9-6 魔王の盟友 四天王
昨日と同様、姉さんと一緒にゴーラさんで空の旅。昨夜の拠点から北西へ向けて、エド付近の水上を行く。ゴーラさんが自ら飛んでくれるので、姉さんも私も景色を眺めて行き先を指示するだけ。姉さんは良い仲間に恵まれたものだ。
左手に見えるは、サクラさんがシナガワと呼ぶ、エドの街だった場所。かつての地域随一の都市も、今は廃墟と化した。遠い昔に観た、魔王軍に滅ぼされたオダワラの街が思い出されて、魔王への怒りが呼び起こされる。
そんな廃墟の沖合を過ぎて、創造主の時代に街があったと言われる地を目指したら、街が出来ていた。
「魔王が街を創ったの?」
「他におるまい。街の者は敵という事は無い様じゃが、騒がれる前に通り過ぎた方が良かろう」
以前の魔王は、街を作りなどしただろうか? オダワラが滅びた時は、そのままの廃墟が残された。僅かな逃げ延びた人々は山中に隠れ住み、荒野に放たれた強大な魔物から隠れて過ごした。荒野は大小の魔物達が弱肉強食の世界を築き、人々が平地での暮らしを取り戻すことを妨げた。
それなのに、今この地には、街がある。空飛ぶ私からでは、ここで暮らす何かの姿は良く見えないが、街があるからには誰かがいるのだろう。
丸の内という場所は、今見える街のさらに北西にあたる。問題は、簡単に魔王の本拠地への入口が見付かるかだけど……
「目立つわね」
「これじゃろうな」
赤いレンガに白い窓の、綺麗な建物が建っている。昨夜パソコンとやらで見せて貰った中に、似た建物の事が描かれていた。サクラさんの知る世界ではトウキョウ駅という駅だったそうで、ここから旅立つ列車は、オダワラの地まででも2千数える間に着くそうだ。
だけど、今ここに鉄道は無い。駅の周囲にも建物は無く、その先に森と丘が見えるだけだ。
「これが入口じゃろう。ではここで、サクラを呼ぶとしよう」
駅の北西側には大きな扉があり、中に入れそうだ。ここからはゴーラさんと行くには狭いので、降りて行かないと。サクラさんからは、その様な場所になったら呼ぶ様に言われていたけど、出来れば姉さんと2人だけで行く方が楽しいのに。でも、今となっては私よりも強くなったサクラさんが居た方が、姉さんも安全になる事は確かだから、仕方が無い。
―――
「本当に東京駅だ…… これ、誰が作ったんだろう? 魔王かな?」
「壊してみれば分かるかも知れぬな。これが遺物であれば、維持費を出す限り、勝手に再生する」
「そんな事は後にしましょう。話し合いに行くのに、建物を壊してどうするのですか。2人とも、考えが危ない方に行き過ぎです」
僕は壊したいなんて一言も言ってないのに。それはともかく、この東京駅が魔王の本拠地とすれば、魔王の居場所はどこだろう?
建物の前には、八王子の東で戦った魔王軍と同じ様な、鎧を着て直立するクマやトカゲが居る。僕らの事が見えていると思うけど、特に反応は無い。問答無用で戦いになったりはしないってのは、ありがたい。
「ナニモノダ?」
「サクラと言います。魔王に会談をお願いしたい」
「チカラナキモノ、トハ、アワナイ。シテンノウ、ト、タタカエ」
クマの方が話しかけてきた。魔王に会うには、四天王とやらと戦って、力を示せって?
どこかで聞いた事ある様な条件だけど、試合でもするって言うのだろうか。まあ、途中にいる全員を倒してダンジョンのボスを目指す、ってのと比べたら、4人倒せば良いなら簡単ではある。
「アカイセン、デ、ススメ」
トカゲの門番が、順路を教えてくれる。じゃあ、言う通りに行きますか。
「ゴーラ、ここで待っておるのじゃ。もし危害を加える者があれば、倒してしまっても構わぬ」
「はい、マスター」
今の入口は、3つの入口の中央だったから、東京駅の丸の内中央口に相当する場所だろう。建物に入ったところはただの通路で、その正面に有るべき改札口は無い。床には色々な色の線があるけど、赤い線は通路を進むと左に曲がり、その先で下り階段に繋がっている。線の通り進めば、さっき駅を見上げた広場の地下、つまり丸の内の地下に降りて行く事になる。そこが魔王の本拠地だったという、エドさんの話と一致する。
「ダンジョンというのは、魔物が出たりする物なのじゃが」
「その様に管理して、報酬を与える為の仕組みよ。ここはそんな事を考えてない、ありのままの姿ね」
通路の天井には仄かな明かりが灯り、多少暗いながら歩くには支障が無い。床は石か削れたタイルだろうか?
広い通路の真ん中を進むと、一気に広くなった場所を過ぎる。ここは確か、地下中央口改札がある場所なはずだったから、これで駅の地下から出た事になる。ここで青い線と別れて、赤い線はこの先にある丸の内の地下へと向かっている。昨夜丸の内周辺の地理を予習したから、どこへ行こうとしているのか予想が付いた。赤い線というのも、ヒントになっている。
再び通路になってそこを進むと、次の開けたスペースに出る。
「少し広い場所ね。さらに下に降りる階段があるわ」
「この下に来いという事じゃな」
予想通り、赤い線は地下にある駅、メトロの東京駅に繋がっていた。
広いスペースに改札は無く、そのままホームに下りる階段が見える。その階段へ向かう赤い線。この下で四天王とやらが待つのだろう。
階段を下りたホームがあるべき場所は、線路の部分も同じ高さに揃えられて、大きな空間になっている。先程までの通路と比べて明るく、待つ者の姿をしっかりと見せる。これまではケモノ型のが多かったけど、ここに居るのはコウモリの翼と牙を持つ、人型の男。背丈は僕らの倍くらいか。
「俺は四天王の1人、マル。ここへ来たという事は、魔王様を倒そうなどと言う愚か者か」
「いや、会談を申し込みに来た。倒そうってのは考えてない」
「なぬ? そうなのか…… まあ良い。ここでのしきたりを教えてやる」
魔王に会いたければ、マルをはじめとした四天王を倒して、魔王の間に続く扉を開けろと。いや、魔王を倒したい訳じゃないし、ちょっと用事があるから会いたいってだけで、四天王が死んでも良いの?
「我らは死を恐れぬ。貴様らの勇者と同様、魔王様の力で何度でも甦られるのが、我ら魔将だ。挨拶代わりの死合をしようではないか」
死を恐れないというか、死んでも問題ないって言う考えか。勇者ってのはジョージBの事だろうけど、倒されても拠点で甦るという、便利なルールに守られている。だからガンガン行こうとするけど、その復活力を剥奪して、命を大切にと戦略をチェンジさせたいところではある。
「俺を倒せば、次に行くべき場所が示される。さあ、戦え!」
そう言うと、かざした手に火球を生み出し、それを僕に投擲する。その大きさは両手で抱える程。それを避けるも、壁に当たった火球が爆発して、その爆風が吹き荒れて体勢を崩させる。そこに、さらに3つの火球が向かって来る。危ないか?
「なんてね。今更こんなので、焦る事も無い」
「その鎧は!?」
今日の装備は、ヘイヤスタで造った鎧。火球は鎧に当たると反射されて、マルの周囲に炸裂する。物理的な現象である爆風で揺らぐ事はあっても、魔法の火球は鎧に反射されるから問題なし。
「ならば!」
銀色のロープ状の物が向かって来て、僕に巻き付く。これは……結構丈夫だけど、動けない以外に何か危険性があるのだろうか?
「それで、こうだ!」
痛い! 身体にびじれが走る。ヘイヤスタを電気が通った?




