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8-20 奪還作戦 5人目の女神

 ここは箱根湯本の街外れの宿、観瀧亭(かんろうてい)。建物の外観は立派な洋館で、玄関にはシャンデリアなんかもある。

 僕がいるのは、その2階にある応接室。立派な装飾があるホールを使わず、敢えて地味な応接室を交渉場所に選んだ。ホールを選ばなかった理由は、窓の外にいるゴーラ。ホールは中庭に面していて、玄関前に居るゴーラが見えない。玄関前に立つゴーラを見える場所を探したら、応接室だったのだ。ゴーラが勝利を呼び込んだので、その戦力を交渉に最大限使うというアイデア。これぞ砲艦外交。

 交渉の席に着くのは、僕とジョージB。ハコネにはゴーラに乗っている。何かの際にゴーラが自律的に動く事は可能だけど、僕との意思疎通という点では、ハコネが乗っててくれる方が良い。


「まずは、1ヶ月の休戦だ」

「たった1ヶ月?」

「前にも言ったが、お前達が敵で居続ける方が、俺には好都合だからな」


 脅威となる外敵がいると、人は結束する。僕らも“破壊の堕女神”などと呼ばれて、連邦の結束の為に利用されている。その僕らが敵で無くなると、社会が混乱する? そんな事まで僕らが心配する必要があるんだろうか。

 とは言え、知り合いの人達は、そんな危険な存在じゃ無いと分かってくれてる。それだけで充分じゃないか。それでもし僕らや知り合いの人に危険が及ぶなら、僕らが振り払えば良い。仲間を守る為には破壊を厭わない。だったら“破壊の堕女神”でも良いじゃ無いか。


「仲間さえ返して貰えるなら、世界の敵って役、引き受けよう」

「なんだ、もっと嫌がるかと思ったら、そうでもないのな」

「分かり合う人だけ居れば良い。残りの世界も全てに好かれるには、世界は広すぎる」


 世界は広い。元の世界で考えても、同じ街に住む人でさえ、全てと知り合いになんて成れない。人が安定して関係を維持出来るのは、100から200人くらいだと言う。僕もこの世界で、その位の人と付き合えたら充分だ。

 それに、1ヶ月後なら戦力的な優位を保ったまま、また動き出せるって事だ。


 次の議題は、捕虜の交換。これが今回の交渉で要になる。

 捕虜については、基本的に全員返してしまって構わない。取引材料として以外に使うつもりが無いから、残しても面倒なだけだ。引き換えに1人でも多く女神達を取り返せれば良い。


「僕が出会った事がある女神達、全て」

「全てだと!?」


 僕は順に名前を挙げていく。まずオダワラさんにアタミさん、ミシマさんにゴテンバさん。他にはエドさんやサクラさん。他に神奈川の女神達を合わせて、18人にもなる。神奈川の女神は戦っただけとは言え、拳を交えたら友達って言うじゃ無い。向こうはそう思ってないだろうけど。


「エドとサクラは、俺の元には居ない。そいつらは魔王の手中にある。他の連中も、全員返す訳には行かんな」

「なら、返してくれた人数だけ、僕も捕虜を解放すると言ったら?」


 捕虜は何千人居るかな? 捕虜と1対1で交換したら、大陸全ての女神と交換しても足りそうだ。


「4人だ。空中砲台4機の士官と乗員、それと女神4人を交換だ」


 4人だったら、オダワラ、アタミ、ミシマ、ゴテンバとこの辺の女神は取り戻せる。いや、負け側の言い分をそのまま飲むのは、交渉としてどうなんだ?


「要塞の士官と兵士は見捨てると?」

「分かった。なら、5人だ! それで良いだろう?」


 結局それ以上は平行線で、誰を選ぶかハコネ達と相談する事にした。そんな所で、交渉初日は終了。




 観瀧亭の玄関前、大きな楠の木を背に僕の扉を設置して、ゴーラにそこを守らせる事にした。その場所からは観瀧亭に近付く者を見張る事が出来る。


「4人はすぐ決まるが、5人目が思いつかぬ」


 ハコネに聞いても、オダワラさん達4人以外にこれと言って助けたい女神は居ないらしい。

 その後、仙石原に居るアリサやマリ、マルレーネやスロに聞いたけど、誰も候補を挙げられない。ハダノ以外の女神との接点が、皆薄いのだ。


 そのまま宿に泊まる必要も無いので、僕の部屋に戻る。ハコネはゴーラの中で一夜を過ごすらしい。一晩語り明かすのだとか。

 ふと、意見を聞いてない人が居た事に気付く。そもそも、昨夜の状況を伝えるのも忘れてた。


「スライムとロボ? その組み合わせは、禍々しい者を召喚しそうね」


 タブレットの動画チャット機能でみさきちに繋ぐと、無事を喜ぶ言葉と連絡が無しへの文句が、8対2ブレンドで返って来た。そして顛末を話すと、“禍々しい者”と言われた人の話になった。元の世界での友達に、みさきちをオタク沼に引きずり込もうとした子が居るそうだ。

 それはそうと、もう1つの課題についても聞いてみると、予想外の答えが返ってきた。聞いてみて良かった。その案で行こう。




 交渉2日目に返して欲しい5人を指定し、それから5日後。5人の女神を移送するのに、そもそも本人も急に知らされて準備が居るとの事で、思ったより時間が掛かった。

 仙石原からも捕虜達が駅に到着し、駅の外に整列させられている。思ったより多いな。全部で2千人くらいだろうか。空中砲台に約200名ずつと、要塞に千数百名かな。


 捕虜を連れ帰る為、そして5人の女神を連れてくる為の、列車が駅に着く。


「ようやく来たか」


 列車から降りてくる5人の女神。元と同じ姿のよく見知った4人の女神達と、初めて会う(・・・・・)女神。


「この5人で間違いないな?」

「大丈夫、合ってる」


 最後の1人は初対面だけど、戦術ビューで確認した。女神が正体を隠さない時、偽物が成り代わるのは難しい。デコイで自分のレベルより高く見せる事は出来ず、戦術ビューで女神の振りをするには、それ以上の者で無いとならないから。


「では、また戦場で会おう」


 ジョージBはそう言い残すと、列車に乗り込む。

 今回の戦いと交渉、そしてその後の暇つぶしは、ジョージBの人となりをかなり知れた。こいつも、僕の性格のある一面を取り出した、バリエーションだ。他人であり自分でもある。自分の中の葛藤を、実態ある人間として取り出されたのが、僕とジョージB。


 駅を離れていく列車を見送ると、5人の女神に向き合う。


「久しぶりじゃな、オダワラ」

「姉さんを私が助けるつもりだったのに、逆になるとわね」


 オダワラさんはハコネが僕と一緒に封印されたと知り、ジョージBの元を脱出して封印を解きに行こうとしたけど、ジョージBに支配されている小田原に住む人々への攻撃を仄めかされて、思い留まったそうだ。


「でも作戦はうまく行ったので、これで良かったんです」


 アタミさんは、魔王に佐倉を攻撃させる事を計画したそうだ。実際にその計画によって魔王が動いたのか、それは「どうでしょうねぇ」だそうだ。大人しそうに見えて、しれっと陰謀を巡らせる人。でもありがとう。


「人が女神の元から離れて行く事を案じたあの頃、まさかここまで広くそれが進むとは思っていませんでした。私達は、これから何の為に生きていくのでしょうか」


 あの頃のミシマさんが見舞われた状況が、今ほとんどの女神達に現実となった。これからそれを変えていけるのだろうか。


「本当の魔族が出てきたというが、その魔族とも分かり合えるとは思わないか? 試してみようじゃ無いか」


 ゴテンバさんは人族とフ族、他種族を繋ごうとした。思ったのとは違う形でそれは成し遂げられたが、今度は魔王軍とも繋ごうと。無理と思わなければ、無理じゃ無いかも。

を伴って旧ハコネ男爵の屋敷に入る。


 そして、最後の1人。


「初めまして。シモダです。どうして私が選ばれたんでしょう?」

「理由は、屋敷で説明します。さあ、行きましょう」


 新しい時代を、ここから始めよう。

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