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9-14 魔王の盟友 トンネルの向こうへ

 ハコネ要塞への一般的な行き方はオダワラからの鉄道。そして、ミシマやゴテンバからハコネ要塞へ抜ける道も存在する。それらの道は標高5000m級の大山脈を越える必要があり、冬期にそこを越えてハコネへ侵攻するのは容易ではない。その中で、ゴテンバからハコネへ向かう峠には、標高4000m付近にトンネルがあり、山脈越えの最もマシ(・・)なルートだ。

 3方から攻め入る作戦の1つ、ゴテンバ戦線は、そのトンネルを巡る戦いになると予想されていた。


 そのトンネルの入口に、問題の機体。銀色に輝く巨人。空中砲台を落としたという敵軍最大の強敵が、そこを守っている。その情報が斥候隊から入ったため、特別に先行担当でも無い俺が呼ばれたのだ。


「鑑定結果はいかがでした?」

「レベル2のスライムだ。偽物みたいだが、お前ちょっと行って、殴ってこい」


 鑑定の魔法は、数少ない我々に許された魔法だ。これを代替する道具が未だに出来ないため、使われ続けている。鑑定魔法を使えるのは、ゴテンバ方面軍で俺しか居ない。人でこれを使えるのは、かつてのアタミ伯に連なる一族くらいしか居ない。俺も爺さんがそこの出身だそうで、便利な能力を持つに至った。伯爵様の親戚なのに、今や斥候専門の小隊長だが。

 その鑑定魔法が、目の前に居るのは雑魚スライムだと伝える。本当だろうか? 恐る恐る近付き、銀の機体を殴る上等兵。その機体からは、高い音が響くだけで、何の反応も無い。


「似せた機体に、偽物のスライムを取り付かせた囮か。念のために、中を確認する。手伝え!」




「問題無い様だな」

「残骸は、どうします?」

「本隊がここまで来た時に回収するだろう。それは司令が考えれば良いさ。連絡班! 本隊に連絡! トンネルまで、問題なしとな」


 俺たちはただの斥候。機体を一部破壊して中を確認するのは、少しやり過ぎかも知れないが、これで安全は高まったと言える。

 連絡班2人が、坂を下っていく。途中が凍結しているが、そんなのはこの辺りではいつもの事。慣れたモノで、すいすいと下って行くのが見える。


「さて、司令サマのご到着まで、待つとしますか。勝手に動くと、またお叱りを受けるからな」


―――


「斥候小隊はどこだ?」

「見当たりません! 足跡がトンネルに続いており、先に進んだと思われます」

「勝手に動くなとあれ程…… 我らも続くぞ!」


 近くを探すも、雪の上に破壊された機体があるだけで、血痕などの戦闘があった痕跡も無い。本当に先に進んだのだろう。

 

 トンネルの入口は巨大で、レッドターゲット討伐砲も牽いて進める。車両が10台が並進出来るため、師団全体が通過に要する時間は案外少なくて済む。広さが巨大なら長さも巨大で、最後尾がトンネル内に入る頃、まだ先頭はトンネルの中だ。

 司令車は隊列の中間の少し後ろ。先頭や最後尾で何かが起きても、対応を指示出来る位置にある。そしてすぐ後ろには、レッドターゲット討伐砲。レッドターゲットこと敵性女神を1撃で打ち倒すだけの威力を持つ巨大砲で、空中砲台付属の砲を車両化した物だ。


 位置的には半ばまで来た頃だろうか。隊列が停止した。


「何事だ!」

「トンネル出口に、レッドターゲット!」

「現れたか。前方車両に伝達。中央に討伐砲の進路を開けよ」


 8列で進んで来た車両が、トンネルの両壁に移動して、中央に通路を作る。そこを進む、討伐砲。司令車もその後を進み、先頭近くに到着する。


「状況は?」

「ターゲットはそのまま。あれをご覧下さい」


 前方のトンネル出口中央に、腕を組み仁王立ちする少女。その姿は、「こいつを見つけたら要注意」と事前に知らされていた、サクラまたはハコネという女神。1人で我々を相手しようとはさすがだが、空中砲台さえ無ければ怖くないと侮っているのだろう。だが、当方に備えあり!


「そこの女神。降伏するなら今の内だ。神をも貫く槍を持つ我らの前に立って、お前に勝ち目は無い」

「ほほう。大層な自信じゃな。空中砲台無しに、何が出来るというのじゃ? ならば、その槍を見せてみよ。受け止めて見せよう!」


 聞いている特徴と合わせると、これはハコネという女神だ。いきなりの大物だ。


「準備は?」

「充填完了。行けます!」

「よし、機会は1度だ。外すなよ」


 全員が討伐砲の発射時に危険が及ぶ範囲から後方に下がり、準備を完了。敵女神は、何もせずこちらの様子を見ている様だ。さて、どうなるかな?


「撃て!」


―――


「これは酷い」


 トンネル内に御殿場の軍が入ったら、箱根側の出口をハコネが、御殿場側の出口を僕が閉じて、戦争終結まで大人しくして貰う作戦だった。トンネルの両端を閉じる封は、簡単に壊されないヘイヤスタの壁。

 全軍入りきるまで気付かれないで欲しいから、外に通じている様に見せかける偽装まで施した。それが、書き割りとハコネのデコイ。

 ヘイヤスタで造った壁をただ置いただけでは、前方が塞がってると丸わかりで、トンネルに入ってくれないだろう。そこで考えたのが、さもトンネルが通じている様に見せる、偽の出口。偽のトンネル出口は、ミシマさんがガラス板に描いた風景画。そのガラス板を裏から魔法の光で照らして、本物の景色に見せる。ミシマさんが描く風景は、写真かと思う様な精密さで、近付かないと偽物と分からない出来だった。ミシマさん、幽閉中に暇で、絵を描いて居たらしい。そんな装飾を、ヘイヤスタ壁のトンネル方面に配置してある。これでトンネルからは、普通に外へ通じている様に見えるが、実際にはヘイヤスタの壁がある。

 その見事な書き割りの前で、デコイのハコネが仁王立ち。本物はヘイヤスタ壁の裏で、言いたい放題で挑発する。偽物の景色と、本物にしか見えないデコイ、本物の声。見事な偽装だ。


 問題点は、鑑定魔法も進歩して、この手の装飾を見破る者も居るらしいって事。そこで考えたのが、鑑定魔法使用者を先に誘い出すもう1つの罠、ゴーラもどき。あれを配置すれば、鑑定魔法を使える者が出て来て鑑定するだろうと。結果、見事につり出された鑑定担当は、捕虜収容所にご招待済みだ。


 それにしても、まさかあんな強力な武器を持って来るとは。まるで空中砲台が放つ砲の様だ。そしてそれを出口と思ったヘイヤスタ壁に撃ってしまうとは、バカ……いや、不幸にも程がある。

 ヘイヤスタ壁で反射された砲撃は、微妙な射線のずれでトンネル天井を直撃、トンネルの箱根側を崩落させた。完璧に中心軸を捉えたら、反射された砲撃で中の部隊は全滅の恐れもあったから、彼らには不幸中の幸いだった。全滅しないまでも、かなりの犠牲は出てるだろうけど。


 ちなみに御殿場側の出口は、僕が封鎖済みだ。空気の通り道は開けてあるので、窒息はしないだろう。多分。


―――


「ゴテンバのレジスタンスが蜂起した」


 以前のゴテンバは、各種族を等しく扱う女神ゴテンバの影響で、種族のるつぼと化していた。武田家に併合された後、それは徐々に崩れ、フ族優位になりつつあるが、他種族も追い出されるまでの事は無い。しかし生活はかなり苦しく、革命のチャンスをうかがう勢力が結成されていた。それがゴテンバレジスタンス。


「やり過ぎる可能性はない?」

「その辺は、私が見張る。じゃあ、行ってくる」


 罪の無い人にまで被害が及ぶ様なやり過ぎの革命は起きて欲しくないけど、今の状況を抜け出したかった人々の思いを抑え付ける事は出来ない。せめて穏便に終わる様に、ゴテンバさんがうまくまとめてくれる事を期待するしかない。


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