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9-12 魔王の盟友 1人で出来るもん

 みさきちの責任発言の後、八王子の足利家は、みさきちに再考を求める意見で溢れた。自分達の尻拭いのために、主君を危険にさらすというのは、彼らの倫理観的に、大変よろしくないらしい。

 みさきちと話をする必要があるけど、彼女が解放されるまで待たねばならない。魔王は待っていられないと先に帰り、結果については外交で知らせろとの事。


 老臣達のみさきち説得が終わるのを待ち続けたが、ちゃんと話を出来たのは翌朝だった。


「それで、どうなったの?」

「うち、しばらくは、戦力外ね」


 抗議の声を上げるまでは予想通りだったけど、まさか伊勢さんが魔王に襲いかかるってのは、想定してなかった。

 結局、腹を切ろうとする伊勢さんを説得して、伊勢さんを含めた老臣数人が隠居する事で落ち着いた。魔王と手を組む事に抵抗がある老臣が隠居、それほど抵抗がないものがその跡を継ぐ。隠居と言っても、必要に応じて呼び出しには応じるし、城が攻められたら隠居だろうと子供だろうと戦える者は戦う。ここでの隠居ルールは、一家を代表しての出陣はしない、政策の決定権を持たないって事らしい。


「で、江戸には行くからね」

「引き留められたんじゃ無いの?」

「あちらの本拠地がどんな感じか、見たいじゃない」




 みさきちと僕が飛んでしまえば、もう老臣達に足止めされる心配は無い。

 止められないと分かった彼らは、僕にみさきちの安全を託して、送り出した。その願い、聞き入れよう。


 八王子から江戸を目指し空を行く事、2時間くらい。新宿辺りまで来たところで、群衆が見えた。

 そのまま飛び続けてスルーしても良いけれど、何事なのかと様子を見に降りたら、魔王の言う事を聞かないはぐれ(・・・)魔王軍だった。同盟に反対する者が八王子を目指して進軍中。その数は、自称3000人。実数は半分以下に見えるけど。


「魔王が、『これから足利の姫が来る』って言ったらしい。それで同盟反対派が、その姫を倒してしまえば良いのだろうって」

「このままスルーしたら、私を探して八王子に向かってしまう訳ね。なら、迎え撃つしかないわね。相手をして欲しいのなら、挨拶代わりに私の事をよく知らしめて、戦う意思を失ってもらいましょう」


 そう言うと、みさきちは地上にいる集団の少し手前に降りる。そんな距離だと、挨拶の声が届かないんでは…… 実際に挨拶をしようって訳じゃ無いか。


「やあやあ、遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ」


 どこの鎌倉武士だ! それとなぜかすごく声が通る。何かの魔法に音声を載せて飛ばしてるんだろうか? 集団も唖然としてる。


「汝らの探す足利の姫とは、私の事である。同盟に異を唱える者よ。止めたいというなら、力尽くで止めに来るが良い」


 集団からはガヤガヤと騒ぐ声はするけど、明確な言葉としては伝わってこない。だけど、意思は伝わってきた。武器と魔法によって。

 1対1000で包囲されてしまうはずのみさきちは…… 増えた。敵軍を囲む様に。デコイの魔法か。


「あれ? なんで?」


 単なるデコイだと思ったら、その幻影からもファイアボールの魔法が発射された。起きないはずの事が起こり、混乱する敵軍。

 戦術ビューで見ると、その仕掛けが見て取れた。デコイは、仕掛けを隠すためのカモフラージュ。デコイの幻影がある位置に、いつの間にか魔法を反射する板が配置されている。それによって、魔王軍からデコイに放たれた魔法は反射されるし、本物のみさきちもデコイに魔法を撃って反射させている。多数の魔法が飛び交い、その魔法に狙われる彼らには、それに気付く余裕は無いだろうけど。みさきちは、デコイに近付く敵をうまく排除して、敵を仕掛けまでたどり着かせない。

 何のためにそんな事をしているのか? それは、恐怖感を植え付けるため。戦史においても、包囲殲滅の恐怖は、しばしば軍を壊滅させる。

 でも、包囲殲滅ってのは、多数で囲むもの。それを1人でやってのける、まるで奇術師。


「こんな物かしらね」


 下の惨劇を見てる僕の隣には、その奇術師。デコイと仕掛けの設置後、彼女はここから魔法を撃っていたのだ。デコイが魔法を撃つ様に見せかけて。


「同盟を認める者は、魔王の元に帰順せよ。まだ(あらが)うのであれば、さらに相手しよう」


 なんだかこのみさきち、ノリノリである。調子に乗ってる時のハコネに似てきた。それを言ったら、怒るだろうけど。

 撤退する方向にだけ、デコイを消して逃げ道を開ける。それを見た反対派は、ついに撤退を開始。やっぱりはぐれ(・・・)だ。メタルで無くても、ちゃんと逃げる。




「やるだけ無駄だったな」

「本当は、お主も魔王なんじゃろう?」


 江戸に到着し、魔王のところに行くと、ハコネが魔王と駄弁ってた。

 オダワラさんはダンジョンに興味があるらしく、1人で潜ってる。獣人の歴史を聞いて、ダンジョンの活用法について研究したいそうだ。小田原の街を奪還するために、江戸の事例は参考になるんだとか。


「停戦期間は、いつ終わる?」

「2月12日までだから、あと12日」


 もう停戦期間の6割は消化してしまった。そろそろ、再び始まる戦争に備えないと。

 魔王の城に居た間も、時々戻って準備していたとは言え、魔王軍や足利軍との連携については準備が出来てない。その打ち合わせが、ここにみさきちが来た最も重要な用事だ。


「魔王と僕らの同盟について、情報は流れてるかな?」

「八王子に魔王が来た件は、かなりの人数に目撃されているわ。もう伝わってる頃でしょうね」


 もちろん、伝わる先ってのは、武田方。連邦の諸領邦には遅れて伝わるだろうけど、北、西、東を敵方に包囲されたとなれば、動揺が拡がるだろう。


「神奈川全体と山梨方面が戦場か」

「そう思わせておきたい」

「ん? 違うのか?」


 そこで、僕が考えてる作戦を伝える。

 武田軍の主力を、どこで迎え撃つか。箱根に立て籠もるってのは、守るには適してるだろう。でもそれでは、次々と増援が来たら休む間もないし、戦闘向きで無い人達の安全も確保しづらい。

 箱根を安全なまま確保して、その外で迎え撃つのが望ましい。その為には、相手方の支配域に食い込んだ形で、前線を作りたい。


「空中砲台は、ゴーラで対応か。空中戦に強い獣人もそちらに回して、支援させよう」

「もし空中砲台が、八王子を狙ってきたら? 私だけじゃ、倒せないわよ?」

「その場合の事も、考えてあるよ」


 物資輸送に時間が掛からないのが、僕らの強み。扉を出すハコネは、江戸へ八王子へと大忙し。僕は箱根で準備をして、それ(・・)を各地に運ばせる。

 また同時進行で、連邦と魔王軍の接する前線では、一旦前線を下げるという行動に出ている。前線を下げるラインは、江戸から繋がるダンジョンが地下に張り巡らされているポイントまで。そこまで下がれば、前線に貼り付ける戦力を削減しても守り切れる。




 そして、2月11日の夜。

 残された停戦期間は、あと1時間。既に軍事面の準備は完了し、号令を待つのみとなっている。

 情報の伝達は、スライムのネットワークを使わせて貰っている。明るくなると通信が難しくなるので、夜間にどれだけ目的を達せられるかが鍵だ。

 日付が変わると同時に、作戦を開始する。ハコネも別の場所で動き始めるだろう。

 時間の管理は、スライムネットワークにおまかせ。スライムの内部時計って物があるらしく、それを参照する。それぞれお供のスライムが知らせる時間を参考に、僕らは日付を跨ぐと同時に行動を開始出来る。


 スライムが、カウントダウンの光を発する。5、4、3、2、1。


「時間だ」


 0と同時に、飛び立つ。夜の連邦領へ。


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