10-10 進む迎撃準備
僕のパソコンの前に、わらわらと集まるメンバー。みさきちとリン、魔王にハコネとオダワラさん。標高を色分けしてくれる地図で、どこを通るのが大変かを予想する。
「新潟から関東へは、距離と標高の低さを考えたら、関越自動車道に沿って進むのが最適なルートなんだ。関越トンネルを通過できるようにするには、両端の街を支配しないと行けない。そうなると、沼田の街がとても重要になる」
各勢力の進軍ルートを考えるに、道路がしっかり整備された場所でも標高4000mが上限だ。そうなると、関東と新潟を繋ぐルートは、大回りの猪苗代湖経由か、トンネルで高山の下を抜ける関越道だけ。軽井沢も八ヶ岳西麓も標高が高すぎて、越えるのは辛い。名古屋方面からなら、中央道沿いに諏訪湖まで進んでそこから北上するルートが条件に合う。連邦の軍はそのルートで来るだろう。
問題の関越道は、関東側で最北の都市は沼田という。日本史では戦国末に真田家が居た場所だ。そこは日本史でもこの世界でも、重要な拠点だ。
「我が軍を差し向けると、現地の勢力と争いを生み、防衛の前に一騒動になってしまいそうだな」
「沼田へなら、私の方が良いわね」
魔王軍はダメで、みさきちの足利軍はOK。僕が水上へ向かって、僕の部屋を通ってのどこでもドア作戦で良いか。魔王軍は、長野に行って主力として戦ってもらう事になる。
僕が沼田と長野へ行く間に、ハコネが八王子と江戸に行って、足利軍を八王子から沼田へ、魔王軍を江戸から長野に輸送。最終的にハコネにも長野に来てもらう。
リンとスライム達は、自力で移動するという。リンだけでも僕と一緒に行っても良いのだろうけど、1人で来るのだとか。
リンについては、相手が兄である場合にどう行動するか読めないと、ジョージBが心配している。敵に回らないまでも、中立という事もあり得る。この1人で来るというのも、本当にそういう積もりなのかも知れない。僕はそれに関して、何も強制は出来ない。
翌日の午前、僕は沼田に向かう。利根川を遡って、片品川と別れてすぐ現れる台地の上に、その街はあった。初めて来る場所だけど、足利家は北関東の諸領とは友好関係を築いているそうで、受け入れて貰える下地はある。
僕が到着してすぐ、みさきちと足利家の人達数人を呼び出す。いきなり大人数で来ると警戒するだろうから、最初は少人数で交渉に行くそうだ。その交渉には、僕は加わらない。ちょうど沼田の城に向かう時に、ジョージBから外交での呼び出しがあったからだ。
「敵の正体が分かった。ケモミミを持つ人間だ」
「って事は、アイツに関係する事は確定だろうね」
ケモミミを連れていずこかに去った長尾。本人が居るのかまではまだ分からないが、歴史的には関係ある勢力だろう。
「敵船をいくつか焼いたが、多少の足止めにしかならないだろう。やつら遠征軍は魔法に長けていて、火砲に相当する様な威力の攻撃を放ってくる。魔法で飛行する者もあり、艦隊に乗り込んで来やがる。空中要塞は無事だが、艦隊は危険なため撤退させている」
ある程度離れると向かって来ないのは分かったそうで、魔法による飛行の航続距離を考えての攻撃だからだろう。
艦隊は直江津へ撤退する途中で、上陸後はスライム船は解体して、一緒に長野に向かうという。
「空中要塞はしばらく佐渡に留めて、嫌がらせでもしてやるさ。ただ、長居をするとその間に弱点が発見される恐れもある。危なくなったら長野に向かわせるが、そっちの準備はどうだ?」
「魔王軍を向かわせる準備はしてる。連邦軍もそこには居るんだっけ?」
「現地の軍が僅かに居るが、本隊は名古屋から向かっている途中だ。本隊が到着するまで、魔王軍は送り込まない方が良いだろう。現地の連中が、受け入れるとは思えん」
そりゃ、魔王が来ましたって言われたら、北から来るという未知の敵よりも警戒心を煽るだろう。魔王軍の進軍は、ジョージBが到着して、その混乱を収拾できるようになってからが良さそうだ。
「本人が出て来てくれたら、何をしたいのか問い正せるのだがな。アイツも俺の様に不死であれば、向かって来ると思うのだが」
「不死でも、やられたら拠点に戻されるんじゃ、危ない事はしないんじゃ? 他の大陸からまた来るの、遠いし」
「アイツも俺と同じだったら、そうだがな」
ジョージBとの外交を終わって、沼田での交渉結果を待つ。街を見て回ると、連邦が入ってきた神奈川と違って、昔ながらの佇まいだ。毛皮をなめす作業場があるのは、標高が高くて冬は寒いからだろうか。
台地の上で水を得るために、用水路が続いており、それを掃除している人が居る。こうやって人が苦労して住む整備して、街が出来ているのだ。戦乱でこういう資産を維持する人が居なくなると、街は終わってしまう。
そんな風に街を見て城の前に辿り着くと、みさきちから外交の要請が入った。
「了解は得られなかった。北から来るのが危険な存在なのか、それが分からないって。何も無いに私達が来る事のリスクの方が大きいって思ってるみたい」
「その北から来る人達、ジョージBから少し情報が入ったよ」
その話をすると、すぐにそれを伝えたいそうで、僕も交渉に参加する事になった。
城の入口にみさきちの仲間が迎えに来て、城内に入る。呼びに来た人は以前からここに出入りして、どんな街か調べていたのだとか。江戸に国王がいた時代もここまでその権力は届かなかったらしく、外部の干渉を受けたがらないそうだ。
そして来客用の部屋でみさきちに合流した。
「ケモミミってのは、大昔に大魔王だった長尾さんを支えていた種族よね」
「そう言う事。つまりこれからやって来るのは、大昔に大陸を支配した大魔王の再来、って言う可能性がある」
「それを伝えて、翻意を願いましょう」
今度は僕も参加しての、2回目の交渉。
大昔の大魔王について話すと、それにはとても興味がありそうだ。大昔、他の地域では大魔王に追い払われて人々は山に逃げ、大魔王が去った後に戻って来た人の子孫が今の住人だけど、この地では大魔王支配下でそのまま暮らしていたらしい。
「この街を破壊しては、トンネルが使えないからです」
説明してくれるのは、歴史に詳しい大臣。
「もし大魔王が戻って来ると言うのなら、必ずこの街を支配下に置こうとするでしょう。皆さんと一緒に大魔王と戦うか、それとも大魔王の軍門に降るか、大きな問題です」
結局即答は出来ないから、返事は待って欲しいそうだ。
そして翌日、回答があった。足利軍を受け入れると。
この地の女神は政治には関係しないけど、大昔を知る者として領主が意見を求めたそうだ。すると、大魔王の支配には反対だと言ったとか。細かい理由は教えてくれなかったけど、相当嫌な目に遭ったらしい。長尾、何やらかした?
細かい調整も済んで、足利軍の移動を開始。資材を持った足利軍がやって来て、1日掛けて宿舎を作る。街の人に迷惑を掛けないため、物資は持ち込みだ。どこでもドア状態の僕の部屋は、今日も便利な道具として使われる。
それから5日後、長野にジョージBが到着と聞いて、魔王軍の移動に向けた準備を開始する。
僕が長野に着いたのは、連絡があってから半日後。既に名古屋方面から来た部隊が到着して、長野の街から南側に展開している。
そして空中要塞があるのは、街から南に離れた川沿い。そこに行くと、ジョージBが待って居た。
「街から離れた場所に降りるのは分かるけど、ちょっと遠くない?」
「ここがどこか知ってるか? 日本史に名が残る、海津城があった場所、松代だ。武田である俺が、長尾を迎え撃つのに最適な場所だろう?」




