8-14 奪還作戦 各個撃破
マルレーネが知ってる情報では、この空中砲台は涙滴型の飛行船で、外周部分だけに通路が備わっている。僕らは、前方下部にある司令官室から、中央下部にある砲台へ戻る事になる。
「ハコネはどこに?」
「砲台だった場所に」
司令官室を出て、階段を下りながら戦略ビューを見る。体当たりして来たと思った他の空中砲台から、兵士達が乗り込んできてる様子が分かる。兵士達は砲台に近い場所から侵入し、砲台方向に向かっている。
「他の艦から乗り込んで来てる。砲台の方に向かってそうだ」
「空中砲台同士なら、側面からしか乗り込めないわ。中央側面から侵入すれば、司令官室に向かうとしても、中央下部、つまり砲台を通る事になるわね」
右舷から侵入した敵兵の場所は、僕らの場所から砲台よりも近い。このままだと、砲台でハコネと敵兵がぶつかるのか。ハコネも気付いて、準備してると良いのだけど。
来た道を戻るべく、銀色の壁に囲まれた通路を進むと、来た時に閉められてしまったシャッターに行き当たる。
「これは…… 跳ね返されるわね」
壁と同様に、シャッターもヘイヤスタが使われていて、魔法による攻撃は物理魔法含めて跳ね返されてしまう。攻め入る時に使った杭の様な、同じくらい頑丈な物で破壊する事は出来そうだけど、僕が素手で変形させるには時間が掛かりそうだ。
「ここ以外の通路は?」
「とっても遠回り」
やっぱり、無理矢理開けるしか無いらしい。
―――
敵味方とは言え、地上の民。敵兵の亡骸を部屋の隅に寄せて、並べ終えた。戦士達に、良き来世のあらん事を。
さて、サクラの方はどうじゃろうか。戦略ビューで緑の点と共に動き出しておるが着いたが、赤い点が増えておった。サクラが倒さずに進んだ敵兵の光点もあるが、1つか2つしか点が無かった場所に多数の赤い点が見える。その連中はこっちに向かってるようじゃ。戦闘準備をせねばなるまい。
アリサ作成の人型機は、床に開いた穴から上半身を出し、両肘を床について落ちない様にしてある。肘から先しか自由にならず、一方的に攻撃される事になろう。
「サモンゲート!」
機体の外に出て、扉を呼び出す。すると扉は、ゆっくりと浮き上がって天井に激突。そのまま角度を変えて、天井に張り付く。それは、屋根裏部屋への扉のごとく。
「どういう事じゃ?」
何が起きたのか分からぬが、飛んで扉を引けば同じ様に開く。中に入ると、我が空間の床から顔を出す事になった。我が空間まで横倒しになれば、色々面倒な事じゃった。しかし天井に張り付いた形で扉を呼べばこの様には入れるとは、面白い。サクラの扉で同じ事をすれば、どうなるんじゃろう? あやつの扉は、玄関に固定されておるし。
まあ、そんな事はまたいつか試せば良い。今は迫る敵への備えじゃ。
杭より少し長い槍、これも魔法をはじく素材で出来ておるが、先まで鋭利に研ぎ澄まされた一品。アリサ達が本来の武装として準備していた槍。杭でも戦えるが、壁にぶつけた途端大爆発という危険もある。そんな指摘がサクラから無ければ、杭で戦うところじゃった。
槍を機体の手付近に置き、再び機体に乗り込む。そして右腕を動かして槍を掴み、振り回して見せる。うっかり肘から下も動かして、砲台から落ちてはならぬ。慎重に感覚を掴み、肘先の動きのみで届く間合いを確かめる。
2人掛かりなら、落ちない様にサクラが浮かせて、腕も自由になったんじゃがな。サクラにはさっさと戻ってきて、この不便な戦いを楽にして欲しいものじゃ。
さて、赤い点が近くに来ておる。気を引き締めておかねば。そろそろじゃな。
「あっ!」
このギリギリになって、気付いた。この機体、サクラが進んだ方向から来る、サクラを追う敵と戦う積もりで待ち構えていた。じゃが、今ここに向かう敵が来る方向は?
ガツンッ!
向きが逆な事に気付いた直後、後ろからの衝撃で機体が揺れた。後ろからの敵襲。
急ぎ向きを変えねば! 肘の動きで回転しようとするが、少しずつしか向きを変えられない。その間にも攻撃はやむ事無く続くが、機体の頑丈さで何ともないのはさすがじゃな。
「無駄じゃ! そんな攻撃は、効かぬ!」
4分の1回った所で、攻撃が変わる。回転するために動かす肘が触れる床に、集中的な攻撃。それでも機体が壊れぬのはさすがじゃが、機体に当たった弾丸が床に転がり、少し滑るのが気になる。
何とか方向を変えようとしている間に、敵兵は槍の届かぬ距離で散開し、円形に配置された。どちらを向いても敵が居るので、回る意味が無いではないか。それでも新手が来る方向を正面にしようと、半回転まで進めたが……
「ん?」
目の前に落ちている物に気付く。それは背中にあったはずの、杭を収めた筒が転がっておる。背中側への攻撃が続いて、筒の固定が外れてしまったんじゃろうか。そして杭を2人掛かりで引っ張り、槍の届かない範囲に運び出している敵兵。
「こら、それは危険じゃ! 触るでない! そなたら、吹き飛びたいのか!」
「これがどんな物なのかは、地上からの知らせで分かっている」
銃声が止み、しっかり声が聞こえる。
「地上の要塞を打ち砕き、この砲台に穴を開ける程の武器。ならば、その鎧を撃つ武器にもなるという事だ」
目の前に現れたのは、ジョージB。左手に大きな盾も構え、右手には背丈よりも長い杭長い杭を握る。
「ここに散れ、破壊の堕女神よ!」
杭を持つジョージBが突進、機体にその先が突き刺さる。
―――
シャッターを無理矢理開けて、銃声がする砲台区画を目指す。
「どんな攻撃があるか分からないから、僕が先に行く。様子を見て着いて来て」
「そうさせて貰うわ」
飛行で一気に進むと、銃声が止む。ハコネが倒した? いや、戦略ビューを見ると、赤い点は多数あり、ハコネの点が無い!?
そして砲台に飛び込むと、そこにあるはずの機体が無い!
「これは良いタイミングだ。こういうのを、各個撃破と言うのだ」
「ジョージB…… ハコネを倒したって?」
機体が無く、穴が開いてるのみ。何が起きた? 関節を破壊されて機体を支えられず落ちた?
「すぐ後を追わせてやるさ」
戦術ビューを見る。
ジョージ
Lv:150
種族:神族
職業:文明守護者
権限:都市勢力、プレイアブル勢力
みさきちが神族扱いになったから、彼も神族になった可能性は考えていた。
その上、あの時のエドさんと同じレベルか。エドさんを倒すなど色々あった結果、ここまでなったのだろう。このレベル差、勝ち目があるかだろうか。
扉を呼び出して連射? エドさんのレベルだとしたら、それでも倒せないだろう。
突撃して穴から飛び降りて撤退するか? いや、生身で飛び出せば、他の空中砲台に狙われるかも知れない。
それにマルレーネはどうなる? 息子が再び保護するのかも知れないけど、彼よりもジョージBが先に発見したら、無事で居られるか?
もし倒されてしまっても、また来年ハコネと再チャレンジか。そう考えると……大した事じゃ無いな。当たって砕けても、良いじゃ無い。
「勝てば儲けもの、負けて元々」
「覚悟を決めたか。2度敗れた後、2度勝った。ここで勝ち、俺の方が強い事を示す」
腕に杭を持ったジョージBが、先に仕掛ける。踏み出すと一気に近付き、杭を振り抜く。後ろへ飛び、ギリギリで避ける。
そこへ投げられた杭が迫る。一瞬の判断で避ける事が出来たが、次の瞬間、後ろからの爆風に飛ばされる。
「しまった!」
そのままジョージBに首を掴まれ、ヘッドロック状態。そのまま引き倒され、床に這いつくばる。動けない!




