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9-15 魔王の盟友 白銀の龍

 時は遡り、戦いが始まる前。

 ハコネの館に集まった一同で、来る戦いの事を話し合った時の事。


「終わった後、どうするつもりだ? ミシマやゴテンバ、アタミにオダワラ、あとシモダ。これからの戦いで、それらを解放するとして、そこを誰が統治するのか」

「もう勝った積もりとは、ゴテンバの自信はさすがじゃな」

「やるからには勝つ。勝つための手段として、味方を増やすとしたら、今の話も重要になる」


 集まった女神の担当地域を取り戻そうという、シンプルな目標。しかし、取り戻した後はどうするってのは、味方してくれる誰かに統治を任せよう、ってくらいの緩い考えだった。

 元々居た領主を呼び戻すか? それも1つの選択肢だ。でもその元領主はどこにいる? エルンストは秦野にいるけど、他の人達はどうしたのか掴めてない。武田に降った際に連れて行かれて、その後はどうなったか不明ってパターンが多い様だ。

 住民の代表が治める、共和体制? それも良さそうだけど、選挙制の国の隣に巨大な独裁国家がある場合、共和体制は案外もろい。21世紀の前半から中盤に起きた出来事を見れば、失敗に終わる可能性が大だ。

 女神が直接統治は…… やってることが相手側と変わらない。


「私の所に関しては、共和制の実績がある。拒否権付きの共和制だ」


 以前の御殿場は、色々な種族が混ざり合い、それらの利害調整をする役目も兼ねた会議があった。それが都市の統治を仕切り、そこでの決定に対してどうしてもと言う時はゴテンバさんがノーを突きつけるシステムだった。それでも力で抑え付けるのでは無く、理由を納得して貰うまでしっかり説得をしていたそうだ。


「私は、元の体制に、力を持つ他種族も引き入れようと考えている」


 ゴテンバさんの考えを聞くと、なるほどそれなら大丈夫かと思わせる様な体制だった。三島も真似出来そうだ。


―――


「よく来た。女神ゴテンバと、ゴテンバの民よ」


 ここはゴテンバの地から西、フジの中腹。龍神とその眷属である龍族達の住み処。そんな場所へ、レジスタンスの代表を連れてやって来た。

 飛ぶための魔法を覚えて、ゴテンバの様子を見に行った次に来た場所が、この龍族の地だった。ゴテンバ奪還に、力を貸して欲しい勢力。それが龍族。


 龍族達は太古からこの地で暮らし、周辺を狩り場にしていた。しかし連邦は、自らの領内を自由に行き来する龍族を目障りに思った。そこで連邦は、龍族が領内を飛ぶ事を禁じ、フジ周辺に閉じ込めようとした。それではハコネなどの狩り場に行けず、飢えてしまう。当然、衝突が起きた。

 結果は大敗。女神対策に造られた砲は初見殺しと言える程の威力で、なんと龍神が倒されてしまった。龍神を失った龍族は一時離散。翌年復活した龍神とともに拠点を奪還したが、個体数は半減してしまった。

 その後、龍族は要求を受け入れたとは言わないが、ハコネなど連邦の勢力下にある狩り場には行っていない。狩り場は、フジ周辺の高地のみになってしまった。戦いで個体数が半減し、狩り場が失われた食糧不足にも耐えられたが、また個体数が回復しつつある今、飢えは目前に迫っていた。

 こう言っては何だが、我らの味方に付ける理由を作ってしまった、連邦の愚かな政策には感謝だ。


「我らも、いつか戦わねばならぬと思っていたところだ。折角ハコネが我らを受け入れると言うに、そこへ向かうゴテンバが通さぬでは、仕方が無いからな」

「ゴテンバ諸種族を代表して、盟約を取り決めたい」




「ヴラァーニー グラァーロー」

「何と言ってるんだ?」


 空から見下ろした広場には、大きな龍族。早速始めている様だ。

 ゴテンバには優秀な鍛冶達が居て、彼らが「白銀」と我々が呼ぶ金属を加工してきた。ハコネの方から運ばれてくる金属板を、各種兵器の原料にする。鍛冶達は、その金属がハコネ方面から運ばれて来る事は知っていたが、どこが産地なのかまでは知らなかった。勝手に兵器を造らせないためだろう。

 その白銀が、ありったけ鍛冶屋に持ち込まれ、龍族が身に付ける鎧に加工されていく。それが完成すれば、龍族が連邦の砲を恐れる必要がなくなり、ゴテンバ維持はより容易になる。ゴテンバが鎧を造り、龍族がそれを着て戦う。そんな共闘関係の成立だ。


「鎧が翼に当たると。何とかなるか?」

「やってみよう」


 人の言葉を話せる龍族は多くない。老いた龍に僅かに居るだけだ。そこで老龍は鍛冶屋との通訳として、若い龍の言葉を鍛冶屋に伝える役目を負っている。


「龍神よ、お前のは良いのか?」

「最後で良い。戦いに赴く、定命の龍に行き渡ってからだ」


 龍神は女神と同様、倒されても復活出来る。だから死んだらそれまでの、一般龍族を優先したいのだろう。最大戦力である龍神を優先したいと思う者は居るが、龍神がそれを望まなかった。

 私が戦いへの参加より助言者や仲介者である事を選んだ様に、龍神も独自の立場を選択した。戦いから逃げるのでは無い。龍神が居なくても戦える龍族に変わる事。先の敗戦から得た教訓を生かすためだ。




「ここには、アイスブレスを」

「ダァー」


 人の言葉を話せないが、理解は出来る。白銀の鎧を纏う若い龍が、背に乗せた戦士の指示通り、破壊活動を行う。

 線路には大岩を、道路には大穴を、平原には凍結を。列車や車両による移動を妨げ、時間を稼ぐ。稼いだ時間で、龍族への鎧の配備が進み、戦力は増強される。時間は我らに味方するのだ。

 それを邪魔しに来る連邦軍だが、鎧に身を固めた龍に対応する手段を持たない。我々が連邦軍を倒す事も、同様に難しい事ではあるが。


―――


「司令部やゴテンバと連絡が取れない。恐らくは……」

「全滅の可能性もあるか」


 ミシマの司令部に集まったミシマ方面軍の面々は、予想外の展開に頭を悩ませている。

 ここに居るのは、ヤイヅ、フジエダ、シマダからやって来た派遣軍に、元々ミシマに駐留していた部隊だ。それらの混成軍で、カンナミ奪還とアタミへの進軍を準備していたら、ゴテンバが落ちた。

 ゴテンバから山を登ったはずのシズオカとフジの軍は、行方不明。兵力的には、ミシマ方面軍より多かったのだが、それが消えた。


「あれだけの兵力が消えるとなれば」

「奴が出たんでしょう」


 空中砲台を落とす様なバケモノだ。部隊は無事かも知れないが、山を下りられない状況なのだろう。


「それで、我らはどうする?」

 

 奪われたゴテンバを取り戻しに行けばどうか? それをやれば、カンナミに居る敵軍にミシマを狙われるのは目に見えている。


「動けぬな。せめてオダワラと挟撃出来れば、守りの兵も残しつつ戦えるのだが」


 オダワラは要塞化されているため、ある程度の兵力をアタミに向けても大丈夫だろう。そうやってオダワラ方面軍と我々でアタミとカンナミの敵軍を挟み撃ちにしたい所だが、それもしづらい事情がある。


「連絡が取れませんので、連携する事も困難です」


 ゴテンバ経由、アタミ経由の2つの通信路があった。そこを通って、中央から魔王との前線まで、直接声を届ける事も出来た。しかしそれらは寸断されてしまったらしく、繋がらない。半島の南を回って船で連絡は出来るが、かなりの時間を要する。


「まずは、増援をお願いするしか有るまい。ミシマの守りに中央から軍を回してもらえば、我らは東進して、カンナミとアタミを取り戻せる」

「また無能呼ばわりされてしまうぞ」

「ミシマを取られたらどうなる? 俺たちの居場所は、無能との罵りさえ届かない土の下だ。それよりは良いじゃないか」



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