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9-30 種

 巨木にとまる少女の声を持つ鸚鵡。その巨木に実った、黄色く大きな果実。それらは見た目通りの意味を持たず、多くの世界を『試行』として、作りだし、終わらせている、実験の場。

 黒くなり落ちた果実は、茶色い大地に転がっている。それは終わった世界か? それに近付こうとするも、脚が動かない。それならばと、物理魔法で手繰り寄せようとしたけど、魔法が使えない。


「そなたの世界には、魔法という物があるのだな。残念だが、ここでは使えない。そもそもここでは、そなたの世界で言う魔素という物は存在しない。そして、ここで出来る事は、私が認めた事だけ。今そなたは、話す事だけを許されている。無数の世界を育むこの地で、余計な事をされては困るからな」

「そうですか…… 分かりました」


 巨木の枝にとまる鸚鵡(おうむ)。少女の様な声で語りかけてくるけれど、その力は全く未知数。戦術ビューも存在せず、何者なのかも分からない。しかし、ここで出来る事を決められる権力を持つとなれば、この存在がウルモズルで間違いないだろう。


「そなたの世界は、別世界で行われた遊戯を(たね)として、立ち上げた物だ。そなたの世界と同様に遊戯を種にした試行世界が、ここには無数にある。それら試行世界の寿命は、その遊戯で決められた条件までだ」

「その寿命が終わったら?」

「先程寿命を迎えた世界が、再生された。再生可能な資源(リソース)は、この木に吸い上げられて、他の世界に使われる。物も、人も、魂も。そなたの出会った人々も、他の試行世界を経験し、今の世界に再生される。だから、世界の終わりを心配するな。また新たな世界でやり直せるのだ」


 新たな世界でのやり直しに当たる、転生者という人々。彼女達が語った前世は、異なる世界だった。それらが、寿命を迎えた世界だったんだろう。


「古い世界の記憶を持ったまま、僕らの世界に生まれ変わった者が居ます。その様になるのですか?」

「なんと、そんな者が居たか。それは、(まれ)か?」

(まれ)ですが、これは再生時の失敗ですか?」

「いや、それは進化だろう。抗初期化の能力を得た子らか。それは、試行の失敗を繰り返す災いか、改善を進める幸いか。見届けていくとしよう」


 世界の管理者であっても、多くの世界を見るとなれば、その様な詳細までは目が行き届かないのか。


「だが、そなたは特殊らしい。そなたは他の世界から持ち込まれたのではなく、種にした遊戯の中から来た者だ。残念ながら、その様な者を再生された世界に持ち込む訳には行かない」

「なぜ?」

「新たに遊戯からも、そなたの様な者がやって来る。似た者が増えてしまうのだよ。多様性を失っては、試行の結果が似通ってしまう。だからそなたの様な者は、次の世界の再生されない。そなたの代わりは、遊戯から補充されるからな」


 鸚鵡の姿をしていたウルモズル(推定)は、いつの間にかハコネそっくり、つまり今の僕と同じ姿となって、大地に降り立っている。


「再生されない者は、次の世界でなく、私に同化する。いつか私になる者よ、その時に多くの物をもたらせる様、その世界で励む事だ」


 少女が地に落ちた黒い果実を手に取ると、その果実から光る(もや)が漏れ出し、少女に吸われる。黒い果実は親指大まで縮み、種の様な物になる。これが同化だろうか。良く見ると、巨木の下には同じ様な種は無数に散らばっている。それぞれが終わった世界を示すとすれば、膨大な試行が行われてきた事になる。


「さて、聞きたい事はまだあるかな?」

「世界の終わりを、無くす事は出来ないですか?」

「出来ない。それぞれは試行であり、完成された物では無い。より完成に近づけるために、古い世界は新たな世界の糧とする。それが私が決めたルールだ」


 巨木の下に扉が現れる。何もせずともその扉は開き、中に見えるのは僕の部屋。


「さて、これで帰れるだろう。残された時間を有効に使って、世界を完成に近づけて欲しい。そうだな、もし完成と呼べる程にそなたの試行世界が良くなれば、その時はそなたを呼び出そう。期待して待っている」


 少女はそう言うと、跳躍し巨木の枝に飛び乗る。もう帰れという事だろう。とは言え、1つだけ確認しておきたい。


「最後に1つだけ。世界の寿命は、遊戯で決められた条件と言いましたね。その条件は、僕の世界から見えますか?」

「条件管理は、ここではなく、そなたの世界で行われている。それを読み取るが良い。その部屋には、それを読み取る道具があるだろう?」


 それを聞いて、扉に向かう。僕が動かしたい(・・・・・)物は、その先にあると分かったから。




 部屋に入り扉を閉めると、全く変わらない僕の部屋だった。でも実は、1つ違いが。


「ゲット!」


 部屋に入ると同時に、魔法を発動。あの場所ではダメだったけど、僕の部屋に1歩入った瞬間から、魔法が使えるからね。

 巨木の下にあった、無数の種。それは僕の扉近くにも落ちていた。それを扉が閉まる直前に、物理魔法を使って、僕の部屋に持ち込んだのだ。その数、4つ。

 何に使えるか分からないけど、失われた世界の何かが詰まっているんじゃ無いだろうか。どうするか、リン達と相談だ。


「どうやったのかは分からぬが、サクラも戻ったのじゃな」


 ベランダから僕の部屋にやって来るハコネ。特に変わりは無い姿だ。

 さっきまでの出来事を説明するも、ゲームの事をよく知らないハコネには伝わらない部分もある。リン達も交えて話し合った方が良さそうだ。


「ところで、今扉から出ると、どこへ行けるのじゃろうな?」


 ハコネはヴィーンゴールヴに居て、そこで奇跡を発動したけど、勝手に地上に戻る? それに僕の方は、扉の外はウルモズルの世界?

 それぞれ調べてみると、僕の扉の外はなぜか仙石原。扉は要塞のどこかにあったはずだけど、なぜ箱根?

 ハコネの扉は、要塞攻略前に扉を出した三島にあった。なんだ、帰る時には、奇跡は不要か。戦略ビューを見ると、三島は味方が押さえている事が分かる。状況が悪くなっていなくて、安心した。


「あれから時間が経って、どうなっておるかな。じゃが、見た感じは、変わらぬな」

「司令部に行ってみよう。誰か居るかも」 




 司令部も、全く同じ姿でそこにあった。門番も、見覚えがある兵士。


「お帰りなさいませ」


 手を上げて門を通り、建物に入ってすぐの所で、みさきちとリンに遭遇。


「やっぱり! これで確定だわ!」

「お帰り、サクラとハコネ。さて、一大事だ。作戦を練り直さねばな」


 お帰りも言わないみさきち、お帰りが雑なリン。一大事ってのは、いきなり何だ?


「今日は4月1日。君達が奇跡を起こした日から、まだ13日しか経っていない。それが何を意味するか、2回目だし、当然分かるよね」

「まさか、また!?」

「何じゃ?」


 ハコネ、付いてこず。でも、ログを見て確認。何を騒いでいるか、把握した様子。


 ”Turn 896”

 ”勢力:武田家 が技術 内燃機関 を発明しました。”

 ”勢力:武田家 が技術レベル 現代 に到達しました。”

 ”ターン進行:1ヶ月/1turn”


「時代が進んで、1ターンが1ヶ月になってる! ただでさえ足りない残り時間を…… 何でそんな事に」

「我々が箱根を奪った事で、奴らのエーテルが枯渇したんだ。それで、動かしていた車両が使えなくなり、科学の力で内燃機関を発明。そして、今に至ると」


 4年有ると思っていた残り時間は、4ヶ月になってしまった。間に合うのか!


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