8-19 奪還作戦 地を這うフェニックス
「やったじゃ無いか!」
「撃墜!? 機関は残っているの?」
見張りとしてハコネとゴーラを仙石原に残し、僕は秦野に飛んだ。アリサ、マリ、スロを連れて来る為だ。アリサとマリには空中砲台を調べて貰い、少しでもこの戦果を役立てる。スロはマルレーネを補佐して、僕らが交渉の為に離れている間の、管理を任せたい。
3人を連れて、僕の部屋を通って仙石原にあるハコネの扉へ。スロはこの空間を初めて見るので、それについてもとても興味がある様だけど、それについては時間が出来てからにして貰いたい。
「その残骸から離れる事!」
「せめて私物は持ち出させて貰えないか?」
戻って来ると、兵士が空中砲台の残骸から何かを運び出そうとしていた。アリサとマリには早速の仕事だ。
帝国側に対して、空中砲台の構造物は持ち出し禁止を伝える。
「2人に空中砲台の管理を任せたい。構造物や大事な機器が持ち出されない様に見張ってて欲しい」
「色々調べても良いんですよね?」
「大事な物は渡さない。任せたまえ」
持ち出されたら取り分が減るって事で、2人は監視についてもやる気を見せてくれる。
墜落して自力移動出来ない空中砲台4機は、そのまま仙石原に置いて行く事としてある。そのままだから、持ち出しも破壊もしてはいけない。
「マルレーネとスロ、それ以外の管理をお願いするね」
「もし逆らう者が居たら?」
「マルレーネに決めて貰うと良いよ」
この時代の捕虜の扱い方について、僕らは知らない。だから丸ごとお任せにする。マルレーネは帝国側の事も知っているので、この案件については適任なはずだ。
捕虜交換については場所を変えて、湯本にある帝国軍の施設で交渉する事にした。上級の士官は湯本に連れて行くが、それ以外の士官は兵士と一緒に要塞地下の設備で待機。ある程度の秩序を保たせる為には、統率者も必要だろう。後はスロとマルレーネに任せて、出発だ。
移動手段は、要塞地下にある駅からの列車。
「これは創造主の時代には無かった物じゃな」
「お前達は、創造主の後追いばかりしているが、こうやって更に先に進む事が、我々の信念だ」
列車は全面金属むき出しの銀色で、フェニックスの姿が描かれてる。ちなみにこのフェニックス、空中砲台の外面にも同じ物が描かれていた。なぜフェニックスなのかと聞くと、ジョージBが何度でも蘇る事に因んで、紋章の様に扱われているそうだ。ただし使うのはジョージB直轄の軍関係のみ。通りで旅路では見かけなかった訳か。
列車は人が乗れる他に、貨物も運搬可能。ばら積み向けの貨車はゴーラが収まるサイズだったので、ゴーラにはそこに乗って貰う。一緒に行くのは僕らの安全のためでもあり、ゴーラの希望でもある。
僕らは客車で移動。客車とは言え、軍用で装飾も無く、窓も小さい。向かい合わせ4人席に、僕とハコネ、ジョージBと氏綱さん。通路を挟んだ隣の4人席には、ガイウスら4人が纏まって座る。
「このトンネル、見覚えがあるのじゃが」
「水力発電用のトンネルだ」
要塞の地下は新たに掘られた物だったけど、途中からは創造主の時代に作られた水力発電用の導水トンネルに繋がった。
「言っただろう? 創造主の先へ。創造主の遺物から、先にトンネルを延ばしたのだ」
導水用トンネルが、鉄道トンネルに改良してある。導水用トンネルは高低差があまりないので、鉄道にも使い回せたんだろう。サイズも地形は色々5倍なおかげで、鉄道向きだ。
そのまま列車が進むと、地上に出る。そこでは急傾斜を下るインクラインに乗り換え。ここは発電所があった場所だろう。
今回は貨車がゴーラだけなので、それぞれ徒歩で下る。川沿いまで降りると、次の列車へ。こちらの列車も、すぐ地下に入る。ここも導水路跡みたいだ。
「要塞地区は標高も3000mを越えて、とても寒い。だが、地下なら問題ない。誰のせいだか知らんが、この大陸は標高が高い土地が多すぎる。そんな場所の開発は、こうやるしか無いのだ」
60年に亘ってこの大陸で国を統治して来た彼は、自分がいかに苦労したかを語る。標高3000mは標高0mの場所より18度寒いため、冬場は凍り付く。おかげで、鉄道や車など近代的輸送手段が活用しづらい。冬用の装備の整えた軍用車両でやっとだ。
3000mを越えられないとなると、この大陸では移動がかなり制限される。なんせこの大陸は、高さ5倍にした日本列島。例えば甲府盆地から外に出るには、地表から行けば富士川沿い以外は3000m越えの箇所がある。笹子トンネルは峠を越えないからマシながら、標高3200m。残るルートはリニアのトンネルで、標高3000m付近の所に口を開ける。
結局彼らも飛ぶ事でそれを回避したのだ。それを撃墜したのが、ハダノさんとゴーラ。
「空中砲台が破れた事は痛いと言えば痛い。だが、 空中砲台が出来てもうこれ以上は不要と、開発を怠った我らは反省し、これから更に強くなる。脅威無くしては、成長は無いのだ」
軍備では脅威が成長を促すのは、その通りかもしれない。軍備開発競争の火蓋を切ってしまったのは、後で失敗だったとならなければ良いのだけど。
さらにトンネル2つとインクライン2つを抜けると、やっと一般向けの駅がある場所。ここから1区間は軍民共用の路線で、今は貨車が無いため、ゴーラには線路を歩いて貰う。
客車は
そして、ついに箱根湯本に到着。僕らが開拓した頃は鉄道が無かったけど、今は鉄道沿いに建物が並び、街らしくなっている。
列車を降りると、軍服を着た人の出迎えを受ける。もちろん、出迎えの対象は僕らでは無い。
「鉄道でお戻りになるとは、何事でしょうか?」
「話は後だ。この人数が収まる宿舎を手配する様に」
「かしこまりました」
出迎えの人が行くのかと思ったら、人を呼んでその人を走らせた。この人も、それなりの立場の人なんだろう。
「それで、こちらの方々は? お客様で?」
「サクラとハコネ。そのお供が4人。その名で、もう分かるな?」
僕らの名を聞き、一瞬引き気味の表情、そして喜びの表情。
「そうでしたか。勝って捕虜として連れ帰るとは、さすがでございます」
一瞬の間。そしてジョージBが口を開く。
「いや、我らは敗れたのだ。形の上では、我らは捕虜。これから我らの解放交渉、と言う訳だ」
「な!?」
絶句する出迎えの人。そこに追い打ちを掛ける様に、ゴーラがやって来る。
駅前には車寄せがあり、その先に道は左右に続く。出迎えの人、いやハコネ代官が呼んだ車に乗り、右方面へ進む。道には多くの宿や店が並ぶ。その道を進むと、昔僕らが建てた宿の前を通る。看板は変わっているけど、宿その物は誰かが運営している様だ。
「事情が事情ですので、街から離れた宿舎にご案内いたします」
少し緊張した様子の代官、そして乗っているのは僕とジョージB、そして氏綱さん。続く車にガイウス達、そして他の上級士官の車も続いている。車列の末尾に、ゴーラに乗ったハコネが続く。
「こちらで御座います」
車が止まったのは、街から南西に少し離れた宿だった。実際には宿で無く、軍が管理する上級士官向けの保養施設だそうだ。
ゴーラには正面玄関前に立って、怪しい者の来訪を監視して貰う。敵中にいるのだから、警戒は怠らない。
到着早々会談とはしなかった。徹夜明けなので一休みして、午後から交渉スタートだ。




