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10-3 大遠征の始まり

 遠征部隊のためにエーテルを運ぶ仕事、パイプラインを整備する仕事。担当の振り分けは、前者は僕とハコネがいると便利で、ハコネを連れていくと漏れなくオダワラさんが付いてくるので、3人。後者は近隣の事をよく知るミシマさんとゴテンバさん、丹那トンネル水源化の経験でアタミさん。


 魔王は、空を飛べる配下を使って、マッピングをしている。リンから聞いた世界地図で合ってるはずだが、太平洋の島がどうなっているか、近い所だけでも調べておくのだとか。文明を後退させる事になったら、航路の中継点が必要になるなんて言ってたから、それが狙いだろう。


 リンは僕の部屋でパソコンの前に張り付いており、姿を見せない。リンが作った世界マップを僕のパソコンにダウンロード出来たそうで、それをスライムに覚え込ませたそうだ。戦略ビューと見合わせれば、もう迷わない。スライムが自律的に目的地に運んでくれる。とても便利なシステムが出来上がった。引きこもりだけど、役に立ってるから良しとする、というのはちょっと上から目線で偉そうだろうか。


「リン、遠征の件だけど」

「リンツーに言って。全部任せてある」


 リンツーは、今はスライムに意識を分散させているけど、元はリンと同じ人。リンがジョージBに相当し、リンツーが僕に相当する。リンツーはリンよりすこし常識人な趣味人という様に、性格に違いがある。


「あとちょっとで出来そうだから、もうしばらく放置して欲しい」

「はいはい」


 僕がこの部屋で寝ても、リンはずっとパソコンに張り付いている。いつ寝てるのかも分からない。




 そしてそれから10日。準備が出来た最初の遠征隊が出発するにあたり、出航を見届けようとやって来たのは、清水港。ここが外征艦隊が出港する最初の港になったのは、僕らを攻撃するために富士川まで来た居た部隊を、近くの港からそのまま外征に回せるからだ。

 船を見上げる。船は思ったより大きく、サイズは都会にある高校の校舎くらいか。そんな船が12隻。これ全部が、金属入りスライムで出来ているとか、科学なんて要らないんじゃないかと思わせるインパクトがある。それを見せつけるのが目的か!?


 船を見上げる僕に近付いてきたのは、なんとジョージB。来てるんじゃ無いかと思ったけど、普通に1人で彷徨くのかよ。


「あの地図のお陰で、目的地はかなり絞れた。この部隊の行き先は、アメリカ西海岸だ。何らかの文明があるとすれば、そこは重要な候補地だ」

「リンツーとのやりとりは?」

「順調だ。事務的能力は抜群で、主よりも常識人。もう人じゃ無いか。支配下に入れられないのが残念だ」


 リンツーはリンの支配下にあり、それを奪う事は出来ない。多分大陸最強のリンを倒してリンツーの支配権を奪うなど、誰にも出来ない。


「さて、遠征隊の見送りだが、ついて来るか?」

「見せて貰えるなら、行こう」


 ジョージBに続いて甲板へ。エーテルを運ぶ時は船倉に直行だったので、甲板にはあまり縁が無かった。昔見た船艦みたいな、砲塔とやらは無い。あくまでも、長旅をするための輸送が主目的。もし敵が来てもスライムが自衛するため、何もする事が無いとか。

 そこには兵士が、それはそれは膨大な数。この船、何千人も乗ってるの!? いや、本当に兵士? 老若男女、いや老は居ないけど、子供まで居るし。だから遠征軍じゃ無くて、遠征隊なのか。


「遠征隊の諸君! 我らは世界に拡散する!」


 甲板を見下ろす1段高い場所に立つジョージB。


「今日までの数日、諸君らはこの世界がどのような状況に置かれているか、聞いた事だろう。我らの遠征は、欲望のためでは無い。世界のため、全世界の人類を救うためである。この第1艦隊は、その遠征事業の始まりである。東の大陸にも、我らの文明を築く。時には戦いもあるだろうが、我らの手により、世界が1つになるのだ」


―――


「私達の先祖が住んでいた、東の海を越えた地には、桜という美しい花が咲く木があってな。花が咲いたら、木の下で宴会を開いたそうだ」

「いつか見てみたいね」


 草原に建つ組み立て式の住居。その中で、父が子に先祖が暮らした地の伝説を教える。子は10歳になるかどうかと言う若さで、父もまだ30前の若さだ。600年も前に先祖が住んでいた地の事など、見た事は無い。こんな場合、伝説に尾ひれが付いて伝わる物だが、この部族ではそう言う事は無く、正しく伝わっている。なぜなら、これは代々口伝えで伝わってきた伝説では無く、伝説の時代から生きる者が直接教える歴史だからだ。

 

「この話をしたのはな、遠くない内に、そこに行く事になりそうだからだ」

「引っ越し?」

「雪解けを待ってからだがな」


 4月の草原はまだ寒く、越えて行くべき峠には雪も残っている。春の移動には少し早い時期だが、この遠征が長旅になる事を理由に、大ハーンはいつもより早い出発準備を命じたそうだ。

 今度の遠征は海を越えるそうで、大陸東端に住む第弐旗族には、大量の船を造る事が命じられているそうだ。つまり、東の海への航海になるのだろう。




 遡る事10日前。旗長の元から戻った族長から、召集が掛かった。


「さて、では父ちゃんは行ってくる。お前は母さんの手伝いをしてきなさい」


 息子を羊や馬の世話をする妻の元に送り出し、馬に乗って族長の住居に向かう。部族と言ってもそれぞれの住居は離れており、遠い者だと族長の住居まで馬でも半日を要する。


 我々の住居は全て同じ形をしており、骨組みと天幕を解体して持ち運びが可能。季節ごとの移住では、自らの収納魔法で運ぶか、それが出来ない者は族長に運んで貰う。

 ここの族長は収納魔法の容量が大きいため、800家族もの大集団を率いている。ここでの指導者選びのルールは、力で人を抑え付けられる事ではない。大所帯を運べる者が、指導者に相応しいのだ。


 そんな族長が1000人は居るという第参旗族。旗族というのはいわば1つの国で、その旗族を束ねるのが旗長だ。この旗長こそが、伝説の時代から生きている語り部であり、地域を任せられている大幹部だ。大帝国を地域の特性ごとに7つに分割し、草原を任されているのが第参旗族という事だ。

 その旗長が族長達に伝えたというのだ。大ハーン様が、先祖の地への遠征を望んでいると。世界に7人居る旗長の筆頭が、第壱旗長を兼ねる大ハーン様。世界に散らばる旗長達へは、大ハーン様は特別な力で命令を伝えられるそうだ。


 族長の住居に併設された議場には、族長の元には度々人が集められるため、乗ってきた馬を繋ぐための杭が多く準備されている。族長の住居にたどり着くと、既に馬が多く繋がれており、空いている杭を何とか見付けて馬を繋ぎ止め、中に入る。もう多くの者が集まっており、始まる寸前だった様だ。

 広い部屋の奥に掲げられた大きな旗。その前に座る、長く真っ直ぐな耳が特徴の族長。年齢は確か40を過ぎたくらいだっただろうか。


「サダミツ様のお言葉を伝える」


 サダミツ様というのは、旗長の名だ。名を大ハーン様から直接与えられたお方である。


「大ハーンとサダミツ様はあと30日程で、この地にいらっしゃる。東への大遠征だ。これは皆にとって、経験した事が無い長い旅になる。荷物を自ら運べる者は、お供するか各々(おもおの)が決めて良いが、(わし)は共に行く事になるため、荷物を運べない者は儂と来てもらう事になる」


 遠征は、季節ごとの決まった放牧地を移動するのと異なる、支配地拡大を目指した移動。周囲も大ハーン様の支配地域であるこの旗族には、たまに盗みに対して捕り物があるくらいで、戦いは永らく無い。それでもいつか来る戦いに備えて、腕は磨いてきた。


「遠征先は、海を越えて、我らの先祖が住んだ地だ。大ハーン様やサダミツ様の故郷でもある。戻れるかも分からぬ遠征である。無理に来いとは言わぬが、多くの者が志願してくれる事を期待する」


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