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10-1 走り始める世界

 昼夜を問わず遊び続けて、寝不足で社会生活に困難をきたす人が出る。


『電子ドラッグ』


 中毒性の高さから、そんな褒め言葉(?)が発生した、Historia Civilizationというゲーム。


 さらにその危険さを増す要素に、MODがある。公式が作成し販売する追加コンテンツのDLCと異なり、MODはユーザーの手で作られた追加コンテンツだ。カバーする範囲は、マップの作成やユニット追加をはじめ、ルールの変更やデータ編集機能追加も可能だ。ただし、複数ユーザーで遊ぶマルチプレイでは、全員が同じMODをインストールした状態で無くてはならず、一般にマルチプレイではMOD無しが好まれる。


 マルチプレイ仲間になる4人の中で、最初にこのゲームを始めたのはお兄ちゃんの長尾孝。数々の戦略シミュレーションゲームを楽しんできた、歴戦のプレーヤー。最適解を見つけて攻略して行き、ついに最も高難易度のAIを相手でも勝率7割を超えるまでになった。


 なぜお兄ちゃんは、土日家に籠もってパソコンの前に居るのだろう?


 兄の熱狂を見て、ちょっと興味を持ったのがきっかけだった。でも私の興味はすぐに、MODの作成に移った。簡単なプログラミングが出来た私は、自作MODでゲームを変えていく事にハマった。私がプレーヤーとして中級を脱しないのは、プレイよりMODのデバッグに時間を割いたからだろう。


 そんな私のMOD作成で、自力攻略を断念した部分がある。それは、グラフィックデータを作成する事だ。はっきり言って、私には絵心がない。新しい建物の追加、新しいユニットの追加には、絵が要るのだ。無念。


「それなら、私が描こうか?」


 私の不得手を埋めてくれたのは、今川美咲。私の大学同期だ。そして出来上がったのが、エルフにドワーフ、ケモミミの種族やモンスターが登場する、初代のファンタジーMOD。このMODをアップロードしたら、さらに手伝いを買って出る人が集まり、魔法も飛び交う世界で戦う本格的なファンタジーMODになった。


 そんなMODを使ったマルチプレイに参加するのは、いつもの4人。お兄ちゃんと美咲、そしてお兄ちゃんの友達でゲーム仲間のジョージさん。ジョージと言っても日本人らしいけど、私や美咲はジョージさん本人を知らない。お兄ちゃんも美咲の事は私の友達としか知らないし、ジョージさんは私と美咲をお兄ちゃんの友達とでも思ってる。全員の顔を知ってる人が誰も居ないという、ネット対戦ゲーマー特有の状況だ。

 ゲーム内で戦う勢力は、私達4人の文明だけではない。AIが担当する文明が多数ある。それらには、私達を学習させたAIも組み込んだ。マルチプレイ上で本人かAIか分からないレベルまで本人に似せたAI、クローンAIを造ろうという狙いだ。目指せ、チューリング・テスト。ちなみに、私の目標は最強のAIじゃ無い。一緒にプレイして楽しいAIだ。


―――


 残された時間が、たった4ヶ月。どうも僕ら以上に驚いた奴がいる。ジョージBだ。時間の掛かる制覇勝利を目指すのだから、これは死活問題だ。船で世界を巡るだけで、2ヶ月は掛かるのだから。

 大魔王陣営と連邦。両者は互いに戦争どころでは無くなり、緊急会合となった。その場をセッティングする時間さえ惜しいとばかりに、外交メッセージがジョージBから届く。


「停戦だ。世界の終焉を回避するまで」


 とてもシンプルで、切迫した提案。そして僕も願っていた提案内容だ。


「現占領地のうち、小田原、熱海、伊豆、三島、御殿場は残してもらえれば、それで良い。あと川崎と町田に関しては、種族的なわだかまりは無くせないだろうから、接しない方が良い。1月の前線と今の前線の中間を中立の非武装地帯ってのでどうだろう?」

「都市を失う分、こちらの方が損が多い様だが?」


 魔王側が失う非武装地帯に当たる部分は、ずっと戦場になってきた地域だ。人口はほぼゼロ。本来なら、釣り合わない交換条件だ。しかし僕には、テーブルに載せられる別の素材がある。


「1ヶ月有れば、神奈川にある連邦所属都市、その全てを攻め落とせる。うちの魔王2人がそう言ってるけど、1ヶ月後、さらに悪い条件で交渉を始めたいなんて言わないよね?」

「分かった。時間が惜しい。先の条件を呑もう。ただし、別の事で力を貸して欲しい」


 ジョージBが力を貸せという内容は、他大陸への移動手段。他大陸についてはサガミハラさんが上空から調べていて、夜の光で都市がある場所は分かっている。東に進んだ北米大陸、西に進んだ中東と欧州。ちなみに中国とインドは存在しない。この世界は日本が大きくなった関係で、日本海の向こう側はモンゴルとシベリア、九州の西にあるのは中東地域だそうだ。この世界をデザインしたリンが言っているのだから、間違いない。

 他大陸に侵攻するにしても、まともに輸送船を造っていたら、もう間に合わないのだ。だから、メタルなスライムで船を造り、連邦の軍を運ぶ。それならすぐに出来上がる。


「分かった。輸送はこちらで引き受けよう。それでも移動に時間は掛かると思って欲しい。4ヶ月を再び4年に戻す努力も必要だよ」

「内燃機関の全廃か……」


 4ヶ月しかない状況下での制覇勝利は、正直無理だ。


「やるしか無いな。まだ内燃機関が普及しておらず、今なら間に合う。ただ問題は、魔導機関に使うエーテルの不足だ」


 内燃機関が登場したのは、エーテル不足が原因だと聞いている。箱根の地下にあるエーテルなら、1Lで数千km走れるという。普通のエーテルなら、1Lで数kmだ。その差は大きく、代替困難だ。


「それなら、箱根から供給しよう」


 箱根地下からエーテルを運び出す運送用の鉄道が、そのまま残してある。それを再開して、連邦にエーテルを供給する。輸出品として対価をもらう事で、箱根の発展にも繋がるだろう。あまりつり上げて内燃機関が使われては困るので、ガソリンよりも安価で供給する事になる。その段取りを、急いで双方の担当役人で調整する予定だ。




「この大陸での戦争は終わるけど、別の大陸で戦争するのを手伝うとか、平和は遠いわね」

「並行して我々は、別の勝利条件も目指すのだ。手伝いも程々にしたい所ではあるな」


 外交を終えて、結果を報告。みさきちとリンは、本音としては平和的な勝利条件に専念したいのだろう。だけど、そうも言ってられない。世界を背負う事を望んだ訳じゃ無いけど、それが多くの人を助ける事になると信じて、僕らに出来る事は全てやる。


「スライムで輸送ってのが鍵になるけど、スライムへの命令ってリンが同行しなくても問題無い?」

「リンツーは私と同じだけの思考力を残してるから、自分で判断も出来る。おかしな事をしてないかチェックのために、たまには接触したいけどね」


 北米大陸までは10日掛かるそうだ。中東への旅は、もう少し短く7日。さらに、遠征中の軍へ物資を運ぶ兵站も請け負う。行き来するスライムを通じて情報を得られるけど、情報は最大1ヶ月遅れ。短い期間で、この情報伝達の遅さは少しきつい。


「この際、リンツーと外交で話せる様に、独立させるか」

「独立?」

「独立した勢力であれば、外交が可能だからな。海軍担当だから、佐世保辺りにするか」


 そんな簡単なやりとりで、佐世保にリンツーを元首とする国が成立する事になった。リンが勢力を拡大する過程で住民は逃げだし、今の九州はスライムが暮らすのみ。突然国が出来ても困らないけど、そもそもそれは国と言えるのか疑問ではある。


「さて、それはそれとして、ウルモズルとやらに会ってきた話をじっくり聞きたい。私が試して分かった事と合わせて、別の切り口から世界の終焉に干渉出来るかも知れない」

「もちろん説明するよ。僕だけじゃ判断に困る事が多いからね。でも、世界の終焉への干渉ってのは、どういうもの?」

「それは、この世界の基本的なシステムとしての、Luaへのアクセスについてだ」


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