9-9 魔王の盟友 将に将たる者
「だがな、獣人と四天王も、俺が不在の間、生き抜く為に頑張った。何百年も留守にした俺を、先祖代々からの伝承で待ち続けてくれた。帰って来た俺は、それに報いてやらねばならない。そのために、奪われた獣人の地を取り戻す」
獣人の物語に同情すべき所もあるけれど、ケミミミを追い出し、人族に追い出され、再び追い出したりと、お互い様としか言い様がない。
どこまでが獣人の地? 1度征服した場所の全てと言うなら、箱根さえその範囲に入ってしまうのか。そして僕らも、箱根の地を護る為に、魔王の行くに立ちはだかる事になる。
「だが、拡大は止まっている。今の作戦には限界があってな」
地下でダンジョンを拡大して、その上にある都市も支配する作戦。それが通用する場所と、しない場所があるそうだ。そうやって支配を拡げられたのは、川崎と町田。その先では頓挫している。
地上戦で連邦と戦うのは、武器の差があって分が悪い。旧式装備を未だに使う八王子や相模原となら、やり合えているそうだけど。
そこまで話した所で、部屋の外が騒がしくなる。ハコネ達が見学から帰って来たんだろうか?
「上様! 勝負はまだ終わっておりません。我らも戦います」
扉を開けるとそこには、ハコネ達を見学に連れて行ったマルを除く、残りの四天王達5人が居た。
「いや、もうそれは終わったんで」
魔王が知る長尾情報は大部分終わりで、そろそろ次の情報源を探しに行こうか思ってるのだけど。
「上様は将に将たるお方。そのお力は、統率にて示されるのであり、兵の如き武勇で示す物では無い。上様に従う我ら兵が、お前の従者と戦ってこそ、将に将たる上様のお力が測れるのだ」
1対1の強さが大事な訳ではないって、魔王軍ってのは脳筋集団かと思ったら、案外そうでもないのか? それはともかく、僕に率いられる誰かが戦うと言う事なら…… って、なんかやる前提で考えたけど、そんな挑発に乗ってどうする。そんな無駄な戦い、誰が行くんだ?
「ならば、我が相手しよう」
どこから聞いていたのか分からないけど、四天王の後ろからハコネの声がした。ハコネは僕の配下って訳じゃ無いと思うんだけど、良いのかそれで?
「場所を変えようぞ」
僕が何かを言うまでも無く、ハコネが話をどんどん進めて行ってしまう。どうしたハコネ?
「マルも魔王もお主が倒してしまった。我も何かせねばな」
オダワラさんによると、ハコネはマルに何もしてないと言われ、「見学が終わったら勝負だ!」なんて話になってたのだとか。
「そんな無駄な事…… もしハコネがやられたら、やられ損だし」
それを言って、失言に気付く。ハコネが負けると思って居るようなことを言ったら、ハコネはどうする?
「全員まとめてでも構わぬ」
あーあ、さらにやる気を引き出してしまった。
でも四天王達全員とってのは、さすがに無理だって。
建物の外へ出ると、金属の軋む音を立てて、ゴーラが走り寄る。
「マスターが戦うのであれば、私も戦います。私が戦います」
ハコネから何が始まるのか聞くと、自分が戦うというが……
「ゴーラまで一緒じゃ、彼らに勝ち目が無さ過ぎて、あんまりじゃないかな」
「その様な情けを掛けられたとあっては、上様の名を汚す。まとめて相手をさせて貰おう」
今度はマルがハコネみたいな事を言い出す。何だこの、意図しない挑発に掛かる残念な人達は。
「それなら私も参加させて貰うわ」
ついにはオダワラさんまで。結局、ゴーラにハコネとオダワラさんが乗り、四天王の6人と戦うらしい。
屋敷に居た他の者も、建物の外まで見に来たり、窓から見守ったりと、ギャラリーはどんどん増えていく。
「上様、我らの力、とくとご覧あれ」
「では、始めるが良い」
魔王に合図を送られると、ゴーラを囲む半円状に散開する四天王達。そして一斉にゴーラの右足に向けて魔法を放つ。6人が揃って、同時に同じ行動するとは、この様な状況でやるべき事を決めているのか。
しかし魔法は、ゴーラの装甲によって反射される。反射された魔法は建物の屋根をかすめて、空の彼方へ。
「反射先を気にして動ける程の余裕か」
いや、多分ハコネはそこまで考えてない。6方から撃たれて、それを器用に狙った方へなんて、ハコネには無理…… オダワラさんがやったのか?
続いて一斉に槍を持ってゴーラの関節を狙うも、穂先が表面のスライムに溶かされてしまう。先が丸まった槍は、ゴーラの装甲を突き破る力を持たない。このゴーラの防御に関しては、僕も打ち破る方法を思い付かない。まさに鉄壁の護り。
「おおっ!」
唯一効果があったのは、ゴーラ直下の地面を魔法で削ってよろめかせた事だった。
それもハコネがゴーラを浮かせてしまい、大きな効果をもたらさなかった。
「魔法が効かない、武器も通らないか。これは難しい」
魔王も感心するが、味方が苦戦している割に、その余裕は何?
そこで四天王6人は集まり話し合う。何か大技を出してくるのか?
ハコネ達は、出来るもんならやって見ろとでも言う様に、ただ立って相手の出方を見守る。
「では、参る!」
2人がゴーラに飛びかかり、それぞれ前後から右肩にしがみつく。そして、閃光と爆音。
「何!?」
ゴーラの肩に、内側から抉れた様な破壊。何をやった? 飛びかかった2人は、自らが起こした爆発によって吹っ飛び、地に伏す。
そして次の2人が、その破損箇所目指して飛びかかり、再びの閃光と爆音。さらに残る2人も同じ事を行い、さらなる爆発がゴーラを襲う。
すると、これまでどんな攻撃にも耐えたゴーラに異変が。なんと、音を立てて腕が落ちる。攻撃が通るだなんて。
「だが、倒すには至らないか。そこまでだ」
魔王が止め、倒れる6人に魔王が魔法を掛ける。伏していた四天王達は立ち上がり、魔王に敬礼。
「忠義と勇気、見事であった。今のお前達となら、空中砲台さえ落とせよう」
「ありがたきお言葉」
連続での自爆攻撃まで行うとは。止めなければ、さらに続けての自爆攻撃もあり得た。倒されても復活出来る能力を最大限生かすと、こういう戦術に到達するのか。
「まさかここまでとは、思いもせんかった」
「可動部分は必要ですが、そこを更に守れる様、改良が必要ですね」
ゴーラから降りたハコネ、オダワラさんと、ゴーラの破損箇所を確認すると、壊された過程が分かった。ゴーラの関節を狙う楔として自らの手刀を挟み、そのまま自爆した最初の爆発。その爆発力は、ゴーラの腕を肩から引き離す向きに働く。そこへ第2波、第3波と立て続けに同じ攻撃を行われ、ついにゴーラの腕をもぎ取るに至った。
関節部分には可動性の為に僅かな隙間がある。そこを突く魔法攻撃は難しいが、その部位に直接触れての攻撃で破壊するとは。しかし自爆だなんて、そこまでするのか……
「さて、俺たちの負けだ。完敗だ。魔王である俺に勝ったのだから、それ以上の存在を名乗るべきだな」
……魔王以上の存在?
「配下の魔王を幾つもの異世界に攻め込ませた、魔王より上位の存在が居たという」
……どこのRPGの話だ。某有名RPGの第3作が思い浮かぶけど、きっと魔王も同じ事を考えてる。
「サクラよ、勇者を倒し、魔王も倒す者よ。世界をその手に掴むべし。この世界の魔王達の上に君臨する、大魔王として」
大魔王?
「大魔王様!」
激闘を演じた四天王達が叫ぶ。
「大魔王様!」
観衆も叫ぶ。
「誰が大魔王だ!」




