8-17 奪還作戦 酔いどれスライム
「機関部がやられました!」
「それは分かっている。だから落ちたんだろう? それで、スライムがどうしたって?」
「侵入したスライムが、積載エーテルを飲み込み、そして巨大化。機関部を破壊し、さらに船体を破壊中です」
スライムはどこから入った? 4人組が連れて来た? それとも飛行タイプとか居るのか?
それはともかく、僕らが挟まれている空間が、先程までより狭まってる。
「狭くなってるんだけど!」
「まずいな。船体の破壊で、支えられなくなったか」
先程までは30センチ弱あった天井と床の隙間が、身体の厚みくらいまで狭まってる。このまま破壊で支えられなくなって、崩壊する船体に押し潰されるのか? それはとても嫌なシナリオ。そして残された僅かな時間で、復活まで1ターンのロスは大きい。
「何とかここから脱出を……」
何か支え棒になる様な物があれば…… 扉でも出せば支えになるか、って、扉!
「ニートホイホイ!」
呼び出してみたら、出せる空間が無かったためか、床に倒れた状態で扉が現れる。しかし、扉を開けて中に入ろうにも、身体の厚み分も開ける事が出来ず、入れない。
「折角、これで脱出出来ると思ったのに……」
「それは、あの戦いで使っていた扉か。強力な魔法を連射していたが、扉に何かあるのか?」
「それは秘密だ」
その戦いを見られてたんだったか。仕掛けまでは知られて無い。この仕組みをこんな砲台に搭載されたら、今よりも厄介になる。
「お前のが手数の増幅、もう1人が威力増幅、そんな所なんだろう。もしそうなら、ここからの脱出にそいつを使わせろ」
「使わせろって、何をするつもり?」
「俺も脱出させるなら、使い方を教えてやる。どうせ仕組みまでは教えられない、とか言うんだろうが、それは構わん」
僕らが開発した物なのに、僕が気付かない使い道を考えた? 余計な事がバレるとまずいんだけどな。
「俺はここで倒れても、我が家ですぐ復活だが、お前は来年だろう? お前の方が得するのだ。協力してやると言うのだから、試させろ」
「仕組みを教えない。使うのは僕。それで良いなら」
「良いだろう。じゃあ、今から言う様にするんだ」
「本当にうまく行くとは…… 何でそんな事思いつくのさ」
「この砲台にしろ、お前達が思い付く様な仕組みは、俺も試している。お前に出来て、俺に出来ないはずが無い。元々の頭脳も経験も同じなのだからな」
何をやったかと言うと、扉に仕込んだ魔法連射の仕組みを使って、物理魔法の複数放射。ハコネと2人いれば、100tくらいありそうなお屋敷を運べる、僕らの物理魔法。それを数十回放射したら、イージス艦が持ち上がるレベルだ。飛ぶ前提のこの砲台は、それよりは軽く作られてるだろうから、いくらか持ち上がる。ただし持続性には問題がありそうだから、持ち上がった隙に扉を開ける。魔法を放射する扉を開けるかも心配だったけど、それは問題なかった。作用反作用の法則、仕事してない?
床面にあった扉を開けて部屋に入ると、なぜか玄関に落ちた。入ってきた扉は、玄関の天井に張り付いた状態。どうもこの扉は、外でどう置かれたかを反映して現れるみたいだ。
「この中に入って、どうすると言うんだ? 俺はあのまま天井を持ち上げて、その隙に抜け出す積もりだったんだが」
一緒に脱出させろと言うので、腕を引いて部屋に引っ張り込んだら、そんな文句を言ってる。
そうか。この扉に入っても、外に出たら同じあの隙間だったら、意味が無い。ハコネの空間との接続を知らなければ、同じ場所に戻るだけだって思うか。でもその空間の接続は、知られたくない。
「ここからの脱出方法は、見せられない。だから……これを身に付ける条件で、脱出させるよ」
取り出したのは、VRヘッドセット。ここでアイマスクでも取り出すのが最適だけど、生憎そんな物は無い。目隠しになれば何でも良いって事で、被ると外が見えないヘッドセットを選んだ。
「こんな異世界での、目隠しに使われるとはな。買った時は思いもしない」
「はい、とにかく、さっさと着ける」
ヘッドセットを着けたら、移動の感覚も分からなくさせるため、持ち上げてベランダに移動。そのままハコネの空間を進むと、床に張り付いた扉がある。ハコネの扉も変な場所に? あの4人、どこから入って来たんだったっけ?
そろっと開けると、さっきまで居た空中砲台らしき場所が見える。床までは距離があるから、これなら降りても良いだろう。
「はい、外してOK」
「どこに連れて来られたんだか…… なんだ、艦内じゃ無いか」
「上様! どうやって! ともかく、ご無事で何より!」
外したヘッドセットを兵士に渡そうとしたので、横取りしてハコネの扉の向こうに投げ込む。あげるとは言ってないからね。
「状況は?」
「墜落の原因になったスライムが、壁を溶かして穴を開け、外に出て行きました」
横で報告を聞くと、エーテルを飲み干したスライムは2m程度に巨大化して、次は壁を溶かしながら移動。今は外に出て行ったそうだ。
「あのスライム、大人しそうだったんだけどな。何でそんな事してるんだろう?」
「そんな事は知らん。確かに、こちらから手を出さない限り、何もして来ないと聞いている。今回ばかりは、様子が違う様だが」
そしてスライムを駆除しようとしたが、全く攻撃を受け付けない。ただし反撃もして来なかったそうで、スライムによる直接の犠牲は出てない。
「兵士の怪我については、マルレーネ様が治療にご協力下さいました」
「そうか。あいつはそう言う奴だ。困れば誰にも手を貸す」
さて、僕はハコネを探しに行かないと。その前に、4人がここに居るはず。墜落で2人やられたけど、もう復活して4人に戻ってる。
戦略ビューで見ると、少し離れた所に4つの青い点があり、その先に1つ青い点。そこへ向かおう。
「全く。1番強いはずのサクラがやられてるとか、何事かと思ったぞ」
「いやいや、あのハーンがあそこまで強くなっているとは。我らもさらに鍛えねば」
空中砲台の残骸を出て、4人に合流。真っ暗な雪上で4人は焚き火を囲んでた。焚き火に使う薪とか、何も無い雪原のどこから持って来たのか。それともガイウスのストレージには、そんな野営セットも入ってるんだろうか。何だかお気楽な奴らだけど、今回は救われた場面もあった様な、無かった様な。
それはともかく、次はハコネだ。
「ハコネがあっちに居るはず。行こう」
「そっちには、巨大スライムが向かった。アレも倒すのか?」
スライムがハコネの方に? 偶然そっちへ向かったのか、それとも理由があるのか。
「ん? こいつは、アレが千切れた欠片か?」
気付いたルイが指さしたのは、普通サイズのスライム。闇の中で光ってるけど、何を言いたいのか分からない。
「急いでるから、また後で。ハコネ探しに行かないと」
「いや、待った。これ、字を書いてるんじゃ無いか?」
スライムはレーザービームの様な魔法(?)で、余ってる薪に焦げ目を付けて行く。確かに焦げ目は、文章の様だ。オットーがその文を読む。
「なになに? あの巨大化したスライムは、エーテルに酔って暴走している。主の命令も忘れて、何かに向かっている。あれ以上エーテルを取り込むと、手が着けられなくなる。追いかけて止めて欲しい、との事だ」
「止める方法が分からないんだけど、ハコネも同じ方向だから、何にせよ行くよ」
僕ら5人は雪に足を取られつつ歩き、スライムは雪上を転がる。暗い雪原を、戦略ビューを頼りにして、ハコネが居る方へ。戦略ビューでハコネの青い点と、正体不明の黄色い点が重なってるけど、これが巨大スライムかな?
「暗くて良く見えんが、こういう時は、ライト!」
「何だこれは……」




