軍時代の地下施設がこの世界にも存在しており、それを再利用して基地にしようとしている。

 平地に隣接する急峻な山地に横穴が掘られており、元の設備が爆撃にも耐える様に作られたのか、とても頑丈そうな遺構だった。本来の設備からサイズが5倍になるため、入口や内部の空間が広い。通路の高さが10mくらいになるため、明かりが天井まで届かず、薄暗く感じる。

 滞在が長くなる可能性もあり、食料を運び込む量も膨大だ。僕が沼田へ接続先を変えてしまったので、江戸からの補給線は使えない。陸路での補給線は心許なく、最初に持ち込んだ分が頼りだ。それを失わない様に、物資の保管場所はしっかりした物を作っている。


「防衛用の陣地は、そのあと?」

「寝起きに適した場所を作るのが最初だ。敵の本隊が来るまでには、何とかする。それにこの施設、手を加えなくても戦える様に出来ている。陣地は要らないかもしれんな」




「飯山が奪われた」


 夕方、ジョージBに様子を聞きに行くと、敵が予想外の動きをしていた。

 新潟から長野に掛けては、それぞれの土地が奪われるまではジョージBの支配地として戦略ビューから情報が得られていた。その情報では、敵は佐渡から柏崎と直江津に上陸して、柏崎に上陸した一団は長岡を目指して進み、直江津に上陸した一団は妙高方面に進んでいた。長岡に向かう軍は関越トンネルを目指す可能性がとても高く、みさきちに警戒する様に連絡してある。

 直江津から来る軍は妙高高原を越えるルートを目指して、旧信越本線のルートで長野盆地に降りてくるというのがジョージBの予想だった。飯山へ来るというのは、ルート的に予想と外れるし、さらに移動速度としても異常に速い。


「あの移動速度は、地上を進んだのでは難しい。街を落とせるだけの兵力が、飛行出来ると考えた方が良いだろう」


 ジョージBの空中要塞ならそれ以上の移動速度で大兵力を運べるけど、向こうにはそれらしい兵器は無かったというのがジョージBが佐渡で見た情報だった。それがこの様に動けるとなったら、沼田を奪取して関越トンネルを通るという作戦も現実味を帯びてくる。


「この情報を美咲には……」

「伝えた方が良いだろう。敵に飛行部隊が次に標的にするのは、沼田になるかもしれん」


 飯山を攻略される過程についてジョージBと話し合っていると、ジョージBの戦略ビューの話になった。


「領内に飛行する敵が来ていたのは把握していた。しかし、せいぜい数人だった。その数で街を攻略するとなると、この戦いは人数では無く質の比較になる」


 数人居れば街を攻略出来るってのは、こちらの女神に相当する者が向こうに居れば可能だろう。あるいは、魔王やジョージBみたいな。


「そして飯山を落とされたという事は、北陸新幹線のトンネルが敵の手に落ちたという事だ。少数精鋭は街を攻撃出来ても、完全に制圧するのは不向きだ。纏まった数を送り込むなら、インフラが重要になるが、それが敵の手に落ちた」


 熱海や三島を巡る攻防で、丹那トンネルは重要な役目を果たした。それと同じ事が、飯山トンネルでも起きているのか。しかし飯山トンネルって、本来の長さが22kmだから、ここでは110km。歩いて移動ではとてもじゃないけど短時間に兵力を送り込めないはず。


「相手が技術を捨てた長尾だという前提で考えて、鉄道の利用は無いだろうとは思う。しかし、ターン進行に影響させない抜け道について、俺たちより詳しいかも知れん。例えば、半日だけ鉄道が存在して、夜までに無くなれば問題が無い、とかな」


 今更そう言う事を実験出来ないけど、ずっと余裕があった時代にそう言う事を試して居たら、うまい方法を見付けているかも知れない。出来る事なら、そう言う情報の交換も含めて、協力出来る仲間になれたら良いのだけど。




 夜は飯山の件を伝えに、沼田に移動。みさきちと沼田の上層部に状況を説明し、空への備えを促した。

 沼田を一時的にみさきちが預かるという扱いにしてみると、戦略ビューで領内の状況が掴める事が分かった。敵を示す赤い点は、今のところは居ない。でもこれ、みさきちが寝てる間に奇襲を掛けられたら、戦略ビューによる発見をし損なうんじゃないか。


「日中は目視による監視、夜間はみさきちが監視とかは?」

「私に昼夜逆転生活をしろって? でも、それしか仕方が無いかもね。ここの女神様にも相談して、役割を分担出来ないか聞いてみるわ」


 交代で戦略ビューを監視ってのは、松代でも可能だ。自らの領土と自らの周囲を監視出来る戦略ビューなら、連邦全体の監視はジョージBにしか出来ないけど、松代付近は僕と魔王にも出来る。3人なら交代で見張るのは難しくない。明日にでもそれを話し合おう。




 翌朝、監視の件は明日でなく、すぐ話し合えば良かったと思う事になった。


「これだけ近ければ、僕らのでも分かるね」


 松代から目と鼻の先、たった10km先に、敵軍が居る。戦略ビューで把握出来る人数はそれ程多く無さそうで、1000人位。

 夜陰に紛れて妻女山から北へ川を渡った上杉謙信とは逆に、北から南へ川を渡って妻女山に上った。


「ここに布陣した俺の意図を理解して、自分が誰なのかアピールするベストな場所に来やがったな。海津に居る俺に対して、わざわざ妻女山を選ぶとは。武田に対して長尾だとアピールしたいわけだな」


 今居る場所から西に10kmの所に、妻女山という小高い山がある。後の上杉謙信こと上杉政虎は、第4次川中島合戦の際に武田軍の海津城に近い妻女山に布陣した。


「史実の武田信玄は、妻女山に陣取った上杉謙信に対して、味方の海津城と挟み撃ちにすべく、妻女山の西に陣取った。今の状況はその逆で、海津に居る俺達を、妻女山と北側の本隊で挟もうという訳だ。そんな目的で敵領深くまで進んだ妻女山の敵軍は、さぞかし精鋭揃いだろう。さて、どうするかね」


 啄木鳥戦法を提案する軍師は、ここには居ない。歴史の故事にこだわるなら、ご飯を炊く煙を多く上げたら、妻女山を降りないだろうかろうか?


―――


「いきなり目前に我らが現れて、さぞかし驚いている事でしょう」

「そうとも限らん。あいつにも見えてたんじゃ無いのか。見えた上で、面白い余興としてここに俺達が来るのを見逃したかもしれん」


 敵の陣地まで10kmはあるので人の姿は見えないが、佐渡で見かけたデススターもどきは砲台をこちらに向けて威嚇している様だ。


 こちらの陣地に居るのは、飛べる者であり、勇者である。

 そんな勇者達が、拠点として必要な砦を建築中だ。ストレージから武器を取り出して配置する者、魔法で作り出した岩を配置する者、それを加工して岩壁にする者。砦の建設はお手の物で、1時間も知れば見慣れた形の砦になるだろう。個々の能力は世界の最高水準で、1000人で数十万の兵士にも引けを取らない。

 勇者は戦いって斃れても、復活する。復活場所が遠い異国では困るが、そうではない。ここに砦を造り、そこに俺が居れば、ここがこいつらの根拠地。彼らが斃れても、ここで(・・・)復活する。斃れても復活出来るとなれば、1000人で何百万人に相当する大兵力となる。


 頼もしい味方は、他にも居る。研究好きが高じて、スライムを使役した科学代替を専門にしている、俺の妹だ。


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