10-9 まだ見ぬ敵の襲来
小田原での会議から5日後。
雪が溶けてきた仙石原にハコネとゴーラ、アリサとマリが集まって、新しい兵器の開発なんて事をやってる。スライム頼みで活躍出来ず、危機感を持っていたマリの提案によるものだ。
科学はダメという事で、魔法だけを使う物という制限を課している。元からマリの発明品はそう言う物が多いから、大した制限ではない。
僕の方はと言うと、オダワラさん、アタミさん、ミシマさんの協力を得て、科学の産物を無くしていく活動を進めていた。
リンによるルアの解析で、標的となる技術がその勢力に存在するか調べる事が可能になり、これらの作業は進めやすくなった。例えば、鉄道は線路が存在しても鉄道技術ありとは見なされ無い事が分かった。先進国がやって来て線路を領内に引いても、その国に技術は無いって感じか。
そしてどこまで使えば鉄道技術有りという扱いになるかというと、動力を積んだ列車の運行を行うかで判断されていた。つまり、蒸気機関車やディーゼルカー、電気機関車や電車は鉄道技術の産物で、人や馬が貨車や客車を引っ張っても鉄道技術扱いにならない。他には、自然の力で動く場合、例としては以前熱海に設置した水力式ケーブルカーなんてのは、鉄道技術扱いを免れていた。なんだ、この微妙な線引きは。
さらに微妙な所が、ヨコハマさんが試してた魔法で動く地下鉄。あれをヨコハマという都市で運営したら鉄道技術あり、ヨコハマさんが個人的(?)に持ってると対象外。ヨコハマさんの笑顔は守られた。
そんな感じで、ルアを解析するリンの役目は増すばかり。同盟諸領から産業時代以降の科学産物を無くす活動は、あと少しで終わりそうだ。そしてこの活動を、大陸全土にも拡げていく予定だ。既に氏綱さんが説明して回っており、同意を取り付けた地域から活動を開始する。連邦からも指令が出ているため、反対する人も大っぴらには言えない様だ。独裁国家の習慣が消えない内に成し遂げてしまった方が良いだろう。
僕らがそんな事をやっている間に、行方不明になった連邦軍艦隊の捜索と帰還を目的とした、新しい艦隊が日本海へ船出した。艦隊に収容の兵力は、前回の3倍。さらに空中要塞にも多数の乗員を乗せて同行する。空中要塞は常時滞空するとエーテル消費が激しいため、通常は海上を浮遊しながら移動し、臨戦態勢に入る際にだけ上昇するそうだ。
要塞は僕らとの戦闘後に強化され、収納可能な砲台が全方位に搭載されているのだとか。あの僕らを封じるための部屋は、まだあるのだろうか。
「いいアイデアを貰った。私達の砲台も作ろう」
連邦の空中要塞は小型砲を多数付けているタイプだけど、リンが作るなら超大型砲が1つ。その方がロマンがあるからって。そこに実用性はあるのだろうか。
そして今回は、ジョージBも要塞に搭乗して出陣だそうで。
「こういう戦いに赴くのが好きなんだろうね」
「私も行きたかった」
リンが一緒に行きたかったというのは、相手が兄である長尾かも知れないからだ。会えば敵対しなくて済むかもしれないと。しかし、ジョージBは逆に心配しただろう。説得により、リンが敵に回らないかって。艦隊もスライムに依存しているため、リンが離反すると何もかもが破綻する。
「まあこちらの仕事も大切なんで、再会はまたの機会って事で」
艦隊が出発してすぐのタイミングで、ジョージBからの外交呼び出しが掛かる。呼び出しに応じると、呼ばれていたのは僕とリンに加えて、魔王やみさきちもだ。勢力を構えた全員への呼び出しだった。
「これだけの数を1度に呼ぶなんて事は、初じゃ無いか?」
「そんな全員呼び出す様な事態なの?」
リンとみさきちが問うのはもっともだ。
「敵襲だ。場所は佐渡。艦おそらく敵の目的は、佐渡を足場とした大陸への侵攻だ。隊を佐渡へ向けて居るが、我らのみで撃退が可能な敵であるか、確証は無い。そこで、今回の外敵排除について、大陸全土の勢力に協力を求めたい」
ジョージBの戦略ビューで、支配地である佐渡への敵襲が分かったそうだ。既に上陸を開始しており、このままでは数日中に陥落する、戦略ビューの情報から、彼らの艦隊兵力に対して数倍は居る軍団である。
「佐渡が陥ちると、大陸侵攻が始まるだろう。我々の艦隊で、少しでも佐渡で時間を稼ぐ。稼いだ時間で、大陸側の防衛準備を整えねばならない」
上陸後に想定されるのは、日本海側を通っての関西侵攻、大陸を横断しての関東侵攻だ。関東方面では、僕らの協力が必要という。
連邦は東海、北陸、近畿、中国に加えて、長野、山梨までを支配している。連邦の長野、山梨、静岡の軍団が北上し、長野の北部に防衛線を築く。また関東からも、状況により長野方面へ援軍を送る。越後山脈越えや阿賀野川沿いから関東を目指す敵が居るようなら、関東の軍はそちらへの備えに回らねばならない。
「敵の正体は既に分かっている?」
「まだ不明だが、佐渡に行けば分かるだろう。もしお前の兄なら、どうする?」
「その時は……」
―――
「敵は東側の湾に上陸後、両津を制圧し、西へ進んでいる」
戦略ビューという能力で、上様は遠方の支配地からの情報を得る事が出来る。その情報が得られているという事は、島の支配はまだ失われては居ない事が分かる。
今向かっているサドには、大した兵力を置いていない。エの字の右の窪みに主要な街であるリョウツ、エの下の棒左端にオギの街と城があり、エの左右に延びる棒には山地がある。
「我らは上陸しての決戦は望まず、船のみを狙う。上陸した敵を乗せて来た艦艇を半分でも沈めれば、敵は大陸へ半数ずつを2度に分けて運ばざるを得ず、かなりの時間を要する」
リョウツを制圧後、陸海からオギを目指す敵軍が目的地に到着する頃には、我ら艦隊が到着するだろう。しかし、上様はオギに援軍を送るのでは無く、サドに渡った船を攻撃するという。サドの防衛は諦め、サドから大陸へ向かう敵の足を奪うのが目的だ。
「正体不明の敵軍だが、先に我らの艦隊を倒した連中である可能性は濃厚だ。我ら艦隊も、如何なる形でか、奇襲を受ける可能性がある。警戒を厳重にする様に」
打ち合わせ後、上様を乗せた要塞は浮上し、空中から敵襲を警戒する。目視であれば、高い所に居る事は遠方の敵を発見する事に繋がる。
警戒しつつの航海が2日、サドまであと1日という所で、ついに上空を先行する要塞から敵発見の一報が入った。飛行する物が見えるとの事。
艦隊の位置まで後退した要塞から、通信士が手旗信号で状況を連絡してくる。
「敵もこちらの要塞を発見し、魔法射程外まで接近後、撤退」
「艦隊は発見されていない可能性が高いか」
空中を進む要塞に、敵はどんな攻撃を掛けてくるか。
我々が敵の立場ならどうする? 当然、飛べる者を当てる。だが、飛べた所で、要塞に潜入する方法があるだろうか? 既に1回、侵入を許しているが、同じ手を食らわない様に対策はしてある。
「要塞はそのまま前進、艦隊は迂回して敵艦艇を攻撃?」
「要塞を危険に晒しますが、上様はその様な指示を?」
確認の信号を送った所、上様が飛んで来た。我が軍で自由に飛べる者は、艦隊に3人。うち1人が上様だ。
「艦隊は飛べる者に弱い。敵方の飛べる者は、要塞で引き受けるつもりだ」
「上様が最も危険な役割を引き受け、我らは上様を囮にするかの様に迂回。その様な事をする訳には……」
「案ずるな。俺はお前達より、少し死ににくく出来ている。恐れる事は何も無い」




