9-26 いかなる勝利を望むか
入口をくぐった先にある要塞中央の部屋は、縦横に張り巡らされた支柱によって狭められた、不思議な空間。床から天井、右から左、後ろから前。壁を付ける前の、建設途中にあるビルの様に、支柱だらけだ。
「奇妙な部屋じゃな」
「ジャングルジム?」
「ジャングルジムとは何ですか?」
僕と一緒に来たのは、ハコネとオダワラさん。僕とハコネより少しだけ背が高いオダワラさんには、ちょうど支柱が頭に当たる高さにあり、支柱をくぐる毎に少し頭を下げて進む。
「ようこそ、この要塞最後の部屋へ」
そこに会うべき人物はいた。連邦の盟主、ジョージB。銀色の服に身を包み、水平な支柱の上に座る。僕らからは、少し見上げる位置だ。
「僕らはこの戦争の終わりについて、話し合いに来た」
「終わり? それはどちらかが倒れ、併呑された時だろう」
今までの様な戦いを続けていけば、少しずつ領土を削って、いつか連邦を倒しきる事が出来よう。でも、そんなに時間を掛けられるのか?
「前にも言った様に、俺の願いは100ターンの延長。その為の制覇勝利だ。その為には、世界の半分を手に入れねばならない。それを邪魔するのなら、排除する」
「それがもし、残された時間では非現実的な願いだとしたら? その前提で考えてる世界ってのは、どれほどの物かい? この大陸? 外にあるというあと6つの大陸はどうするの?」
彼が考えている世界の半分ってのは、この大陸の半分では無かろうか? それで足りるのか?
「そうだな、この大陸以外にも、文明は存在するかもしれん。だが、大陸外から船でやって来た文明は、未だ無い。大陸外の文明は、その程度のレベルだ。行けば容易に従える事が出来よう」
「そう考えるなら、この大陸で暴れていないで、早く外征に行けば良いじゃない。この世界の大陸がどう配置されているか、世界地図を知ってる人が僕らの陣営に居る。一緒に来て、これからの事を考えよう」
この世界地図を知ってるのは、リンの事。ここに連れて来なかったのは、リンの持つ情報が取引材料になるから。サガミハラさんの計画が順調に進めば、リンの知る世界地図が正しいか確認出来る。その情報を使って、ジョージBは外の世界を目指せば良い。
「それに、僕らも別の勝利条件を目指している。それを達成出来れば、世界の終わりを100ターン先延ばし出来る。広大な世界を制覇するのに必要な時間を、作り出せる」
「別のだと? 宇宙でも文化でも、勝手にすれば良い。宇宙というなら、相模原か。ならあいつは、俺が使ってやろう」
全部自分の物に。リンが言ってた、僕らにインプットされた行動原理。
ジョージBは天上に居た4人から、ハーンと呼ばれていた。それは、征服して全てを手に入れる事で解決を目指す、『ハーン』という性格テンプレートを持って生まれた存在だから。
「世界地図を知る者、宇宙を目指す者、そんな連中がいるという、有用な情報をありがとう。そろそろ話は終わりだ。世界の延長は全て、俺の下で成し遂げてやる。お前達は、指をくわえて見ているが良い」
そう言うと、何も無い所から何かを取り出し、それを拳銃の様に構える。
「スライムの魔王も来ていれば、手間が省けたのだが、まずはお前達だ。そうそう、言い忘れていた。お前達が次のターンに復活しても、この世界に現れる必要は無いぞ。大人しく自分の空間に閉じこもっているが良い。まあ、出たくても出られなくなっているだろうがな」
そして、放たれる銃撃。予想は付いていたので、後ろに避ける。
「好き放題はさせぬぞ。ホームングフレイムアロー!」
「フォートレス!」
ハコネが攻撃の魔法を、オダワラさんが防御の魔法を展開。ジョージBが動いた事で、ハコネの魔法は支柱にヒットして、跳ね返る。この支柱も要塞の壁と同じで、ヘイヤスタで出来ているのか。
跳ね返った魔法は、またジョージBを追尾するも、避けられ続けてやがて消える。
再び放たれた銃撃は、オダワラさんが展開した魔法の障壁で止められる。
「その程度の攻撃は、私達には効きません。外の砲台の方が、余程威力がありましたわ」
倒さねば、こちらがやられるとなれば、やるしか無いか。この予想外の位置で反射してくる空間では、相手へ誘導される魔法以外は使いづらい。それなら、手数を増やして、ハコネと同じ魔法を使おう。
「ニートホイホイ」
扉に備え付けられた、魔法を連射する魔道具であるカクシ。かつて多数の女神相手に戦った、最終兵器。永らく使わないで来たけど、久しぶりに呼びす。
……扉が出て来ない?
「ハコネ、扉が出ないんだけど!」
「サモンゲート! 我のも、出せぬ」
「サモンゲート! 私もです」
3人とも、扉を呼び出せない? なぜ?
「どうした! 掛かって来ないのか! 来ないなら、こちらから行くぞ」
そう言うと、別の何かを取り出すジョージB。武器かと思ったら、半球状の盾の様な物。それを両手に1つずつ持ち、2つを合わせて球体の中に入る。球体の繋ぎ目にあるのは、円形に並んだ銃眼か?
その役目は予想通りで、それらの銃眼から発射される無数の魔法攻撃。それらはあちこちで反射して、予想外の方向から僕らを襲う。それは途切れる事無く続くけど、オダワラさんの障壁により無力化される。
「オダワラさん、護り切れる?」
「私の魔力が続く限りは。でもいつまでもは持ちません。この空間、魔力の補給が滞るみたいですから」
外の装甲と、何層もの壁。箱根の地下にあったあの空間と同じ仕組みだ。僕らの魔力補給は、遮断される。
「エーテルXは…… 扉を出せないから、取り出せないし」
補給が効かないのは同条件のはずだけど、こんな場を準備したからには、エーテルの準備もしてるだろう。持久戦になったら、まずそうだ。
「魔法も効かぬな」
ハコネが試しに放った魔法は、盾により反射された。
「魔法が効かないなら、トーチカを破った様に、物理で行くしか無い!」
「なら、これじゃな」
槍はここまで持って来てないけど、物理魔法でブースとした3人の腕力で、支柱の1本を破壊。切り取った支柱を武器にするべく、形を変える。
「ほう、すぐに復活か」
「お金が有る限り、ってやつですね」
「どれだけあるのさ、その手の遺物は!」
壊した支柱は、すぐに生えて来て、元通り。この空中要塞その物が、そんな力で急速復元する仕掛けか。
ともあれ、武器は出来た。切り出した支柱の先端を尖がらせた、足の太さ程もありそうな、長さ2mくらいの槍。それが2本。それを僕とハコネがそれぞれ持つ。
魔法が効かない相手には、レベルを上げて物理で殴る!
「とりゃァァァ」
掛け声と共に刺し貫こうとするも、中心をずれたため、衝突の反動で飛ぶ球体。その間も放たれる魔法は、オダワラさんの障壁を出てしまった僕に当たる。
飛んだ球体が行った先は、ハコネの所。予想外の動きに対応出来ないハコネが適当に振った槍が、球体をクリーンヒット。打ち返された槍は、フライ性の当たりになって上へ。
それが落ちてくる場所で槍を持ち、待ち構えて、突く。今度こそ中央に刺さった槍と、攻撃魔法が止まった球体。
「倒したの!?」
そんなフラグっぽい事をオダワラさんが言うけど、実際に倒した様だ。2つに割れた球体の中には、誰も居ない。勇者の能力で、倒されたら本拠地に戻る。後には何も残さずに。
「勝ったのじゃな」




