9-7 魔王の盟友 vs魔王
ロープの様な物を巻き付けられたら、なぜ痺れる? このロープから電気が流れて来たってのは、予想が付く。しかし、この鎧の材料はヘイヤスタ。魔法は反射するから、電撃の様な魔法は受け付けない。なら、純粋に物理現象としての電気? 鎧が電気を通すかってのは、実はテスト出来てない。僕の部屋を除いて、電気が使える場所が無いから。
「ああもう、鬱陶しい」
「何!?」
「ハコネ! 持っといて!」
普段、飛行くらいにしか使わない物理魔法で、巻き付いたロープを剥がす。続いて自身にその魔法を使い、高速でマルに接近すると、そのロープを持つ手元を攻撃。ロープを奪い取って、ハコネにパス。面白いアイテムだから、貰っておこう。
「よみがえったら、話を聞かせて貰うよ」
死んでも甦るという言葉を信じて、必殺の一撃。マルを押し倒し、腕でマルの首を押さえ込むと、体重を乗せるのでは無く、物理魔法で力を掛ける。物理魔法は魔法に抵抗力がある物、例えば生き物に掛けると、レジストされるのか効果は劣る。だからマルの首を魔法で締めようとしたって、効き目は薄い。しかし自身に掛けると、何の抵抗も受けずに有るべき力が発生する。だから僕自身の腕に掛ける物理魔法は、有るべき力を発揮して、マルの首を押さえ込む。首に触れるのはヘイヤスタの腕当て。そこに掛かる力は、かつて屋敷を持ち上げた程の力だ。呆気なくマルは落ちると、すぐに消滅した。
「さて、これで四天王を1人倒したけど、あと3人居るのか」
あと3人倒さないといけないのか。次はハコネかオダワラさんにやって貰おうかな。
すると、どこからともなく、低い声が聞こえる。
「よくぞマルを倒した。だが奴は四天王の中でも「「最弱」」」
言うと思ったフレーズに、僕とハコネの声が被さる。なぜ言うと思ったか? 考えたのも僕と同じ記憶を持つ魔王だから。
「次はトウが相手する。水色の線に沿って、進むが良い」
次の行き先を告げるアナウンス(?)は終わり、静寂が戻る。
「全員倒す必要、あるのじゃろうか?」
「次の次、あるいは最後の相手がどこに居るか、予想付かないのかしら」
ハコネとオダワラさんの言う事はもっとも。1人目が丸ノ内線のホームにいるマルで、2人目がトウとなれば、東西線のホームで待ってそうだ。水色ってのも、東西線の色っぽいし。
そう考えながら改札のフロアに戻ると、確かに水色の線が床に描かれている。だったら、3人目と4人目は、この付近を通る他の地下鉄、半蔵門線と千代田線と三田線のどれかだろう。四天王と言いながら5人居るお約束まで仕込まれているかも知れない。
その様なネタに走るなら、元締めの魔王をどこに配置するだろうか? 僕ならどうする?
「本命はこっちじゃ無いけど、途中だから見ていくよ」
小声でハコネとオダワラさんに囁く。
向かうのは横須賀線の駅。最初に地下に下りた場所の近く、そこからさらに地下深くにある。アナウンスは、トウの居場所である東西線ホームを、青で無く水色と呼んだ。そこから、青は別途出番があるのでは、と推測した。そこで、ラインカラーが青である横須賀線ホームにも、誰かが居ると考えた。本命は、京葉線。行くまでの道が長く、魔王の待ち構える場所に似合うから。
ホームに下りる階段に引かれた青い線。それをたどらず、青い線が無い別の階段を下りて、足音を殺してホームに向かう。
静かにホームへの階段を下りると、ホームには売店だった建物がある。飛行魔法で静かにその屋上に移ると……居た。売店の先、青い線がある階段から下りた先には、人影。他の四天王が倒された後、青い線に沿って何者かが現れる、そんな思い込みをしてるのだろうか。後ろを警戒するでも無く、マヌケに待ち構えている。
ハコネとオダワラさんに、自分が行くと合図を送り、静かな飛行で背後に忍び寄ると、奇襲の一撃!
「うぐっ」
「え? こっち!?」
本命じゃないはずの所に、本命が居た! これ、魔王じゃ無いか! 同じ記憶を持つ僕は、こんなにマヌケじゃ無いぞ。
「くせ者だ!」
「上様! お前は! この卑怯も、ぐ」
「お主もじゃ」
売店の建物から飛び出てきたのは、さっき倒したマル。売店から出たところを、屋上から飛び降りたハコネが押さえ込み、制圧。
「まったく、ただ外交を受けてくれたら、こんな事も不要なのに。話し合いに来ただけで、どうしてこうなるのさ」
「その外交に来た奴から、挨拶も抜きに1撃食らったが、どういう事か説明して貰おうか」
ちゃんと話を聞くという魔王を解放し、魔王の執務室に移動しつつ話す。今回の四天王バトルも、昨夜ハコネ達の接近に気付いた魔王が、僕が来ると見込んでイベントを企画しようなんて言いだしたのだとか。迷惑な親分を持って、四天王には同情する。
その四天王は今は6人で、その時点で突っ込み所が充分だけど、この先さらに人数を増やして、黄道12座と言いつつ13人揃えるつもりなのだとか。はいはい、メトロ9人と都営4人で仲間割れでもしてしまえ。ただし、都電荒川線は使わない様に。さくらトラムって名で、僕が巻き込まれかねない。
それはともかく、それだけの人員増強を何の為にするのかまでは、言えないのだとか。矛先が、みさきちやサガミハラさんに行かなければ良いけど、その辺は追って調整しよう。
本拠地は地下と聞いてたけど、それは既に昔。今回の様にイベント的にしか、地下を使ってないらしい。今の執務室は、地上の東京駅にある。赤煉瓦の建物に入り4階まで上がると、そこにあるのは天井が高いホールだ。
傾斜した天井の1面はガラス張りで、外の光を取り込み、部屋を照らしている。
「ここは本来、ホテルの設備だ。この界隈で最高の部屋だったので、この様に使っている」
「魔王らしからぬ、明るい部屋じゃな。魔王なら、おどろおどろしい部屋を使うべきじゃ」
「そんなルールは知らん。ジメジメした部屋は好かん」
魔王城と言えば、暗くて道が入り組んだダンジョンの最奥に玉座とか、なぜか勇者の為の最強の武器が収められている宝箱があったりと、どう見ても魔王の得になりそうな構造をしていない。そんなのと違い、ここは利便性も損なわず、美しく整えられている。まるで、普通の王宮の様に。
「さて、ここからは1対1だ。そなたらは、前の間で待つ様に」
「それでは上様を御護りする者が」
「そなたに護られねばならぬ、我では無いが、違うか?」
ここへ来る途上、話し合いは魔王と僕の1対1とする事に決めた。世界の行く末について不安を掻き立てる情報は、もっと確認が取れるまで知る人数を制限したい。どこかから漏れて、民心を惑わせるような事は避けたい。だから、マルにもこの話し合いには参加しないでいて貰う。ハコネ達は、マルが参加しないのと条件をそろえる為に、外で待って貰わざるを得ない。
話が長くなりそうだから、ハコネとオダワラさんはこの建物を見学させて貰うと良い。多分これは遺物として建てられてるから、有るべき姿を保ってる。建築としても、賞賛される様な素晴らしい物になってるはずだ。 そんな理由を付けて、ハコネ、オダワラさん、マルの3人には、離れた所に行って貰う。これから話す内容は、まだ秘密も多いから。
やっと2人だけで話せる状態になった所で、まずは僕の話からすることにした。
僕はジョージBに聞いた事、リンに聞いた事、連邦戦での出来事を、そのまま話した。質問も交えつつ、魔王は真剣に耳を傾ける。この世界の終わりについては、まだ確定となる裏付けは無いけれど、同じ情報から考えつく結論は、僕と魔王で一致した。似た発想しか出ない所が、残念ではある。
そして次は、僕が聞きたい事を聞く番だ。




