8-16 奪還作戦 世界の終わりを見通す2人
重力を感じなくなる。多分、落ちてる。それが数秒続いて、今度は下からの突き上げる衝撃。
「何をやった!」
「いや、これは僕じゃ無い」
僕がジョージBを押さえ込んだ姿勢だったのが、衝撃で飛ばされて僅かに位置が離れた。衝撃で倒れると同時に天井と床が迫り、その間に挟まれた状態になった。ギリギリで身体の厚み程度ある天井と床の隙間に、2人とも生き延びている。
落ちる感じに続く事と言えば、地面への衝突か。だったら今の状況は、墜落して機体が変形、潰れた機体の中で天井と壁に挟まれてる状態か。
「墜落したのかな」
「この砲台を落とすなど、どこのどいつだ!」
身動きが取れず、姿勢も変えられないから見回す事は出来ないけど、戦略ビューで見るとマルレーネの点は健在、4人組は2つ足りないけど部屋で復活してるだろう。敵兵にも犠牲者がいそうだ。
「上様!」
隙間から叫ぶ声が聞こえる。反響して聞きづらいけど、ジョージBを呼んでいるんだろう。
「身動きは取れんが、俺は無事だ。負傷者の手当を急げ!」
「上様は?」
「後で良い。怪我人の手当、俺以外にも動けぬ者が居るはず。捜索を急げ」
今の指示を伝達する声が聞こえる。自分が身動き出来ない状態で、他の誰かを助ける事を優先せよとは、人の上に立つだけの度量は備えたらしい。
「さて、こうなれば休戦だ。今ので多くの者を失っただろう。ここに居た者達を失う事は、数国失う程の損失だ。それにこの様に撃墜されたとなれば、これの運用も考え直さねばな」
そんな弱音を吐くとはね。いや、戦略ビューを見ると、近くに兵士が居ない。聞かれる心配の無い、上に立つ者の立場を離れた言葉か。
「そして折角の機会だ。話しておかねばならない事がある。俺には成さねばならない事がある。全ての者に降りかかる、最期についてだ」
全ての者に降りかかる最期。恐らくそれは、僕が抱く懸念と同じ物。
「この世界、おかしな事が多いだろう。何だ、ターンとは。スキルだとか、レベルだとか」
「まるで、ゲーム」
「そうだ。あまりにこの世界は、ゲーム的なんだ」
それは最初から思ってた。どこかの異世界だから、そう言う世界もあっても良いんじゃ無いか。最初はそんな風に思ってた。しかし、そんな物があって良いのか?
何者かを倒せば、レベルが上がる。スキルなんて物が手に入り、突然技能を習得する。その知識はどこからやって来た? 突然ルイは槍を自在に使える様になり、ヨリトモや盾を使える様になった。誰にも習わずに。
「そして、俺と姿が同じ奴が5人。そのうち1人は、魔王なんてやってやがる。お前も同じ姿だったと言ったが、それなら俺と同じ姿が6人。訳が分からないが、思い当たる物がある。お前達が誰なのか」
「聞こう。僕らは何者?」
「お前達は、俺の記憶から作り出された、コピーに当たる物だ」
僕の予想と違う答えだ。僕の予想では、同じ記憶を持って想像された7人。しかし彼は、自分だけはオリジナルだという。そんな都合の良い事を言う理由があるのか?
「俺がオリジナルだという理由は、ある。俺はお前達が作り出された時の事を覚えている。あれは、俺が元の世界に居た時のことだ」
そうして説明を始めるジョージB。
彼の記憶では、とあるゲームをするに当たり、プレーヤーの記憶を持ったAIを作成した。リバースリアリティ用のスキャナーを借りてきて、記憶を読み取り、AIを作成したそうだ。
リバースリアリティというのは、仮想的な世界を人間に見せるバーチャルリアリティとは別方向。脳内にある経験が見せる世界を、スキャナーを用いて、仮想的な世界として写し取る。思想統制をしようとした独裁国家で開発され、月日を経てカウンセリング用の装置として発展し、娯楽にも使える所まで来た。そんな装置を使って、思考までクローンの様なAIを作成して、ゲーム内の競争相手として戦う。そんな事が可能だ。
「お前には、その読み取られた記憶が無いだろう?」
「確かに無い。でも、そうだ! 今度スキャンしようと言ってた事は覚えてる」
「だろうな。スキャンで読み取れるのは、前夜まで」
記憶は寝てる間に作られるという。最後の睡眠で作られた記憶までが、スキャンして取り込まれる。
「スキャンで読み取られた記憶には、スキャンされた事は記憶されていない。スキャンされた記憶を持つ俺が、オリジナルだと考える理由だ」
僕はコピーで、彼がオリジナル。7人も同じ人間がいれば、そりゃおかしいと思うけど、コピーとか偽物とか言われたくない。
「まあお前は偽物だ、などと言うつもりは無い。俺も2度目のスキャンで作られた偽物だった可能性もある。だとしてもだ。偽物だとかオリジナルだとか、そんな事はどうでも良く、俺たちはここに居る。この世界に居る。そして、俺はこの世界に終わりが訪れると思っている。あと6ターン後だ」
ここ暫く考えていた、最大の問題。この世界の終わり。
「それは僕にも見えてる。900分の894」
「何? 見えるのか! 俺だけがおかしいのではと疑った物だが、これで間違いない。そして、お前に無く俺にある記憶は、その900という数字の意味を知っている。お前の記憶ならこれから教えて貰う予定だったゲーム、Historia Civilizationという物だ。そのゲームで最終ターンは、900だ」
ターン制のゲームで900ターンとは、長くて途中で投げ出したくなるレベルの設定。しかしそういう馬鹿長いゲームが好きな人種も、世の中に居る。思い当たるのが、僕の友人に1人。
「ルールも同じと考えて良い。敵を倒せばレベルが上がり、1つスキルを覚えられる。世界の技術レベルが上がれば、1ターンの年数は短くなる。そして、最終ターンまでに成すべき事、それは制覇」
「それを成し遂げても、世界が終わるって事は?」
制覇しました。勝者が決まりました。おしまい。それでは、結局この世界はどうなる?
「いや、制覇は1つの勝利条件。他の条件もある。そして、1つの勝利条件の勝者は、終了を100ターン延長して、他の勝利条件を目指す事が出来る」
7つの勝利条件。1回のプレイで全てを成し遂げても良い。1つ成し遂げる度に、タイムリミットは100ターン延びる。
「俺の願いは、ひとまず100ターンの延長。その為の制覇だ。あの魔王さえ生まれなければ、とっくに成し遂げていた物を……」
制覇と言っても、全ての勢力を倒すという条件では無い。世界の半分を治めれば良い。それでもとても大変な条件だけど。
「九州は手を出せんが、それ以外の西は平らげた。東北南部まで平らげれば、半分を治められる。そこを、あの魔王め」
「なら、この話をすれば良いじゃない」
「したさ。奴には世界の終わりが見えていない。奴は聞き入れず、戦った。倒しても復活しては、また戦う。時間の無駄だ」
もう魔王の支配地域は諦めたそうだ。しかし支配地域を奪われては、制覇勝利が遠のく。そこで、多摩川を境にそこで防衛線を張る作戦を進めていると。防衛線を守るだけなら、前線を押し上げていくよりは人数を減らせて、その余裕分で他の地域、北関東や東北を平定したいと。
「僕もそれに協力すべきか……」
「いや、余計な事はするな。お前は恐ろしい敵役として、邪魔にならない所で暴れていろ」
酷い言われ様だけど、勢力を纏めるのに外に明確な敵を置くのは、常套手段。支持率落ちたら係争中の島に行ったりとかさ。
でも、オダワラさん達とか、この箱根とか、返して貰わないといけない人と物もある。
「囚われの女神と箱根さえ返して貰えれば」
「大変です! スライムが!」
僕らの手打ち寸前のやり取りは、兵士の叫びで打ち切りになった。スライム、何やった?




