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2-8 女神のご近所訪問 チャチャ

「では(われ)らから紹介しよう。我はハコネじゃ。東の温泉宿で住んでおる」

「サクラです。女神の巫女をしています」

「チャチャです」

(それがし)は、シンクロウと申します。チャチャ様と旅をしております」


 暗くなり始めたので4人で火を囲んで、まずは自己紹介。

 魔族の二人は青年と少女。見た目の年齢は僕らそれぞれに近い。シンクロウ氏は超イケメン。

 話はシンクロウさんに任せると言い、チャチャさんは夕食を作り始めた。


「サクラ殿はアニ族かとお見受けしますが、ハコネ殿はフ族ではございませぬか?」

「フ族?」

「我らの言葉では、サクラ殿はアニ族、我らはフ族でござる」

「魔族や人族と言うのは人族が勝手に付けた呼び名じゃ。アニ族とフ族の方が創造主の言葉に近い」


 人族って呼び名は自分達だけが人だと言う様で、勝手な主張だろうとは思ったけど、エルフもそう言うから共通なのかと思ってた。


「僕の知人はあなた方を敵視していました。彼らはあなた方と仲良くするのは難しいでしょう。でも僕は、あなた方と一度ちゃんと話してみたかった」

「某はアニ族と戦ってきた歴史、苦難の歴史を教わり、アニ族と戦う事が正しいと信じておりました。しかし、あるお方が、違う考えを示された」

「それはどんな?」


 チャチャさんは聞こえてるだろうけど、口を挟まず鍋を混ぜてる。


「あなたは父の歴史の続きでなく、あなたの歴史を歩まなくてはいけません。父が知る世界の外側まで行き、父が会わなかった人と会い、父が知る歴史にない時代へ進むのですから、と」

「誰の言葉ですか?」

「チャチャ様です」


 チャチャさんはこちらを見ないけど、耳が赤い。


「そうじゃな。起きたこと全てを知る事は、神にさえ難しい。だから神は、人間の言葉を聞く。どう語られてようと、我はシンクロウ殿の話を聞く。話を聞いて許せねば、張り倒す。女神ハコネはそういう神じゃ」

「チャチャ様の様な神様ですな」

「それで我の事じゃな。髪が黒い人間と思えばよい。フ族も人族も関係ない」


 まあ実際にその体は僕のだから、どっちの種族でもない。


「シンクロウさん、私は張り倒しませんよ」


 チャチャさんが四人分の夕食を持って来る。


「カレーじゃと!?」




 ハコネががっつく。おかわりもするの? チャチャさん、うちのがごめん。


「カレーの材料はどこで手に入れました?」

「土肥に来た商人が持って来てくれました。伊豆には香辛料が無いですから」

「チャチャ様、教えてしまうのですか?」

「食べ物は種族を超えて広めたいの。こうして同じ鍋から食べる時、私達に壁はない。同じものを食べて、敵味方で無くなりたい」


 この二人は人族に対してこだわりが無いみたいだ。


「チャチャ様は、フ族とアニ族の争いが終わり、共存する事をお望みなのです。積年の恨みはその壁を取り除き難いものにしておりますが、某はチャチャ様のお考えが実現する様に、手伝わせていただいております」

「気に入ったぞ。我も同じ考えじゃ。カレーは種族を超える」




「行先、ドイにせぬか?」


 チャチャさんとシンクロウさんが湖で洗い物をしている。余ったカレーはハコネがもらった。カレー粉が手に入るなら買いに行きたいけど、魔族側も大多数は人族を敵視してるそうで、売って貰えないかもしれない。


「ドイに僕らが行くと揉め事になりそうだけど、中立的な種族の商人に頼むのは?」

「サクラ、冴えておる! ゴテンバのドワーフならやってくれるじゃろう」

「ドワーフ? 背が低い種族?」

「そうじゃ。ここらではゴテンバから東に住んでおる。鉱山仕事が得意な連中じゃ。ドイの金山にも居るじゃろうから、カレーの材料を買い付けるには適任じゃ」


 チャチャさんに会えたのは、食生活面では素晴らしい進歩をもたらしそうだ。


 そんなチャチャさんはどうしたかと見ると、湖岸で石を拾って、投げた。水切りは万国共通かな?


「グギャン」


 何か変な鳴き声がした。そして水面に浮いてくる、大きなへび?


「ほう、一撃か。やるのう」

「何を倒したの?」

「レイクサーペントじゃ。丈夫な奴なのじゃが。あのチャチャというの、ただ者では無いぞ」


 水面を歩いてへびの所に行き、引っ張って来る。色々おかしい。その様子を隠す様に、シンクロウさんが現れる。


「すまぬ、今のは見なかったことにしてくれ」




「これからどこへ行くのじゃ?」

「私達はゴテンバを通ってカイへ行きます」


 御殿場の先、山梨方面か。


「もし私がここに戻る事があったら、他の食べ物も持って会いに行きたい」

「まだ色々あるんじゃな?」


 いつの間にか芦ノ湖にカヌーが浮いている。シンクロウさん、それどこから出した?


「この先も長旅ですので、小船を持ち運ぶと便利です」


 そうか、空間魔法でカヌーを運ぶのか。いいなそれ。


「木曽川も琵琶湖も楽しみです」


 チャチャさん、どこまで行くの?


「夜も進むのですか?」

「この辺りは我らにとって危険です。お二人は理解がある方で助かりましたが、次はどうなる事か。早く抜けたいのです」


 敵勢力圏って事か。僕らはそういう場所を旅してないから分からないし外で寝なくていいけど、普通はそうなるんだね。


「それでは、またいずれ」

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」


 真似して言ってみたけど、黒髪のお嬢様の似合いっぷりには敵わない。




「種族間の対立か。無駄な事をやってるね」

「仕方が無いのじゃ。これは創造主がなした事。友好関係にあった者達、敵対していた者達、それらは創造主の手を離れた時から何も変わらぬ。創造主はその関係を放置して、去ってしまわれた」


 これは投げられたゲーム盤なのか。最後に行われていた戦争を終わらせないままに。

 そして世界は、そのまま進む。




 彼女らが去ったのを見届けて、ニートホイホイする。


「創造主が去ったのはいつ?」

「800年くらい前かのう。それから色々あったぞ。魔物が地に溢れて人間は山にしか住めなくなり、人間が平地を取り戻して今の様にポツポツと町を作ったり」

「その間、箱根は?」

「無人でなかった時期もあったのじゃ。今ある信仰力はその頃の蓄えじゃ」


 宿から離れていても少しずつ増える信仰力、今は970。僕の召喚に使った7000までは、今のペースだと55年か。ハコネというか僕の体の寿命が来てしまう?




「起きたこと全てを知る事は、神にさえ難しい。だから神は、人間の言葉を聞く」


 いつもチャランポランなハコネが発した、神様らしい言葉。これを言ったハコネは、少し寂し気だった。


 さっきの話も、ハコネが語れる歴史。ハコネは偽らず歴史を語ってくれていると思う。これは半年一緒に暮らした仲間としての感覚、あるいは願望。嘘で取り繕わなくても、互いに見捨てられないのだし。




 翌日、芦ノ湖岸を進み、箱根峠に。やっぱり寒いけど、芦ノ湖を見下ろす景色が素晴らしい。

 そこからはひたすら下り坂。周囲は森でなく高山植物で見晴らしが良かったが、下ると森に入るので、その手前で本日の営業は終了。


「あの海の向こうに、カレーが待っておる」


 海の向こうには行かないよ?




 チャチャさん達と別れ3日目、三島の町が見えた。小田原や熱海と違って、しっかりとした城壁がある。


「その者達、止まれ!」


 門番の兵士は20人以上。こんなに門に張り付けるとか、何事だろう。


「金髪の女はこっちへ。黒髪はそこで待ってろ」

「金髪の女? 僕?」


 僕だけ連れて行かれる。この対応、普通の女性なら不安で仕方が無いだろうな。何されるか分からない。ハコネは別の人に連れて行かれてる。別々に尋問って、容疑者?


「証明書を持っているか?」


 大人しく冒険者ギルドの証明書を差し出す。


「オダワラからだと? 二人しかおらず、なぜ東から来る?」

「おかしいですか?」

「野営出来ないでは無いか」


 見張りは2人必要。1人に何かがあっても、休んでいる者を起こして対応出来るから。4人パーティーなんて言うのは、野営の事を考えたら正しい。


「僕らはそれぞれ十分に強いので、見張りを1人でやっても充分です」

「そうか? ならば」


 そう言って立ち上がろうとした兵士の方を押さえると、彼は立てない。


「こういう事です」

「おい、あれ? どうやって?」


 おかしな話になるのは未然に防止。これこそが抑止力。穏便に、穏便に。


「じゃあ次だ。一緒に来たやつもお前も、魔族ではないのか?」

「僕も彼も人族です。鑑定してください」

「鑑定士が足りなくてな。今向こうを鑑定中だ」


 少し待つと、キラキラした物を付けた神官らしいのが入って来た。


「向こうは魔族でなく人族だった。黒髪だから怪しいと思ったのだが。あとはこちらか」


 キラキラ神官が膝をつく。


「女神よ。この者の真の姿を教えたまえ」


 あれ? 鑑定じゃない? 女神様に聞いちゃう?

 女神様はオダワラとアタミの例だと、正体を見破ってた。神のデコイを知ってるから。ってことは、ここでばれるんじゃない?


 特に変化はない。祈った姿で目を閉じていたキラキラ神官が、ちらっとこちらを見て、また目を閉じる。


 なんだこれ?

 兵士が僕の横に来て、脇を突く。親指人差し指で〇を作った手で。

 あー、そういうのね。


「折角神官様がいらしたのですから、女神様への寄進をさせていただけますか?」




 門を通してもらったら、ハコネが待って居た。


「いくら?」


 ハコネは指で1を示す。僕も同じしぐさをする。


「この様な振る舞いは許しがたい。あれは本当に神官なのか?」




 どんよりした気分で、神殿へ向かう。ご丁寧に、神殿への道が看板で記載されている。観光地化されてるのかな。

 神殿は、これまで見た神殿をさらに豪華にし、高い尖塔が聳え立っている。

 中に入ると、門で会った様なキラキラ神官が何人もいる。


「お祈りを捧げにいらしたのですね。では拝観料をご寄進いただけますか?」

「拝観料?」

「女神様のお姿を現世に示すため、手のかかる細工物を飾っております。維持にいくらか掛かりますので、それをご浄財で頂いております」


 渋々、銀貨をそれぞれ1枚出す。


「ではこちらに」


 立派な祭壇で祈ったが、小田原や熱海での様に女神様が出て来ることは無かった。




「どうしてだろう?」

「なぜじゃろうな」


 神殿を出てどうするか考えていると、青年がこちらに来る。


「失礼ですが、ハコネ様とサクラ様でしょうか?」

「そうじゃ。そなたは?」

「私は女神ミシマの使いです。お告げがあり、ここでお二人を待っていました」


 彼について行くと、広いが少し荒れた感じの屋敷の前に着いた。門をくぐり、建物に入る。


「お待ちください」


 そう言って奥に行った彼は、少女を連れて来る。


「お呼び立てして申し訳ありません。私はこの屋敷の主、マリーです。ミシマ様よりお二人のミシマ来訪についてお告げがあり、お待ちしておりました」




 屋敷の奥の部屋に、神棚がある。洋風の屋敷に神棚?


「ミシマ様」


 目の前に現れたのは少女。僕の姿くらいの年齢に見える。


「ミシマよ、なぜその様に衰えた?」

「ハコネには言われたくないわ!」


 聞きもしないで入れ替わりを見抜くとは。


「サクラさんでしたね。ハコネの中の人。私はミシマ。悔しいけれどハコネの言うとおり、落ち目の女神よ」


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