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9-19 山上のキネトスコープ

 まずは故事に倣い進めよう。


創岩石クリエイトロック!」


 1番早い時期にハコネから学んだ魔法で、山の上に石壁を作る。

 時は夕暮れ時、場所は箱根湯本の東、石垣山呼ばれる場所。僕の知る日本で言う所の、石垣山一夜城公園なんて名がある場所だ。そこに一夜で城を築いたというのが、豊臣秀吉。その故事に倣った訳だ。

 豊臣秀吉が城を造った山との違いは、標高が5倍高い1300mもある事で、また小田原への距離も5倍の10kmある。


 この山と箱根湯本の間には、1列の山脈がある。そこは箱根湯本を見下ろすには適しており、小田原に居た軍が侵入していた。しかし空路で目的地に着ける僕を阻む手段にはならず、その軍から見れば麓の街を見張るはずの自分達が、さらに高い背後の山から敵軍に見下ろされる事になり、とても居心地が悪いだろう。戦わず撤退してくれるとありがたいが、そうならないなら街を守るためにお帰り戴くしか無い。


「これでどうじゃ?」

「今しか使わない仮の城にしては、ちょっと豪華じゃ無いかしら?」


 作業を手伝うハコネとオダワラさん。この壁は、城の城壁では無い。高さ50m、幅500mなんての、城壁としてはやり過ぎだ。巨人が攻めてくる訳でもあるまいし。

 光を浴びたら美しく映えそうな真っ白な壁。これを見せる相手は、小田原の街と、はるか遠く神奈川全体の諸邦。小田原での戦いを、広い地域に服属を迫る見世物にする。おそらく豊臣秀吉がやった事と同じ目的だ。ただしこちらは、何ヶ月も掛けるつもりは無い。


「直接降下して、大きいの1撃入れてやれば、終わる話じゃ無いか」

「任せておくとそうなりそうだから、僕がやる」


 魔王も今日は出張(でば)って来てる。いつでも行き来できるように、ハコネの扉は富士に、僕の扉がここにある。

 三島にリンが来るを待つ間に、魔王達一行は西へ進んで、富士までを制圧していた。富士から西にあるこの世界の富士川は幅4kmの大河で、自然の境界として守るには適した場所だ。空から空中砲台が攻めて来た時のために、ゴーラも守りに就いている。

 リン達が大阪湾から離れ、その後再出現が無い事を確認出来るまで、ジョージBは主兵力を東に移動出来なかったはずだ。その間は、魔王もフラフラとこっちを見に来る余裕がある。


「じゃあ、リン、始めよう」

「分かった。リンク開始」


―――


「すぐに西側へお越し下さい!」


 副官に呼び出されたのは、夕食も終わり家族での団らんの時間。この時間に呼ばれるというのは、緊急事態を意味する。


「何だあれは?」


 西の山が光り、そこに何かがある事を示している。山までの距離を考えると、城の様な大きさである。


「あれは…… 文字か?」


 山の上にある巨大な光の帯は、意味の無い図から文字に変わり、『オダワラそして東方の皆さん』と読める。それに続いて、ゴテンバ、アタミ、ミシマ、フジと、都市名が白から赤に塗りつぶされていく。それに続いて、魔王が支配している領域の地名が続く。


 監視の兵士が気付いたのも、オダワラの街に居る住民が気付いたのも、恐らく同時だろう。私が見る光景を、住民も見ているだろう。これを見た者は、どう解釈するか? 今この街には、情報が不足している。南へも西へも交通路が遮断され、今赤く塗られた場所がどうなっているのか、この街の誰も知らない。ただ交通路を敵軍に遮断されているという事実が、その先が敵軍に占領されている可能性が高い事を示している。そこに、赤く示された場所が敵の占領下にあることを示すのだとしたら、東方領は完全に包囲されていると思い、不安を覚えるはずだ。私もそう思ったのだから。


「父上、あれは何でしょうか? 敵でしょうか?」


 後ろに来たのは、長男の氏康。成人して私を補佐する立場になったが、戦場に立った事は少ない。先月の戦いでは、この城の留守を任せた。もし何かあった時、当主と跡継ぎが同時に倒れては困るからだ。

 しかしこの城が攻撃を受けるとなれば、息子だけを逃がしたなんて事があってはならない。共に戦う事になる。


「敵が我らを動揺させようとしているのだろう。それも、街全体の士気を下げようとな」


 光が示す事はさらに変化して行く。『オダワラが同盟軍の次の攻撃目標です』とか、『戦いに巻き込まれたくない者は家から出ない様に』とか。


「西側の兵に、火を焚かせろ。出来るだけ煙が出る様にな」


 連絡兵を通じて、守備兵に伝達する。敵の心理作戦が住民を陥れる前に、煙であれを読めなくしてしまうべきだ。


―――


「良く見えたかな?」

「大丈夫だと思う。街からここを見えなくするための、煙を上げ始めた。住民に見せたく無いんだろう。効いてるって証拠だね」


 3万の軍を横長の巨大スクリーンに使った。人が寝静まる前に開始した、スライム達を光らせて作った広告。僕らが魔法で作った大きな白壁に、手前に並んだ3万のスライムが光を当てて、それぞれが1画素として画像を映し出した。

 100枚近い絵を描いて、その通りにスライムを光らせて欲しいと頼んだ時、リンはとても嫌そうな顔をした。でも、出来ない事は無いと言い、見事にやり遂げてくれた。


「さて、あっちも準備は出来てるだろう。これだけ目立つ事をやれば、監視の目もこちらに引きつけられる。こっそり潜り込むあの子達に、入り込む隙を作ってやれたんじゃ無いかな」


 同時に進めている作戦は、都市内への侵入。水中に居ると目立たないスライムの特性を生かして、用水路の中を移動して、スライム達が街に侵入している。農業用水、景観用の水路、下水道など、あらゆる水の流れを利用して、拡散して行く。さすがに水道管の中までは入ってないと思うが。


「じゃあ、現場の子達に指示を出すから、あの煙を無くしてくれるかな?」

「了解。ハコネ、オダワラさん、手伝って。旋風(ワールウインド)


 僕らが作る3本のつむじ風が煙を巻き込み、それ以外の部分をクリアにする。


「これなら、指示を届けられそうだ。指示を出す時も、よろしく頼むよ」


 再び画素となるスライムの制御をお願いし、僕の部屋へ。

 僕の部屋では、ベッドにマルレーネが横になっている。元気そうに見えても、80歳のお年寄りだ。具合が悪い時は大事を取って休んでいるけど、今日は特別な日だからと、連れてくる様に要望された。冬の屋外に居るのは身体に障るから、僕の部屋で休んで貰っている。


「街の様子は?」

「目隠しに煙を焚いてる。慌ただしそうだ」

「そうかい。もしあやつ達が言う事を聞かないなら、私が出るからね」


 これから攻めようとする小田原は、マルレーネの子である足柄氏綱さんが治めている。魔王にやらせない理由の1つは、そこにもある。

 敵味方になる覚悟は出来ていると言うけれど、息子の死を望む事は無いだろう。降伏勧告のために必要なら、自分が出るというマルレーネ。悲劇を止められるなら、危ない場所にも行くという。

 僕らもこの街はいくらかの思い出もあり、そんな場所を破壊しない方法を考えてきた。領主、兵士、住民、それぞれへの対応を考えた、小田原攻め。


「まもなく始まる。大丈夫、街は綺麗なまま、取り戻せるよ」

「そう願ってるよ。よろしく頼むね」




「準備は?」


 扉を出ると、ハコネとオダワラさんが待っていた。


「もう良い様じゃ」

「私達の街を、取り戻しに行きましょうか」


 ハコネ、そしてオダワラさんで空へ。街を見下ろせる場所まで行き、時が来るのを待つ。

 そして、スクリーンに数字のカウントが始まる。数字は300から始まり、毎秒1ずつ減っていく。5分間のカウントダウン。

 それが0になった時、街のあちこちで光が溢れた。


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