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9-8 魔王の盟友 獣人800年史

「長尾 孝。あいつとも、この世界で出会った?」


 聞きたい事は多くあるけど、まずはこれ。 

 妹まで出てきた上にあいつも居るとなれば、僕らがここに居る理由の解明に繋がる。


「ああ」

「やっぱり、この世界に居たか。今はどこに?」

「それは分からん。俺を封印したのが、エドとあいつだ。俺を封印した後のあいつは、足取りが掴めん」


 魔王を倒したのが、長尾?

 前にエドさんは、魔王を倒すために勇者を呼び出し、封印したと言っていた。その勇者が、長尾だったのか。


「あいつは、勇者として呼び出された。俺の敵になる為にな」

「敵か……」

 

 この世界では変な因縁が出来ている様だ。


「まず、俺の周りでこれまでに起きた事を話そう」


 魔王から語られるのは、他の女神達とは違う立場から見た、この世界の出来事。

 魔王が呼び出されたのは、800年程前の事。その少し前までは、この江戸を拠点に創造主と呼ばれる者が君臨していた。創造主の元でケモミミを持つ種族、例えば犬耳族だったり猫耳族だったり、そんな諸種族が混在しつつも繁栄していた。

 その創造主は、ある日姿を消した。どの女神の話にも出てくる、大昔にあった大事件だ。


「今の話は、俺が呼び出される前の出来事だから、伝聞になる。俺が実際に見たのは、その創造主が去った後からだ」


 この世界での最初の記憶は、地下に倒れていた事だそうだ。召喚者はその場におらず、誰に召喚されたのかも分からないそうだ。

 倒れていた魔王を発見したのは、獣人達。獣人というのは、姿はほぼ獣ながら、人の様に直立し、言葉や道具を使う種族で、今も魔王の傘下に居る。その獣人達はケモミミ達からは下等な種族として差別され、奴隷化されていた。一部の元獣人奴隷達は地下に潜伏して居たが、そんな獣人が魔王の発見者だった事が、その後大きな意味を持つに至る。


「俺は奴らを保護してやりたいと思った事は無い。奴らも俺を利用出来るか考えて、その結果受け入れただけだ。多くの獣人にとって、それは今でも変わらない。自分に利益をもたらすなら、神だろうと魔王だろうと、それを使う」


 魔王に出来る事は、女神に出来る事と同じ。魔王は最初の居場所、江戸のダンジョンを住みよい場所に改善した。女神がダンジョンを制御するのと同様に、魔王もダンジョンで出来る事を見つけては、役立つ様に改変して行った。ただのトンネルだったダンジョンを、有る所は拡げて食料になる魔物の繁殖場所にしたり、また別の場所は快適な住居にしたり。それが地下の獣人達に受け入れられ、女神が信仰を集めるのと同じ様に、魔王に力を与えた。


 実は魔王はその時期に、1度倒されてしまったそうだ。


「あれは不運だった」


 だけど、それで1年と経たずに復活出来る事を知った。当時の1ターンは、今と同じで1年だったらしい。そのお陰で、その後とても大胆に行動する事が出来たそうだ。


 その様な生活が続いていくが、徐々に波乱に向かって進んで行く。

 獣人達には人間やケモミミ達と異なる点があった。ケモミミの身体はヒトである為、増える速度もヒト並み。しかし獣人達の身体は獣であり、繁殖速度もその身体がどの獣かによる。つまり、毎年何人もの子を産み、その子は3年経ったら親になるなんて種族までいる。とにかく増える速度が速い。それまでは食糧不足で繁殖が制限されていたのが、魔王の登場でその制限が取り払われたらどうなるか。

 獣人達は、増えに増えまくった。


 だが、それだけでは終わらなかった。どうしても地下では手に入らない物は、地上で得る必要がある。やがて地上に出た獣人がケモミミの手に落ち、地下に便利な設備がある事が知られてしまう。それを奪わんとするケモミミと獣人の争いは、すぐに始まった。


「俺の動機は、獣人のためでなく、俺のダンジョンを乗っ取ろうとは何事だ、って事だった」


 武装に関しては、地上のケモミミが遙かに優れていた。創造主時代から引き継がれた、蒸気機関まで持っていた文明国だ。当然銃もある。しかし、銃の火力が全てを決めるに至らない因子が存在した。それは魔王のダンジョン制御能力。

 ダンジョンを制御出来る魔王は、ダンジョン直上のどこにでも出口を作れる。そのダンジョンは、創造主が東京の地下鉄網を模して造った、網の目の様なネットワーク。さらにそのダンジョンは魔王によって拡大されていた。つまり、どこでも突然ダンジョンの出口が出来て、奇襲出来る事を意味した。民家だろうと、産業設備だろうと、武器庫だろうと。


「当然、勝った」


 やがて獣人達は、ケモミミ達が持っていた武器も得て、どこまでも勢力を拡大。

 だが、ダンジョンを出た獣人達は、魔王を利用する必要もなくなる。それでも魔王を慕う者もあり、江戸付近に魔王派獣人、それ以外は好き勝手する獣人という構成になった。

 それについて魔王は、来る者は拒まず、去る者は追わず、敵対するなら迎え撃つというスタイルだった。


「結構遠くまで拡がったみたいだが、まあ好きにやれば良い、って江戸から眺めてただけだな。あの時までは」


 女神シナガワ。品川は江戸のダンジョンが真下までは入り込んでおらず、初期の獣人反乱期は耐えきったものの、獣人拡大期に滅ぼされる。

 そしてシナガワは、彼女が僕に語った通りの、反撃を行った。勇者の召喚だ。


「魔王はその姿な訳だから、長尾は倒しに来た時に何か言わなかった?」

「何故こうなったのか、語り合ったさ。だがあいつは、やらなければならなかった。ケモミミ達の為に」


 おい、長尾。僕よりケモミミを取るのか?


「魔王だから倒されても1ターン、つまり1年で復活するって、そう言う話だったからな。1発殴る、程度のつもりだったんだろう。俺も封印なんてされるとは思わなかった」


 途中の経緯はすっ飛ばして、最終的に魔王は倒され、そして封印された。


「どうやって俺が倒されたかって? それは教えられんな。聞きたいなら、長尾を見つけて、直接聞くんだな。まだどこかに居ればだが」

「居ればって?」

「俺が倒されたのは、400年近く前だ。あいつに寿命が無いのなら、どこかに居るだろう。そう言う願い事も、女神は叶えるみたいだからな」


 そうだった。僕がハコネに叶えて貰った様な願い、不老不死なんてのをあいつも願っていれば、まだどこかに居る。だけど居るなら、魔王を倒した後も長く活躍して、その名を僕も聞いているはず。しかし、魔王を倒した勇者の事は、昔話としてしか伝わってない。つまり、もう……


「憶測で、兄がもう死んでるとか、妹に言わない事だな」

「それは言わないって」


 魔王封印後に起きた事は、多くが失伝され、それ程分かっていない。

 外敵と争う事が減った獣人達は、いつしか分裂して行った。魔王が居なくなって100年もすると、獣人達はバラバラに国家を作り、互いに争っていた。ケモミミ達が武器を造った技術は失われ、原始的な武器と魔法で戦うまで文明は後退。やがて山中や西や北に逃れていた人族がその争いに加わり、次第に勢力圏を削られた。魔王封印から200年もすると、ついには元のダンジョンの中まで押し戻されてしまったそうだ。その頃の物語が、人族の間では魔物と戦った勇者の物語として知られている。勇者が魔物を倒してその支配権を奪取、建国して勇者王と呼ばれた話とかだ。


 ダンジョンまで押し戻された獣人達はどうなったか?

 魔王は勇者に倒された後の準備をしていた。倒されると1年不在になるため、ダンジョンの管理を他の者も出来る様に、権限を委譲していた。勝手な事はされない様に、権限を持つ数人の合議制として。それが今の四天王に繋がる。

 地上を支配した人族も、四天王が管理するダンジョンとその真上では勝ち目がなかった。結果として、人族は江戸支配を諦め、品川に都市を造った。

 だが、獣人側にしても、魔王が居た頃の様な繁栄は訪れなかった。魔王の復活までは。


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