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9ー16 魔王の盟友 謀略と後悔

 ここは富士から西へ向かう道。山中を通る通信ケーブルにベッタリと張り付いて、情報を読み取る。

 ケーブルを通る情報は、暗号化されず流れている。戦争開始から暫く、流れている情報をただ読み取って、どんなやり取りが行われるのかを確認してきた。それにより、いくつかの拠点がどうやって応答するのかを記憶した。


 そして、ついにそれを真似する事が出来るまでになった。これからケーブルを断ち切ってその両端を身体に差し込み、偽りの情報を流す。あのエーテルを得てから、出来る事の幅がかなり拡がった。身体はスライムのままだが。


『こちらシズオカ! ミシマ、応答せよ!』

『こちらミシマ、少し音がおかしいが、概ね良好』


 よし、三島の通信士に繋がった。

 少し前、三島から浜松への増援要求を聞き取った。まだ偽情報を流せる程に通信に習熟出来ていなかったが、続いて始まった浜松から各地への通信を聞いて、それぞれの拠点に居る通信士の特徴を記憶し、真似が可能になった。


『緊急事態を告げる! シズオカからトヨハシまでの海岸に、スライムの大群が上陸。戦闘中だ』

『なんだと!』

『シミズ沿岸には、白銀のヤツも現れた。おそらく、俺たちとお前達を切り離す積もりだ』


 三島の士気を下げる様な嘘情報。そんな大群は、もちろん居ない。 

 白銀のヤツってのは、彼らの中では、私を意味する。


『戦況は?』

『言うまでも無い。劣勢だ。主力砲は全て、前線にあるからな。そこで、司令からの伝達だ……』


 ここから、三島の兵を街からつり出すための、偽情報。清水で敵を挟撃するため、三島から焼津、藤枝、島田の軍を戻せという伝達。襲われている事になっている場所は、その3軍にとっては故郷とを繋ぐ連絡路。清水を奪われたままでは、その3軍は帰る事も出来ず、前線に孤立する。そんな偽状況を伝えて、退路確保のために3軍は戻れとの伝達だ。


『こちらの司令に伝える。追って回答する』

『了解した』


 それで通信が終わる。さて、ここでケーブルを手放す。これで、東西の通信は繋がらない。三島の者は思うだろう。戦闘で切断されたんだろうって。

 そして、通信設備付近を派手に破壊して、ここで激しい戦闘があった事を装う。続いて、近くにある鉄道も破壊。そこには、スライムに溶かされてしまった戦死者を装うため、偽物の人骨を転がしておく。これで準備はOKだ。


「さて、戻ろうか。我が主は……ありがとう、そこか」


 スライムネットワークを通じて、連絡を受け取り、夜空へ飛び出した。


―――


「うまく行った?」

「そうみたい」


 情報を心待ちにしていたミシマさんへ、今入った情報を伝える。

 スライムネットワークを介して、ミシマの軍が西へ動き始めた事が伝えられた。夜のうちに動き始めるとは、余程焦ったのだろう。

 このまま出て行く兵士が出尽くしてから、こちらの作戦を開始する。


「熱海の方は?」

「熱海から北のトンネルを破壊済みだ。小田原から熱海へ来るには、険しい海岸線の道を通るしか無い」


 魔王も仕事を片付けて、函南まで戻っている。熱海から小田原への道は、東海道線に相当するトンネルが主要交通路で、それが絶たれると海岸沿いのあまり整備されていない道を通るしか無く、行軍に不利だ。そしてそこが、小田原から熱海を守る防衛地点になる。守りに適する地形なため、多くの兵を置かずに済むから、熱海攻略に向かった兵を一部函南まで戻す事が出来た。


「では、作戦を説明してもらおう」


 今回の作戦は、魔王が考えた。彼の軍団をうまく使って都市の攻略というのは、僕には荷が重い。


「三島には都市の東に3段の防衛線が確認されている。函南から最初に越える山の上、その先で谷を越えた丘の上、最後に都市手前を南北に流れる川を堀とした防衛陣地だ」


 僕が印刷した地図に書き込まれた、3本の黒い線。山と、丘と、川に沿って描かれている。


「最初2つは塹壕、最後のは本格的な防衛陣地、トーチカってヤツだ。箱根にあったやつと同型だな」


 そのラインは、函南から三島へ向かうルートと、箱根から三島へ向かうルートが合流した先にある。建設当時は、箱根に僕らが復活してそこを奪われた際に、三島を防衛するつもりで造ったんだろう。


「迂回は?」

「トーチカの列が北にも延び、裾野との境まで続いている。余程、箱根からの侵攻が怖かったらしい」


 結局、地道に防衛戦を突破、陣地を確保しつつ、前に進める事になった。ただし、隙があれば迂回してでも、攻撃を加える。その役目は、ゴーラが戻って来たら担ってくれるはずだ。




「死に戻りか」

「申し訳ございません」


 前線に出ていたマルが、魔王の前に現れた。何も無い所に突然人が現れるのは、ちょっと驚く。

 最初の防衛線から、大変な事になっている。山に造られた陣地は、登ってくる相手を的確に狙撃できるよう、設置されている。上から攻撃を加えようにも、それを想定した覆いが備えてあり、効果が無い。

 死んでも戻れる人は良いけど、そうで無い人もいる。怪我人が運ばれてきたら魔法で治療していくけど、犠牲者が出る事を避けられない。


「そんな顔をするな。これが俺たちのいつもの姿だ」


 魔王軍は各地で戦ってきた。これがいつもってのは、慣れたりする物なのか? そして、慣れて良いのか?

 そのまま、互いの犠牲を出しつつ、最初の防衛線にある拠点を占領した報告が入る。防衛線には複数の拠点があり、南北の拠点が塹壕で繋がっている。その1つを確保して、南北の拠点を取って行けば、防衛線を奪い取れる。


「よし、進むか。怪我人を助けてやらねばな」


 攻略した拠点に向け、魔王と進む。木々が切り倒され見通しが良くなった斜面を上がって行く。ここで多くの兵が倒れたのか。


「いいか、余計な事は言うな。士気を下げて、出来る事が出来なくなっては、さらに犠牲が増えるだけだ」

「この戦いを終わらせれば……」

「それは、この犠牲を無駄死にすると言う事か?」


 そう言って、睨み付けられる。魔王とその仲間に危険な事をさせておいて、その成果をリセットにする。ここまでの努力、犠牲、献身。


「わかった。前線は任せろ。後ろで見ているがいい」


 立ち止まって、走って行った魔王を見送る。彼も目的があって、この戦いに参加している。この地域を押さえれば、魔王領へ向かう敵はぐっと減り、安泰。後方の安寧のための犠牲。昔の戦争に出て行った人も、そう言われて行ったのだろう。


「戻ったらどう?」

「ミシマさん……」


 三島奪還の戦いを魔王軍だけにやらせる訳には行かないと、ミシマさんもここに来ている。


「私は、あの都市の女神として、都市を取り戻してそこに住む人を幸せにしようって目的がある。それぞれ、自分の目的のためにここに居る。もし目的を見失ったのなら、ここに居る必要は無いわ。守りたい物の場所に行った方が良い」




「まあ、無理も無いか。7つの人格の、弱い所だし」

「それ酷い!」


 みさきちに相談。というか、何を相談して良いのか分からないけど、外交を繋ぐ。

 7つの人格ってのは、ルイ達4人に魔王とジョージBと僕。元となる人格から、色んな要素を切り分けて僕らが出来ているってのが、リンの解釈。みさきちもその説で解釈してる。


「得意分野を担当して、不得意な所は得意な人格に任せておけば良いじゃない。折角7人も居るんだから」

「そう言う問題かなぁ」

「それと、リンからの提案なんだけど、手が空いてるなら試したい事があるって……」


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