9-23 スライム空軍万能説
リンが呼び出した彼女の扉から、続々と出てくるスライム。半透明なのと銀色のが居る。それらは立体的に積み上がり、ある形を作り出す。
「これ、作ると言って、たった5日で?」
最大6段の爆発系魔法で加速する、超長距離射撃巨大砲なるもの。はい、何だか分かりません。
組み上がった形は、長い砲身が付いた大砲らしき物と、それを支える土台。半透明のが土台になり、銀色のが砲身だ。砲身の長さは、電車1両分くらい。
「じゃあ、説明しよう!」
現物を前に始まる、リンの説明。これは長くなりそう……
「砲身には多数のスライムが並んでいて、それぞれがゴーラと同じ様に、ヘイヤスタを外骨格として持っているんだ。こういう工作は得意じゃ無かったけど、どうもスライムとヘイヤスタでなら、色々出来そうだよ」
僕以外は今日を無しとして居なくなったけど、頑張って聞いてあげなくては。
「砲弾が撃ち出される時は、筒の中で6回、爆発系魔法を使うんだ。奥から砲口まで、順番にね。そうすると、単発の魔法と比べて、理想的には6倍のエネルギーで砲弾を飛ばせる」
きっと極力分かりやすく説明しようとしてくれたんだろう。言いたい事は、大体分かる。
「ちなみに、参考にした技術は多薬室砲で……」
「えっと、質問していい? 飛距離はどんな感じ?」
これは分からない方向へ進むと重い、質問を挟んで暴走を止める。
「それはこれから実験だよ。成層圏まで打ち上げるから、空気抵抗も少なくてよく飛ぶと思うよ」
「空気抵抗? だったら……」
来た場所は、富士山頂。この世界の富士山頂は標高18,880mで、成層圏に頭を出した世界の屋根。
一旦リンの部屋に戻していたスライムを再度呼び出し、スライム達が並んでいく。土台となるスライムが並び、その上に砲身となるスライムが整列する。実際の巨大砲は列車で運ばれたそうだけど、このスライムで出来た砲台なら、そんなインフラは不要。自身が動いてくれるから。
「じゃあ、試射してみよう!」
そう言うと、リンは砲口まで上がって行き、そこで弾丸を投入。ちなみに、弾丸も金属と一体化したスライム。なぜ単なる金属にしないかと言うと、空中で翼を生やした形態に変形して、砲弾スライム自らが姿勢を制御するためだと言う。何でも出来るスライムは、オーバーテクノロジー。
そして、ドンという音と共に、砲口から火煙が上がる。速くて分からなかったけど、砲弾は飛んでいったらしい。試射は間違いが無い様に南西の方向、海へ向けて。うっかり100kmくらいしか飛ばないと陸に着弾するけど、もし陸に着弾しそうになったら自爆する様に指示してあるそうだ。
「うん、良い出来だ。思った以上に飛んだ」
スライムを弾丸にした他の利点は、どこまで行ったかが分かる事。リンにとって自陣営の者であるため、戦略ビューで位置が分かる。戦略ビュー上で高速移動を続けた光点が止まった場所、そこが着水点だ。ちなみに今回は何かを破壊するためで無いため、着水の少し前に落下傘状になって速度を落としている。
「さあ、次だ」
角度を変えて、同じ事をもう1回。この角度の変更というのは結構大変で、一旦砲になっているスライムがバラバラになり、方角や仰角を変えて再度組み上げる。時間としては5分かそこらだけど、移動が多い敵相手だと対応が困難だろう。その点、今回の標的は簡単に動けないだろうから、適しているとも言える。
「第2射!」
やはり発射の瞬間に、飛んで行くスライムを見る事は出来なかった。どれだけ速いのやら。
角度を変えたり、爆発系魔法の段数を減らしたり。それらを試して、飛距離や精度を試すのだ。合計10回の試射を終えた。
「さて、迎えに行こう」
今回飛行したスライムを、僕らで迎えに行く。距離は遠いけど、このスライムを連れ帰るのも大事なミッションだ。今回飛行したスライムが得た経験は、次の弾丸になるスライムに伝承される。そうやって、実戦までに精度を高めるのだ。
今回の試射で、飛行距離はかなり長い事が判明した。なんと、最大400km。富士山から富士川河口どころか、大井川までが射程に入る。東へなら横浜まで。空中での形態変更で、かなり飛距離を伸ばせたみたいだ。
砲弾になったスライムを回収して戻り、再び始まった試射では、新しい事を試した。右あるいは左旋回出来る様にスライム砲弾が形態変更すれば、円軌道を描いて滞空も可能じゃ無いかと。
例えば、ある地点で円を描く様に形態変更して滞空する。飛行するスライム砲弾は、空中で旋回待機して次弾以降の弾着を観測する。その情報を返す方法は、飛行軌道の形状。スライムが得た情報を元に、軌道を変える。待機時は○字軌道で飛行し、目標を発見したらS字飛行みたいに。それをリンが戦略ビューで見れば、その動きを見て情報が得られる。回る方向や回転半径など、情報のパターンは色々作れる。
「攻撃、索敵、待ち伏せ。応用範囲が拡がったのは、サクラのお陰だ。こんな面白い事になるなんて、こっちに来る前には考えつかなかった。ありがとう」
翌日、再び富士山頂。今日が本番だ。
「観測体、発射!」
目標地点は、南西に150kmの山中にあるはずの、敵の超長距離砲。最初は、敵上空に滞空して状況を観察するための、観測体となるスライム砲弾。
続けて同じく観測任務のスライム砲弾を、3体発射。分散して広範囲を観察したり、低空に降りて観察したり。撃墜される恐れもあるから、余裕を持って4体を送り込む。
「どう?」
「発見した」
早速、最初のスライム砲弾が敵の巨大砲を発見。旋回して位置を伝える。
「撃破方法は? 溶解?」
「いや、高速弾の直撃を狙いたい。それでこそ、巨大砲同士の勝負に相応しい!」
スライムを落下させて、敵砲台を溶かすなんて事も可能。しかし、この方法はちょっと地味ではある。当然ながら、リンに却下された。
次に発射する砲弾は、ヘイヤスタを多めに配置した、質量で打ち砕く徹甲弾仕様。
「発射!」
初弾は……残念ながら外れたが、それは想定内。ここから修正を加えれば良い。
観測体からの情報で修正。発射から着弾までが20秒、観測体の飛行による情報伝達が30秒。次弾装填が10秒で、最大毎分1発の射撃になる。
これだけの遠距離射撃となると、気流によるずれは当然ながら、地球の自転によるずれまで生じる。コンピューターで計算する射撃と異なり、職人芸の領域。射撃しては修正を繰り返し、目的に近付ける。
「第5射!」
繰り返す事、5回目。そして……
「直撃を確認!」
ついにやった! 続けて同座標に撃ち込み、再起不能に追い込む。直接見る事が出来ないけど、現場の情報は観測体が撮影しているので、それらが無事帰還したら見る事が出来るだろう。
「良いじゃない、勝てたんだから」
敵砲台上空から監視してた観察担当のスライムが帰還し、三島の本営で戦果鑑賞会。上空3kmくらいからの映像ながら、直撃を受けた敵砲台が半ばから倒壊する様子が映っていた。巨大砲対巨大砲の対決。なんだかリンが感動に打ち震えてるけど、分からないでもない。
「あとは、敵の本隊じゃな。もはや勝ったも同ぜ」
そんなフラグを立てると同時に、フラグを回収。天井が崩れて落ちて来る。だが、その程度の事でヤられるメンバーじゃ無い。
瓦礫をはね除けて、そこにあるのは……
「巨大砲の次は、巨大空中戦艦!? 素晴らしい! その発想、素晴らしいわ!」




