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9-29 世界が実る樹

「この足下の砂も、石も、宮殿も、全てがルア様の一部だ。この世界が出来た時から、その様になっている」


 その女性は、長い布を纏い、手には身長を超える槍を持つ門番。門番をしている女性は、ルア様を探す僕らに、この場所とルア様について説明してくれた。ハダノさんが竹であるように、ルア様は大地?


「ここが天界って事で合ってる?」

「天界という呼び名は、地上に居る者が使う物だ。ここに居る我らにとっては、天とはこの星空。だから我らは天界ではなく、月上界と呼ぶ。ここは本来、地上から来た死者をもてなす場所だ。新たな命を与え次なる世界に送り出すか、あるいは勇者として元いた地上に返すか、そんな仕分けをしている」 


 門番にこの場所、ヴィーンゴールヴの事を教えて貰う。ハコネも1度来て、その時は僕が地上に呼び戻して勇者になった。

 この女性は、神族でも女神で無くヴァルキュリャという種類らしい。女神とは似た様な存在だけど、地上に居て地上の人々や勇者をサポートするのを女神、天界に居て死者を別の世界に転生させるのがヴァルキュリャ。役割に応じた呼び名になっているそうだ。

 この世界の呼び名が月上界という様に、ここは月面そっくりな場所。とは言え、地上から見上げた月ではない。分かった様な、分からない様な。


 ウルモズルに会いに行く前に、折角だからこの宮殿を見せて貰えるか尋ねると、死者に話しかけない事を守れるならと認められた。ウルモズルに会うための奇跡も、宮殿内のルア神殿で行ったら良いと。

 門をくぐった先は、白いタイルを敷き詰めた庭だ。星明かりが床に反射して、薄らと明るい。その先に宮殿と呼ばれる白い建物が見える。その入口には、種族も年齢もバラバラの、並ぶ人々が数十人。先程までの話からすると、地上での生を終えて、転生を待つ人々だろう。


「ハコネが前に来た時は、ここに並んだの?」

「その時は列は無かったのじゃが……」


 当時より今の方が、亡くなる人が多いんだろうか? 単なる人口増加のせい?

 観察すると、アニ族やフ族、魔王の軍で見た獣人に、耳だけ獣の種族。耳だけ獣のケモミミ種族は、長尾が率いてどこかに旅立ったという種族のはず。ここに今居るという事は、地上のどこかには居るのだろう。地図でも持ってどこから来たのか聞きたい所だけど、僕らがこの列に並ぶ者に話しかけてはいけないとの事だから、見ているだけだ。


 死者の列とは別の入口から、宮殿に入る。地上の宮殿と異なり、何も装り物が無く、とても質素。廊下を歩いていても白い壁があるばかり。天井にある良く分からない光源も、装飾無し。どこか病院の様な雰囲気だ。

 見て回っても、面白い場所は特にない。死者の順路を避けると、歩いている人も居ない。


「死者に関わる仕事以外、何も無いのかな?」

「神殿ならそうでも無いんじゃなかろうか。行ってみるとしよう」


 誰にも会わないので道を聞く事も出来ず、さまよう事しばらく。宮殿の奥で中庭を抜けて、ようやくそれらしい場所を見つけた。中央には石を積み上げた5m四方くらいの1段高い場所、そしてそれを囲む椅子が並ぶ。神殿と言うより、議場という感じ。

 中央に近付くと、その床面の真ん中にビー玉サイズの光が現れ、人の背丈くらいまで浮上する。そしてそれは、声を発する。


「地上の女神よ、 ウルモズル様に会いたいなら、その祈りを捧げなさい」

「あなたがルア様?」

「ルアの伝達器官、ルアの欠片」


 この大地その物がルア様だから、声を発する訳に行かないか。恐らくそんな理由で、この様な姿で言葉を伝えるのだろう。


「オダワラさんからも質問しましたが、世界の終わりについて、それは来るのでしょうか?」

「世界の終わり、それは役割を終えて、次に生み出される世界の糧になるサイクル。時が来れば、それはやって来ます」


 感情の籠もらない、抑揚の無い声で、そう伝えるルア様。ハコネもじっと聞いている。


「次に生み出される世界? それなら、この世界をそのまま続けた方が良いのでは?」

「それはウルモズル様が決める事。私は管理のために造られた、作り直される世界の一部に過ぎません。サイクルから外れる事を望むなら、ウルモズル様に尋ねなさい」


 ここへ来た目的は、そのウルモズルに会う事。それと同じ結論に達する。


「そのウルモズル様は、何者なのですか?」

「万物の母。世界を創造し、見守り、やがて壊す。定めをもたらした者。それ以上を知りたいなら、直接会いなさい」


 それ以上の言葉は無い。あとは本人に聞けという。


「じゃあ、ハコネ、予定通り、やる?」

「なあ、我が会いに行くのでは、どうじゃろう?」


 僕が行く予定だったけど、ハコネが行くのでも同じ? オダワラさんを通して聞いたルア様の言葉では、僕が行く様に言っていたけど。


「サクラが行きなさい。その方が、より多くの事を聞けるでしょう」

「ルア様がそう言われるのであれば、仕方が無いのう」


 僕らの会話に入ってきたルア様。ルア様に言われたら、ハコネも納得せざるを得ない様だ。


「では、始めるとするか」

「うん、やっちゃって」


 ハコネが祈りを捧げると、視点が下がっていく。地面が無くなったかの様に、僕の身体は沈んでいく。言葉は聞こえないけど、ハコネの微笑みに見送られて、そのまま地面に沈んだ。




 視界が全くなくなり、沈む感覚さえ分からなくなる。そのまま体感時間で数分、急に視界が開けると、そこは巨大な木がそびえる大地。見上げる巨木には膨大な数の果実が稔っている。ちょうど見上げた枝から、果実の1つが落下し、地面にぶつかると同時に霧散する。


「なんだこれ?」


 ルア様に聞いた言葉と、この巨木の果実。目の前の光景に、嫌な汗が流れる。


「ある世界が役目を終えたのだ。この光景を見に来たのだろう?」


 その声は老婆の様で、巨木の幹から聞こえる。


「今そなたが見ているのは、そなたの目に映る景色では無い。目にした概念を、そなたの知識の中にある物で表現した姿だ」

「実際に世界が果実な訳じゃ無い?」

「世界は、世界だ。他の何物でも無い」


 それを聞くと目の前の巨木は、無数の恒星がまたたく渦巻き状の銀河に姿を変える。


「どんな形で理解しても良い。幾つもの世界があり、それを私が見守っている。そう理解出来れば、それで良い」


 その言葉に続いて、目の前の景色は再び巨木に戻る。そこには枝に乗って果実を突く鸚鵡(オウム)が居た。


「私の姿も好きな様に認識すれば良い。それを、不敬などとは言わんよ。私とそなたに立場の上下は無く、役割の差があるだけだからな」


 老婆の様だった声は、少女の高い声に変わる。鸚鵡には似合わないが。


「なぜ世界を終わらせるのですか?」

「それぞれの世界は、1つずつが試行だ。それぞれの世界には異なる法則があり、定数(パラメータ)がある。幾つもの試行を並行して行うが、望まぬ結果となる事も多い。資源(リソース)は無限で無いから、試行が終われば、次の試行にその資源を使わねばならない。その様にして最適解に近付いていく。よりよい世界を創造する為の試行の1つ。それが、そなたの住む世界だ」


 鸚鵡が座る枝には、黒い斑点が多くある黄色い果実が実る。それは見る間に黒く変色していき、真っ黒な果実になった所で、鸚鵡が突いて、落下する。


「さて、そなたの世界の話をしよう。ある世界で、世界を創造し戦う遊戯が生み出された。試行世界に、試行する者が現れたのだ。試行世界で生まれた試行の成果を、新たに造る試行に投入したのだ。その様な試行世界が、この木にも無数にある。その1つが、そなたの居る世界だ」

万物の父という意味の古ノルド語がアルフォズルだそうなので、それを女性にしてウルモズル。残念ながら古ノルド語がgoogle翻訳に無いから、それっぽい語から引っ張ってきました。

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