10-5 太古の遺物
このダンジョンを隠して、さらに守護者としてビッグクローを配置。それを仕掛けたのは、誰か?
リンは、仕掛け人は彼女の兄である長尾だと推測している。それはビッグクローに似た物を、リンは兄の部屋で見たのだと。プラモデルで。
リンが予想した弱点をハコネには伝えてある。その状態まで持って行けるかが鍵だ。
「では、参るとしよう。ゴーラ、前進じゃ!」
ハコネの指示があると、ゴーラはビッグクローに突撃。ビッグクローは頂点の1つを前面に持つ三角形で、長い2本の腕には、物を掴むための爪。その爪でゴーラを捕らえようと、腕を伸ばす。
「そんな簡単に捕まってなるものか。表面を覆うのじゃ!」
爪に捕らえられそうになるも、表面にスライム層を作り、爪が滑って難を逃れるゴーラ。ビッグクローの目前まで肉薄すると、ゴーラはスライムを放ってビッグクローを溶かしに掛かる。目前まで迫ると腕が長すぎて攻撃出来ないんじゃ無いか、という狙いがあるのだけど、果たしてどうだろうか。
すると、ビッグクローは急前進して、そのくちばしの様な頂点の先にゴーラを捕らえたまま、壁に体当たりする。頑丈なゴーラとて巨体と壁に挟まれては危ないが、壁に当たる直前にビッグクローの前から抜け出し、難を逃れる。しかしそこを、長い腕で捕らえた。ゴーラがその様に逃げる事も想定して、そこを捕まえる作戦か。
「大丈夫なの!?」
みさきちが心配するも、作戦を知ってるリンと僕は大丈夫と頷く。爪で掴まれた所で、その爪にゴーラを破壊する程の力は無いだろうと。同じ材質が使われる機体同士、爪の太さから、爪だけでゴーラの破壊は困難という計算は、昨晩の内にしてあるのだ。やったのは、リンだけど。
ところが、ビッグクローは予想と違う動きを始めた。長い腕を振り回し、爪で捕らえたゴーラを縦に振るビッグクロー。まるで、シェイカーを振るかの様。その動きで、ゴーラが壊れる事は無い。でも、中の人は?
やがてビッグクローの動きが止まったけど、ゴーラに動きは無い。
「動かないんだけど!?」
またみさきちが心配するも、まだ大丈夫と信じる。たとえハコネが中でのびてても、ゴーラは動ける筈。
そして、トドメを刺さんと、ビッグクローの嘴の様な、頂点先端が開く。開いた中には、砲口らしき物。やっぱりそう言う設計か!
そして、その瞬間を待っていたゴーラ。現れたビッグクローの砲口に対して、ゴーラからスライム的な粘液が放たれる。出て来た砲口を攻撃は、お約束。
やはりというか、そこは弱点らしく、慌ててゴーラを投げ捨てると、爪でスライムを取り出そうとするビッグクローだが、スライムを取り出す細かい動きは出来ない。やがて中枢部分を溶かされたのか、反応が無くなった。
「ハコネ?」
ゴーラの中を見に行くと、ハコネが目を回していた。シートベルトで席に固定されてたので怪我は無いが、シェイクされてしまって酔ったらしい。
ビッグクローを倒して進んだ先には、再びトンネル状の空間。しかし奥行きは短く、狭い。そしてそこに並ぶのは、白く輝く金属の箱が1つ。
「財宝じゃろうか?」
「開けてみないと何とも言えないけど、罠が仕掛けられてないか、注意して開け……あっ! リン、みさきち、ちょっと下がって!」
言い終わる前に、ハコネが箱を開けた。罠は無い様に見える、実は古代の危険な病原菌が封印されていて何て事だと、えらい事になる。念のためにリンとみさきちは、少し後ろで見ててもらう。
「剣、あとは何に使うか分からぬ魔道具じゃな。これで仕舞いか。しょぼいのう」
と、ハコネがまんまと騙されたけど、もう仕掛けは分かってる。
「じゃあ、リン、またやっちゃって」
ビッグクローがいた大部屋に入ったのと同じで、この先にもトンネルが続いている設計な事を、設計者のリンは知っている。この先の空間に進むために、スライムで壁を溶かすと、やはりトンネルがあった。
「ライト!」
また大きな空間に出て、連れてきたスライムの明かりでは足りず、魔法で光を灯す。
照らされた巨大空間にあったのは、白い金属の箱。ただしこちらは膨大な数。これが本命で、ダミーとしてさっきの宝が配置されていたのだろう。
「じゃあ、ハコネ、また開けて良いよ」
「漢解除要員ね」
みさきちの言う漢解除、それは1度発動した罠は再度発動しないという仕組みを期待した、あえて罠を発動させて解除する方法。女神がやっても漢解除。ハコネやオダワラさんには通じないけど、意味を知ってたらオダワラさんは止めるだろう。
「中身は、砂じゃな」
「砂?」
確かに白い砂が入ってるけど、少し掘ってみると砂の下には書類が入っていた。書類は2cmくらいの厚みで、端開けた穴に紐を通して綴じてある。そんなのが、1箱当たり10冊。
「この砂は、他でも書類と一緒に発見されている物よ。乾燥剤みたい」
書類を長年地下に保管すると、湿気でカビが生じてしまう。それを防ぐために、乾燥剤として使える砂が一緒に入れてある。江戸のダンジョンでも同じ様な保管状況だったそうだ。つまり、ここも同じ人々が残した資料である可能性が高い。
「これ全部見るには、僕らだけじゃ時間がいくら有っても足りない。持って帰って、手分けして調べよう」
遺跡発見者はみさきちなので、膨大な書類は八王子に持ち込んだ。そう言う事務仕事を出来る人手もあるからね。
ハコネの扉を遺跡に、僕の扉を八王子城に設置して、箱を運んで行く。もし爆発する罠でもあるとまずいから、遺跡で開封してから運び出す。開封役は、あいかわらずハコネが担当。
「これも同じじゃな」
開けても開けても、砂の下に書類。一体どれだけの書類を保管したのやら。
ハコネが開けた箱を、僕とオダワラさんで城に運び、リンとみさきちに渡す。これまで10箱程開けたところ、書類に通し番号が付いている事が分かった。数字が小さい程、記載された時期が早いのだろう。
箱の外にも番号が書いてあった痕跡があるけど、ほぼ消えてしまった様で判読出来ない。箱の字が消える程の時間を経ても、中身が無事だったのは幸いだ。
「あと幾つ?」
「まだ100以上はある」
「全部読むのに何ヶ月かかるかしら……」
何ヶ月も時間が取れない状況だし、効率よく調べないと行けない。調べたい事は、大魔王となった長尾が何をしようとしていたのか。今どこに居るのかに繋がる情報があると、なお良い。そして、それ以外の情報も、貴重なこの世界の歴史資料。何がどこに書いてあったか、索引を作るのだ。その辺は、優秀な文官達を動員しているので、どんどん進む事だろう。
1冊を手に取り、ぱらぱらと流し読みすると、これは西へ遠征した部隊からの報告書だった。瀬戸内海らしい形の地図が載っている。
「この時代に長尾は、この大陸を征服したのか?」
半ば独り言のつぶやきに、書類を読んでいたリンが顔を上げる。
「その可能性は高い。大魔王の時代で、それ以前の科学技術が全て失われ、最近までそのままだった。無事だった地方があれば、そこから再び技術が拡散するはず。隅々まで征服して科学技術を失わせたと考えるのが、妥当」
そこまでやったのに、この大陸にそのまま君臨し続けず、行方不明。一体どこで何をやってるのだろう?
みさきちも書類に飽きつつあるのか、話に加わる。
「他の大陸に向かった遠征隊が、何か見付けて来るんじゃ無いかしら。あるいは、遭遇とか」
その遭遇が、不幸な遭遇で無い事を祈りたい。




