9-4 それぞれが願う事 リンと長尾凛
「スライムになるって、成ろうと思えば成れるの?」
「我々はそう言う様に出来ている。あなたでも、なれる。多分」
なれる! スライム!
スライムになろう!
変なフレーズが思い浮かぶけど、そう言う魔法でもあるとか? 女神の願い事なら、出来てしまいそうにも思うけど。
「この世界には、心身不可分のクラスと、心身分離可能なクラスが存在する。住民のほとんどは心身不可分なクラスに属し、私達や女神ってのは心身分離可能なクラスに属する。クラスという言葉に馴染みが無ければ、クラスは種族という概念で考えても大きく違わない。心身分離可能なクラスに属するリンツーは、私が作り出したスライムに心を移動出来た。あなたも身体を取り替えられたのは、それが可能なクラス同士だったから」
僕とハコネが、そもそも入れ替え可能な種族? 僕の身体は人間って種族じゃ無かったっけ? いや、他の人達は、人間じゃ無くて人族だった。つまり、人間というのはこの世界での標準的な人類とは別の存在って事か。そして女神は心身の分離可能なクラスに含まれるってのは、植物に魂を移したハダノさんもそうだったから、納得出来る。
でもそれなら、ジョージBも心身分離可能なクラスという事になる。彼は自分はオリジナルの人間だと思ってる様だけど、彼も普通の人では無いという事になる。
「彼の解釈より、あなたの解釈に私は賛成です」
ジョージBが言っていた事と、僕の推論を伝えると、彼女の考えも僕と同じだった。リンによると、リンも自身をスキャナーで読み取ったという記憶があり、リンツーの記憶は大体スキャンした時のリンの記憶に一致していると言う。これは、僕とジョージBの関係と似てる。
だけどリンは、ジョージBの様に自分だけ本物とは思わず、どっちもスキャン時期が異なる似た存在と考えているそうだ。
人間をスキャンして作られた、心身分離可能なクラスである僕ら。だからと言って、僕らが人工物と言うわけでは無く、この世界においてそう言うタイプの生命も居る、という風に考えるそうだ。あくまでも生命であるから、繁殖も可能。僕の身体に由来する子孫が何人もこの世界に居て、なぜか異世界の魂をその身に宿してしまうけど、これも僕らのクラスに由来すると考えるそうだ。僕らのクラスは、子の身体は作り出せるけど、子の魂は異世界から調達する仕組みじゃ無いかって。そして子供達も、心身分離可能なクラスという可能性もある。
「そしてこの世界の事も覚えがある。長尾凛はHistoria Civilization向けのマップデータを作っていた。それが、東西南北が各5倍になった日本。つまり、この世界の原型」
それ、リン、じゃなくて、長尾凛が作ったの!? この世界の創造主は、実は長尾凛だった!?
「長尾凛が完成させたマップデータがこの世界だとして、私はマップデータが未完成の状態までしか記憶していない。例えば、私は高さを5倍にするのを忘れていたけど、この世界の高さはちゃんと5倍になっている。また、この大陸の外に何があるか、私は記憶していない。それが私もある時点でスキャンされたデータから作られたと考える理由。あと、美咲ちゃんも」
「も?」
突然自分の方に振られ、みさきちが少したじろぐ。
「私達と同じ、そういうクラスだって事」
「そんな事無いって!」
僕はこの世界の住人だけど、自分は異なると思っていたみさきちに、納得させられるだけの証拠があるのだろうか?
「明確な証拠がある。美咲ちゃん、サクラさんと一緒に封印されて、60年経ったよね。あの封印って、心身分離可能なクラスにしか、効果が無いの。美咲ちゃんが普通の人なら、もう80歳近いお婆ちゃんになってないとならないの。お婆ちゃんに成らずに済んだ事を喜ぼう。そういう身体で、この世界に来られた事を喜ぼうよ」
「そう…… そうね。お得って事だよね?」
この子、上手い。みさきちへの人外宣告を素晴らしい事に置き換えてしまった。みさきちも完全に納得した訳では無い様だけど、受け入れようとしてる様だ。僕と2人の時にこんな事実を突きつけられたら、混乱するみさきちにどう対処して良いか分からなかったけど、さすがはみさきちを良く分かってる友達。
「ところで、この世界が長尾凛の造作物に由来するっていう、証拠って無いのかな? 他の誰かが作った物って可能性もあるよね」
「箱根の地下に某アニメのアレを作ったんだけど、見つけた?」
「あった、あった! それが発端で、色んな事が起きたよ。あれ、長尾凛さんの仕業?」
うなずくリン。
他に付け足した物を聞くと、埼玉にある地下放水路、富山の黒四ダム、本州と四国を繋ぐ3つの橋。リンの記憶以降に更に作られた物もあるかも知れない。
「埼玉は、美咲ちゃんの場所から近いから、行ってみたら?」
「探しに行ってみるわ。箱根のみたいに、貴重な資源が一緒に出てくるかも知れないし」
あの空間ももっと調べた方が良いかも。4人が見に行ったけど、何か見付かるかな。明日は様子を見に行ってみよう。
「ところで、サクラさん、いや、丈二さんが、Geoさん?」
「ん? それ、ゲームする時の僕のアカウント名だけど、何故それを?」
色々なオンラインゲームで遊ぶ際の、アカウント名。丈二をジョージと書き、Georgeと書いたのをきっかけに、Geoと名乗る様になってる。
「私は、オンラインであなたと会ってる。きっとあなたはまだ私に会う前だけど、私のお兄ちゃん、長尾孝が連れてきたゲーム仲間が、あなた」
長尾ってまさか、兄妹か! そんな所で繋がりがあったとは。いや、それってもしかして……
「きっと、どこかにお兄ちゃんも居るはず。どこかで会うかも知れないから、それらしい人が居たら教えて下さい」
「そうか、長尾も居るかも知れないのか。妹がスライム帝国を作ってるなら、あいつの事だからケモナー王国作ってるかも」
「ケモナーじゃなく、ケモミミ王国ね。ケモミミとケモナーを混同しない様に」
おっと、まさに長尾にされる通りの突っ込み。これは本当に、長尾兄妹なんだな。
僕と長尾、みさきちと凛、4人の本体は、ゲームを一緒にプレイしたらしい。巨大なマップのゲームで遊ぶ際、プレーヤー数の不足をAIで補うため、プレーヤーを模したAIを参加させた。リンはその様な構成でプレイした事があるそうで、最初のAIがいまいち手応えが無かったので、ゲームに慣れた自分たちを再スキャンする予定だったと。
スキャンは前夜までの記憶しか読み取れないそうで、スキャンされた記憶にはそのスキャン行為その物は記憶されていない。だからリンも、1回目のスキャンの事は覚えていても、2回目のは記憶に無い。つまりリンは、2回目のスキャンで読み取った記憶を持つのだろう。
僕やみさきち、そしてリンツーとガイウス達4人は、1回目のスキャンで読み取られた記憶を持つ。ジョージBとリンは2回目のスキャンで読み取られた記憶で出来ている。
「色々と納得が行ったけど、それでこれからどうする?」
「世界の事はともかく、ロボットに乗りに行きます」
「さすがリン、そこは譲らないのね」
みさきちの知る凛は、こういう子らしい。ロボット好き女子というのも、レアながら存在する。というか、兄の影響を受けすぎてしまったんじゃないか。ゲームの趣味まで一緒で、そのゲームを改変するMODの作成までする程はまり込むとか、妹の方が酷いオタク要素持ちだ。
「それに、気になる情報がある。大昔、東の魔王軍は、ケモミミの兵士が多かったって。その魔王の関係者に、お兄ちゃんが居る気がする」




