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10-11 着陣

「川中島の戦いに因んで、この場所に布陣?」

「そう言う事だ。その辺の面白みを、ヤツも理解してるだろう」


 川中島というのは、長野市の南にある犀川と千曲川が合流する辺りの地名。戦国時代に武田信玄と上杉謙信が5回も戦った場所として知られる。ちなみに上杉謙信というのは上杉家を譲られてからの名で、3回目の川中島の戦いまでは長尾景虎と言う名だった。5回の戦いで有名なのは規模が大きかった3回目の戦いで、啄木鳥の戦法だとか、一騎打ちだとか、そんな逸話がある。その時の武田軍が居た場所が海津城という城で、つまりここだ。ジョージBが武田と長尾の戦いの舞台に適してるというのは、そんな理由だ。


「それで、川中島を戦場にする?」

「いや、それはしない。それでは川中島の北にある長野の街は見捨てる事になるからな。あくまでも陣地をここに造るが、長野よりも向こうで迎え撃つさ」


 先に見た様に、各地から来た軍勢は長野の街を中心に展開している。ここ海津に居るのは、佐渡を攻めていた空中要塞に乗っていた3千人。長野には本隊の3万人が居るそうだ。


「関越ルートは封鎖出来たという事で良いのだな?」

「美咲が守ってるから、何かあれば連絡が来る。魔王軍をここに呼んだ後は、扉をここと沼田を繋ぐ様に配置するから、敵襲があれば援助に行ける」

「ならば、そちらは大丈夫か」


 本当に大丈夫なのかは、どんな敵が来るのか分からないため、何とも言えない。やれるだけの事はやった、というだけだ。




 ジョージBと話した日の午後から魔王軍の移動を開始して、1日半。長野の街近くへの魔王軍配置は困難で、魔王軍は空中要塞周辺に展開する事になった。呼んだのは、魔王軍の最精鋭部隊5千人。実質的に同盟関係にあるとは言え、他国の奥深くでの滞在だ。あまり多くを呼ぶと、食料や装備品の供給が出来なくなる。

 魔王軍の精鋭は魔法に秀でた戦士が多く、陣地の設営にも魔法が役立っている。山に丁度良い穴を見付けて、それを魔法で拡張して地下基地化しているという。


「戦いの混乱に乗じて、これを奪取してしまうと言うのはどうだ?」


 魔王と打ち合わせを行う場所は、僕の部屋の中。野営地ではどこで聞き耳を立てられてるかも分からないから、こんなギリギリの会話は出来ない。


「ここで三つ巴の戦いを始めるとか、本来の目的からどんどん遠ざかるって」


 目指すのは、この世界を持続するための、勝利条件の獲得。勝利条件の獲得者は、目的を同じくする者であれば誰であっても構わない。それがゆえに、ジョージBとの間でこの協力体制になっている訳だ。


「長尾も同じ目的であれば、この戦いもさっさと終わらせて、世界の延命を済ませてしまえば良い。そうすれば、思う存分、国盗りが出来る」

「そんなに戦乱が好きとか、ドン引きだよ」


 打ち合わせ後に建設中の地下基地を見に行くと、工事を始めたばかりにしては完成度が高く、そして広かった。


「ここは大きな洞窟がありまして、それをほとんどそのまま使えました」

「自然の洞窟ではありません。何かの目的で、大昔に造られた設備だったと思われます」


 現場の担当者はその様に言う。元々あった施設となれば、これも長尾が何かを隠した場所?


「そうか、ここは松代だったな。こんなデータまで反映されているとは」


 松代にある地下施設? 元の世界について魔王が知る事なら僕も知っているはずだと、何の事だろうと思い出そうとしていると、先に答えが告げられた。


「松代大本営ってやつだ。なんでこんな物まで反映されてるんだ、この世界は」


―――


「今日我々は、600年を超える時を隔て、またこの地にやって来た」


 遠征軍を率いる大ハーン様が、即席の演題から兵士達に語りかける。

 ここは上陸地点からすぐの、乗って来た船団を見下ろす台地の上。


「俺がこの大陸に居た頃、この大陸の災いの種(・・・・)は全て取り除いた。俺がこの地を離れたのは、他の大陸に残る災いの種(・・・・)を取り除く旅に出るためだった。それが成し遂げられる日も近い事は、諸君らも知っているだろう。しかし、俺にも1つ誤算があった。災いの種(・・・・)は、再びどこかからこの大陸に蒔かれてしまったのだ」


 大ハーン様がやってきた大事業、それは災いの種(・・・・)である科学を全ての大陸から消し去る事。その為に世界へ征服事業を続けてきた。当初はケモミミ族の数も少なかった為、征服した地から科学を消し去ったら、次の大陸に移動していた。やがて人数が増えてきた為、征服地に民をいくらか残して次の大陸に向かう様になったが、最初の大陸であるここにはケモミミ族を残して居らず、被征服者に後を託して居たそうだ。

 それから600年。後を託された者が使命を忘れたか、あるいはそれらが滅びたのか、短期間で科学は息を吹き返してしまった。科学が蔓延ると、世界は寿命を消費する。それを再び教えて、科学を封印するための遠征。それがこの戦いだ。


「敵は科学を駆使して、我らの行く手に立ち塞がるだろう。それも、最初に俺が倒した科学文明を越える段階まで、敵は進んでしまった。佐渡で戦った様に、未知の兵器も登場している。油断は出来ない相手だ」


 居並ぶ兵士は、サドで恐ろしい物を見た。空を飛ぶ銀の要塞は、我らの魔法を跳ね返して、攻撃を寄せ付けなかった。あの様な物は、これまで見た事も無かった。


「しかし、諸君らは不死の戦士、俺やその眷属が有る限り、諸君らは無敵だ。傷は魔法で跡を残さず治す事が出来、治る間無く倒れても有るべき姿で甦る事が出来る」


 ここに居るのは、一般の兵士では無い。全てが勇者と呼ばれる存在。両手両足を失う様な怪我からも回復出来、命を失おうとも主の旗印の下に甦る。

 そんな勇者が世界から呼び集められ、ここに居る。その数は1万3千人。街に1人しか生み出せない勇者がこれだけ集まれるのが、世界の大部分を制した我らの強みだ。


「これは、世界を守る正義の戦い。我らの敵は、あの山の向こうに居る。いざ進もう、我が勇者達」


―――


「鞭声粛々夜河を渡る」

「確かに川も渡っていますが」


 上陸地点から、陸を行く者と空を行く者に別れた。飛行の魔法を得た者も居れば、他の事に秀でた者も居る。

 飛べる者は偵察も兼ねて先行し、飛べない者は物資の運搬も行いながら地上を行く。どこに敵が居るか分からない敵地へ侵攻する際、有効だった方法だ。飛べる者でも荷物が多ければ、航続距離が落ちてしまうからだ。

 そして我々は、先行して空を行く者。敵からは気付かれない夜間飛行で、敵の配置を偵察するのが目的だ。


「俺の先祖じゃ無いと思うが、そう詩に詠われた者が居てな。夜間に川を渡り、翌朝の霧の中で奇襲を掛けたそうだ」

「それは我々のやろうとしている事と似ていますな」


 そんな話をするサダミツ様は、大ハーン様と瓜二つで双子、いや、7つ子(・・・)かと思わせる様な方。大昔に大ハーン様と出会い、そして戦いに敗れ、それ以来配下となったそうだ。

 眼下には真っ暗な山々と、たまに月の光を反射する川があるだけ。地上からの空高く、声を聞かれる心配は無いが、大声を出したりはしない。


「その奇襲が行われた戦いの地が、この先にあるんだ。この戦いが終わったら、そんな場所を見に行きたいのだが」

「『この戦いが終わったら』というのは……」

「おっと、失言だったな。そんな事を言うと、まるで俺が死ぬみたいじゃないか」


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