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9-13 魔王の盟友 戦いの再開

 2月12日の朝。ここは箱根と三島を繋ぐ要衝、箱根峠。

 そこから南に飛んで、目標地点に降下。すぐに扉を出して、魔王軍の精鋭を呼び出す。

 続々と出てくる、魔王軍の精鋭達。


 2000程が出てきた所で、目の前の砦へ向けて、攻撃を開始する。

 5人の女神達の本拠地を奪還が、最低ライン。この戦いが、その第1歩だ。


―――


 扉を出したサクラは、すぐさま飛んで行った。忙しい事この上ない。


 武田軍の動きについて、スライムネットワークを使い、大魔王サクラへ情報が入っている。武田軍は小田原、三島、御殿場の3方から箱根に攻めるべく、兵力を分散させた。

 兵力を分散させて各個撃破される無能な将が、天才的戦術家の引き立て役として語られるが、必ずしもそうなるとは限らない。充分な戦力があれば、包囲殲滅に繋げられる兵力分散も有効な作戦だ。この状況の様に、兵力に大きな差があれば、包囲線で全方面からすりつぶす作戦で良い。豊臣秀吉が北条家を攻める時に、複数方面から攻め入った様に。

 武田側から見れば、ゴーラが居る場所で勝つのは難しい。しかし、3方から攻め入る武田軍に対して、ゴーラが守る事が出来るのは1カ所。そこ以外では、勝てる。むしろ兵力を分けず、1点集中でゴーラと戦うのは、下策である。


 砦を攻める間も、続々と呼び出される我が精鋭達。全員揃えば、その数は2万。本土から3割の兵力を連れて来てしまったが、向こうは塹壕を張り巡らせて、守りに徹する様に指示してある。しばらくは大丈夫だろう。


「カンナミ砦の奪取を完了」

「ご苦労。例の物はあったか?」

「はい。破壊を完了しました」


 出来るだけ、犠牲は出さない様に。の指示の下、敗残兵への暴行を禁じて、捕虜として取り扱う。捕虜の管理には、眠らせる魔法が得意な獏族を当たらせる。

 砦を攻めながら、通信施設を探させていた。函南には三島と熱海を繋ぐ丹那トンネルの出口があり、鉄道が通るだけで無く、通信用のケーブルも通っていると予想していた。実際にその通りだった様だ。


―――


「あった?」

「見つけて、壊したわ。向こうは?」

「多分、終わってるはず」


 外交で繋がるみさきちは、シモダさんと山北に向かって貰っていた。東名高速の、鮎沢パーキングエリアがある付近だ。

 函南と同じく、この辺りにも東西を繋ぐ重要な通信ケーブルがあると予想してた。それら以外にも通信ケーブルが東西を繋いでいる可能性もあるけど、そのルートもこれから遮断出来るだろう。


「簡単に直せないくらいに、あちこちで切ってくれると嬉しいけど、出来そう?」

「いいわ。守りも薄いから、簡単よ」

「じゃあ、よろしく」


 みさきちとの交信を終了し、こちらの仕事を開始する。


「アタミさん、ミシマさん、準備は?」

「大丈夫。アタミ、ちょっと街が壊れるけど、我慢してね」

「なるべく、少なくね。同じだけ、あなたの街も壊れる事になるわ」


 場所は熱海の外れ、丹那トンネル出口付近。街の中心部からは少し離れているから、ここで戦えば住民への被害は最小限に抑えられるだろう。


「僕がここから合図を出すから、それを見たら開始ね」


 アタミさんはトンネル出口の北側へ、ミシマさんは南側へ。

 地上の敵軍に、トンネルの向こうで何かが起きた事は、もう伝わっているだろうか。良く見ると、熱海駐留軍はトンネルから敵が来る事を警戒してか、砲門は水平方向に向けてある。

 アタミさんとミシマさん、それぞれが移動したのを見届けて、合図を出す。

 トンネル出口の南北からの攻撃に、混乱する敵軍。どこから攻撃を受けているのか、とっさに判断するのも難しいだろう。やっと状況が分かり、上への攻撃を始めた敵軍に向けて、彼らが備えるはずだった相手が登場する。トンネルを抜けてきた魔王軍だ。


「このまま押し切れるかな」


 魔王本人は、トンネルの向こうに残っている。トンネルを抜けてきたのは、函南を攻略した魔王軍の一部のみではあったけど、自慢の砲をアタミさん達に壊された熱海駐留軍には、為す術が無かった。


「何あれ。魔王軍って、あんななの?」

「街を壊さないで……」


 魔王軍は熱海の街に進軍し、市街戦になる。少しでも小さな犠牲で終わる様に、僕らは戦意を挫く様な小細工をネチネチと続ける。城の旗を魔法で燃やしたり、沖合に船団の幻影を投影したり。

 トンネル出口で始まった戦いは、戦場を港エリアに移した。逃げていく船に、襲いかかる鳥系統の獣人達。船は未だに帆船で、マストに帆が翻る。そのマストのてっぺんに降り立つ獣人達。そこを押さえられた船は、そこを砲撃する訳にも行かず、降伏を余儀なくされる。船には泳げる獣人よりも飛べる獣人か。覚えておこう。


 港町がほぼ制圧された頃、海上で大活躍した飛行可能な獣人達は、街を一気に飛び越える。目指すはトンネルの東、丘の上にある城。昔エルンストに出会った時から変わらずそこにある城は、嫌がらせで旗を燃やされつつも、まだ抵抗の意思を示している。


「もう終わらせましょう。見てられません」

「危ないって」


 ついにアタミさんがしびれを切らし、城に飛んで行ってしまった。アタミさんが出て来ないまま、魔王軍の飛行部隊が城に突入。城から火の手が上がる。

 街への延焼を防ぐため、魔法で風向きを変えて対応する、僕とミシマさん。その結果、街への延焼は防げるけれど、風を送られた城は、一層燃え上がる。


「ちょっとまずい?」

「なら消す?」


 僕らが消そうかと迷ったその時、城から猛烈な白煙が上がる。煙と言うより、湯気?

 城から流れ出る、湯気を上げる液体。温泉かな? いや、そんなに出る? いや、なんか流れ出ると言うより、お湯の濁流? 中から人も流されてるし。

 やがて炎は消え、残ったのは水浸しの城と、羽が濡れて飛べない獣人に、流された人。


 犯人は、アタミさん。最後の手段、お得意(?)のお湯を出す魔法で、戦闘は強制終了。


「困ったら、水に流す」

「お湯だね」




「これは酷い」

「ミシマさん、またお願い」


 兵士を始めとした、城に居るあらゆる人が、累々と横たわる。

 熱いお湯に長時間つかると、血管が拡張し、血圧が下がる。その状態では脳に行く血流が不足して、ふらついたり意識を失ったりする。アタミさんによってお湯だらけにされた城の中は、全員が風呂でのぼせたのと近い状態になっている。

 風呂でのぼせた時の対策と同様、倒れた人の頭に冷たい水を掛けてまわる。これでかなり改善するだろう。戦う力は、すぐには戻らないだろうけど。


「お湯を出す魔法って、こんなに凶悪だったんだ」

「でも犠牲は少なく、戦いは終わったわ。これで良いじゃない」


 無事な人を捕まえて、熱海の司令官がどこに居るか聞いて、一緒に探して回った。でも、居ない。

 やがて、司令官がどこに行ったか、知る人を見つけた。


「先に逃げた?」

「オダワラに援軍を求めに行くと言い、出て行かれました」


 聞いた人も、当然の様に司令官は逃げたと認識している。電信があるのに、援軍を求めるために行く必要は無いし、そもそも司令官が行く必要は無い。


「戦場にならない後方だと思ったら、いきなり前線になって狼狽してたそうだよ」


 司令官は熱海に派遣されてきた役人だそうで、昔の領主の様に一所懸命なんて思いは無い。

 司令官の代行という人に、降伏を宣言して貰って、最後がグダグダになった熱海の戦いは終わった。


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