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10-2 逆チートの大改革

「こんな形で、過去の自分に感謝する事になるとはね」


 リンは僕の部屋で、PCの前に座って作業中。何をやってるかというと、ゲームデータの確認。例の「4ヶ月を再び4年に戻す努力」の為だ。

 現代の技術が存在しては、1ターンが1ヶ月になってしまう。それを少なくとも産業時代の1ターン1年、可能なら中世の1ターン10年に巻き戻すには、どの技術がどの時代に属するか仕分けするのだ。

 そして、あるべからざる技術を封印するのだ。


「魔法に関しては、元々のゲームには含まれてない。そこでMODを使って追加したんだけど、魔法の発展については科学技術と繋がってないんだ」

「科学じゃないから?」

「近代になったから上位の魔法が使えますなんて、面白くない。経験を積んだウィザードにだけ使えるとか、そう言う方が面白い。だから、魔法はユニットの経験値で解禁されていく仕組みにしてあったんだ」


 RPGで言うと、レベルアップしたら新しいを覚えるタイプ。そういうタイプの世界観にしたかったそうで、科学技術の進歩と魔法の進歩は独立させてある。そのおかげで、科学を退化させるに当たって、魔法まで退化させなくて済む。つまり、科学を魔法で置き換えてしまえば良い。

 現代科学技術を持ち込んで内政チートなんて物語が昔からあったけど、これからやる事はその逆。異世界人達がこの世界の科学を退化させる、逆チートだ。


 リンが調べた結果の、これから退化させていく技術を書き並べていく。

 鉄道は廃止して、馬車と帆船に置き換える。馬車でなく魔法の力で動く車も問題なし。船も帆船に限らず、魔法の力や魔物が引っ張るなんてのでも大丈夫。

 化学はダメだけど、錬金術はOK。その線引きはリンにも分からないけど、原子の概念で考えるのはダメで、薬草の抽出物を調合なんてのは良いんじゃないだろうか。中世の薬師もやってそうだし。当然、火薬なんてのは出て来ない。爆発力が欲しいなら、魔法を使えば良いのだ。

 社会科学系も仕分け対象で、紙幣は廃止して金貨や銀貨に戻す。今の様な銀行システムは禁止して、取引はいつもニコニコ現金決済。


 そうやって多くの分野で技術の仕分けを行い、一覧表を作ったら外交でジョージBに説明だ。


「鉄道がダメなのは覚悟していたが…… 紙幣か」


 他に対応困難なのが、紙幣の廃止だった。紙幣を金貨に取り替えようにも、それ程まで金の蓄えがない。国として金銀を蓄えている訳ではないからだ。

 とりあえず、現代技術の放棄は大急ぎで実施して、産業時代の技術の放棄は年内を目標という事で進める事になった。現代技術は出始めだから良いけど、産業時代の技術はもう50年以上使われてきて、生活に溶け込んでいる。鉄道無しでは、港まで軍が移動するのも困難だ。だから紙幣と鉄道は、年末までに廃止の猶予を持たせた。それでも大混乱になるだろうけど。


「この様な大改革、受け入れさせるのは容易ではないな」

「それなら、良い実例があるってさ」


 魔王が治める江戸の地下に残されていた遺物に、魔王を倒した長尾が残した記録があったそうだ。彼は科学技術の発展がターンの進みを早くする事を予想して、もし世界に終わりがあるなら、それを早める事を心配した。そこで、ケモミミ族に科学技術を教える事はしなかったそうだ。結果として、僕が呼び出された時代まで、中世レベルの技術しか無い状態が維持されてきた。

 ところがケモミミ族にも頭のいい人は居たそうで、科学的な進歩は起きてしまう。それを止めるための対策として、ある事を止めた。


「何をやったのだ?」

「文字を書いた書物を持たない事にした」

「何だそれは」


 科学の発展は、一朝一夕には進まない。発見、検証、証明、それらを記録して、少しずつ進んでいく。それを止めて、口伝(くでん)で伝える仕組みにした。薬師の技術は、親から子へと口伝え。魔法の技術も、師匠から弟子に口伝え。

 仕事は見て盗めなんて古くさい事を言う会社が、新しく出てきたITを駆使した会社にあっさり取って代わられた様に、知識の伝承方法を制限されると文明の進歩は格段に遅くなる。彼はそれをやってのけたのだ。


「だが、さすがに真似は出来んな。こういうのはどうだ?」


 ジョージBのアイデアは、徹底的な権威主義。権力者が言うから正しいというやつで、国の偉い人が「スズメは害鳥」と言ったからみんなで狩ろう、みたいなやつだ。ちなみにその結果、虫が増えて大凶作になったとか。現代社会でも、科学に背を向ける人は沢山居る。何とかさんがワクチンが危険だと言ったから打たないとか、芸能人が広告してるダイエット法だから効きそうだとか。そういう時、科学的な情報よりも、何とかさんや芸能人の権威が優先されるのだ。


「俺たちには魔法があるから、科学を捨てても不幸を回避出来る。病気になればそれを癒やす魔法を使えば良い。連邦で魔法を排除してきた法を改めよう」


 連邦に魔法を再導入する改革が始まった。しかし、長年魔法を使える人は虐げられてきたため、急に魔法を使って良いと言われても、魔法が使える事を明かさない。特に医療分野は、治療魔法を使える人材が足りない。その結果、権限を奪われて軟禁状態だった女神達が、各地に戻された。戻される女神達には、なぜこの様な措置が必要なのかちゃんと説明されている。地元の人々を守る事を目的に生きてきた女神達にとって、再び役割が果たせる機会がやって来た事はこの上ない喜びだった。




 各地で脱科学の大変革が始まった事で、エーテル供給も重要性が増した。当初のエーテルを鉄道運ぶプランは放棄せざるを得ず、他の方法を模索中。

 その解決法になりそうな事を思い付いて、裾野まで脚を伸ばした。


「水不足になる心配は無い?」

「1ヶ月間だけでしたら、なんとかなります」


 ミシマさんとやってきたのは、町の役場。水の供給を取り仕切っているのが、この役場だからだ。


 芦ノ湖から西へは、芦ノ湖の水を供給するためのトンネルがある。これは以前ミシマさんに頼まれて、水を供給していたルートだ。そのトンネルは直接水が流れているけど、元の世界で人が通れたトンネルが、この世界が出来る時に5倍に拡大されたので、かなりのスペースがある。そこにパイプを通すのだ。その出口がある裾野で、樽詰めして運び出す。パイプラインなんて産業時代の技術じゃ無いかとの懸念は、みさきちからローマ帝国時代の水道設備の話を聞いて大丈夫だと分かった。鋼鉄や樹脂製のパイプはダメだけど、青銅や陶器で作れば良いと。

 輸送量も、エーテル駆動の車両が1Lで数千km走れるとなれば、ガソリンの100分の1。樽に入った200Lのエーテルが、20トンのガソリンに相当する。大航海時代の帆船程度で、小型タンカーが運ぶガソリンに相当するのだ。燃料の問題は何とかなるだろう。




 外征に出る部隊に供給する水や食料は、膨大な量になって輸送が大変かと思ったら、そうでも無かった。水は魔法により生み出し、食料は魔法の空間に入れるのだそうだ。魔法を使える人が多かった時代も、異空間に収納する魔法は軍隊に重宝されていたのだとか。

 しかし魔法を禁止してきた以下の時代、そんな魔法を使える人は見付けにくいため、今回は艦隊毎に女神を同行させるそうだ。でもそれ、女神に艦隊の生殺与奪を委ねるって事になるけど、そんな信頼関係を作れてる女神って居るんだろうか。


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