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10-6 リンとルア

 不思議な事に、このパソコンから元の世界にあった情報にアクセス出来る。この世界が作られた時点の更新が止まっているので、その時にインターネット上にあった情報がコピーされた物なのだろう。いや、インターネットって、そんな程度の情報量じゃ無いでしょうに。だから、不思議である。

 そしてそのパソコンの前には、書類の解析を手伝うでも無く、これまで通りパソコンに向かっているリン。


「ルア!」


 普段はテンション低めのリンが、飛び上がる様に喜んでる。

 何が起きたのか? リンが言うのは、ルアから情報を取れた、という事。

 どれどれと、パソコンの画面を見ても、黒い画面に青や白の文字が並ぶだけ。

 うん、分からない。


「簡単に説明してくれる?」

「このパソコンはインターネットに繋がってる様に見える(・・・)けど、実際にはルアと繋がってる。仮想的な偽インターネットを、ルアが見せてる」


 そう言うと、アプリをブラウザーに切り替え、ゲームの攻略サイトを開く。特におかしな所は無いけど、これが偽インターネットと。


「今回で来たというアクセスは、このレベルじゃ無い。ルアの仕事はこういうことで無く、この世界にあるあらゆる物の情報やパラメーター、例えば……」


 そう言うと、リンは自身の髪をひとつまみ手に取る。


「何本髪がある、それぞれの髪の長さは何センチ、ってのから始まり、多分私達を構成する原子の配置まで。あらゆる情報が、ルアの元にある。そこへのアクセスを狙ってる」

「その情報って、膨大過ぎない? この世界にある全ての原子がどこにあるか記録なんてしたら、その膨大な情報はどこに収められるの? それにその情報は、僕らが動くだけで変わるんだから、膨大な情報を常に変更し続けてる。そんな処理が、出来る?」

「そう、情報は、この世界には収まらない。それだけの処理をコンピューターで行うとしたら、天文学的規模のエネルギーが必要。太陽1つ丸ごとを電源に使うくらいかも。それを処理する装置までは、想像も付かない」


 人類文明がどこまでも進歩していくと、いつか辿り着くだろうと言われてる、太陽が放つ全てのエネルギーを利用する段階。それを全て使って演算する様な、桁違いのコンピューター。そんなものが存在していて、それによって僕らがここに居るとか、普通は空想の産物でしかない。


「膨大な情報へアクセスしても、見たい情報に辿り着く事は無理。でもルアを通せば、膨大な情報から欲しいものを取ってくる事が出来る。その仕組みを利用してるのが、戦略ビューや戦術ビュー、あとは鑑定魔法とか。そこがヒントになって、欲しい情報を貰う方法を見つけた」


 そう言えば戦術ビューってのは、目の前に居る相手が何者かをAR(仮想現実)表示してくれるけど、髪の毛が何本とか無駄な情報は見せてこない。ルアが僕らの「視界に捕らえた物」に対して介入して、決まったフォーマットで情報を表示してくれてるからだと。

 この解釈は、どこかに書いてある物で無く、リンが見付けた「アクセス手段」によって、ルアから引き出した情報らしい。


「この端末でアクセスしなくても、ルアが決めた規格の情報は、私達に届けられてる。でも規格にない情報を貰うには、要望の情報を伝える手段が必要。そのために、この端末を使った」


 そんな話をしていると、ベランダからハコネとオダワラさんがやって来た。2人にもそれを話すと、


「それは、ルア様に祈るのと同じなのでは?」


 僕が最初にハコネと会った時、ハコネはルアと交信していた。どうも女神にはそういう交信能力があるらしい。僕からだと、願い事を念じるという形で届いては居るけど、それ以外は交信出来てない。


「願い事は、人間単独でする物では無いから。近くに交信可能な女神が居て、それを介してルア様に伝わってるのでしょう」

「我が女神の力を無くして居った時も、ルア様に言葉は通じた。その辺は謎じゃな」


 そうなると、女神の力で無く、ハコネを認識して通信路を持っていた事になる。

 その辺は、今はどうでも良い事なので、置いておこう。


「それで、この世界の終わりに対して、何か出来そう?」


 リンが挑戦していたのは、全てこれのため。終了ターンの情報を書き換える事が出来ないかって。


「まだそこまでは出来てないけど、たどり着けると思う。これから色々試してみる」




「比較的新しい時期の指示が、移住者を募るもので、北へ向かわせてた事が書かれてたわ」


 八王子の城を訪問し、城主の執務室でみさきちに進展を聞きに来た。

 みさきちの書類調査も3日目。着々と調べが進み、民族大移動は北へ向けてだった事が分かってきた。


「北って、福島方面?」

「鬼怒川じゃなく利根川を進んでるから、新潟へ向かったんだと思うわ」


 昔の事とは言え、かなりの人数が移動したとなれば、何か痕跡があるのでは無いか。そんな思いで、予想されたルート沿いに、調査隊を送って調べる事にした。そのルート沿いにも街があるので、各地で聞き取りをしながらの行脚になる。八王子から新潟まで行くと…… この大陸なら1500kmもある。そこまで調査に行くのは難しいので、とりあえずは利根川の上流までと言う事にした。


「それで、リンは?」

「僕の部屋」


 リンは再びパソコンの前に齧り付き、出て来ない。寝に帰る時間も惜しいそうで、僕のベッドを明け渡し、使わせてる。いつ起きていつ寝てるのか分からないけど、寝てる姿を見た覚えが無い。どんどん面白くなってきたそうで、話しかけられるのを面倒がる程だ。この身体って、過労で病気になったりはしないんだろうか?

 調査隊を送るに際して、通信網としてリンの力も借りたいので、1度話をしておかないといけない。


「リン、どう?」


 リンは…… 寝てた。珍しい。


「寝てるとただの中学生」

「何か酷い事を言われた気がする」


 あ、起きた。


「リン、進み具合、どう?」

「多くの情報を読み取る事に成功。勝利条件も読み取れた。制覇勝利なら、7つの大陸全てで50%の人口を持つ事。現在、3大陸でそれを成し遂げた未知の勢力がある」


 少し眠そうな、寝癖が付いた顔のまま、リンが説明してくれる。この制覇勝利ってのをジョージBは目指すけど、既に巨大勢力がある大陸への船出になったのか。


「科学勝利は、月面に100万人を住まわせる事」

「何それ、ハードルが高すぎない?」


 まだ月に行く手段も無い状態から、そこに大都市を作るところまで。ちなみにこの大陸にある大都市は、ジョージBが首都にしてる名古屋が20万人。関東では5万人に到達してる都市は、江戸と横浜だけ。それぞれの領都が人口1万人から2万人。都市への人口集中が起きてないからだ。いくつかの先進的な街以外は、昔ながらの生活だし。

 閑話休題。


「他の勝利条件は、無効になってる」

「じゃあ、今の2つのどっちか、やりとげるしか無いか」


 ジョージBの制覇勝利が間に合うのか、それもかなり難しい。あるいは、未知の巨大勢力にこの大陸も飲み込まれた方が、ゴールは近いかも。


「読み取りは出来たけど、書き換えは出来てない」

「それが簡単にできれば、苦労は無いわね」

「いや、出来そうな方法は見付けた」


 ほう! それが出来るなら、世界の終わりを無限の彼方に延期も出来そうじゃないか。


「何が足りない?」

「ホスト権限者でないと、変更を提案出来ない」

「ホスト権限とか、聞いた事無いわね」


 ホスト権限…… それ、封印からこの世界に戻った時に、僕が得てなかったっけ?


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