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8-13 奪還作戦 アボルダージュ

 ハコネとこれからの行動を打ち合わせ。状況が始まれば、そんな時間も無くなるだろうから。


「アリサ達を信じてみるのじゃな」


 作戦を確認して、決めた位置に進む。


「僕らも実験したんだから、うまく行く。問題はその後だ」


 破壊したトーチカが建つ雪原で、円状に並ぶトーチカの中央に立つ。あたりは暗くなってしまい、機体その物は見る事が出来ない。その方向の空に見えるチカチカと点滅する光だけが、そこに何かが存在する事を示している。

 戦略ビューで見えるのは、4つの塊になって進む、多数の赤い点。戦略ビューは空中砲台その物を表示しているのでは無く、そこに乗っている人々を表示しているんだろう。おそらくは、赤い点が敵の兵士という事。そして緑の点1つが混ざっている。その他には動きが小さい赤い点が分散しているけど、これはトーチカから地下に脱出した兵士達だろう。

 赤い点の塊は、進行方向に長い楕円。空中砲台はそう言う形か。それら4つの塊は、全体で菱形を形成していて、緑の点は先頭の塊に含まれている。


 さらに近くに迫ると、雪明かりでうっすらと見える白い楕円の物体。まるで古い映像で見た、飛行船の様なフォルム。見上げる高さは、普段見かけた飛行機より低く、超高層ビルがあればぶつかるんじゃないかという程度。

 ハダノさんは見事に落とす事が出来たけど、同じ手は真似出来そうに無い。それと、マルレーネが乗っている可能性がある。まずは緑の点がマルレーネなのか確認し、当たりだったら保護。そして空中砲台の無力化という流れで行きたい。


 ゆったり速度で進み、僕らの頭上を過ぎようとする機体をじっと見つめ、その瞬間を待つ。そしてついに、機体の1点から光球が向かって来る!


「耐えて見せよ!」


 空中砲台からの第1撃は、強烈な光と爆音。僕らの機体を残して周囲の雪が溶けて、雪の下に埋もれていた地面も抉られている。地面の抉られ具合から推定する威力は、ハコネの扉に備え付けたユクシでの一撃と同程度。この場所で何人かの女神達を倒した威力となれば、前回僕らが倒されたのも致し方ない。


「これなら行ける!」

「同じ手が2度通じると思うでない!」


 余裕ある観察が出来るくらいに、アリサ達の作ったこの機体は丈夫だった。魔法を反射して、その威力は周囲の地面に受け流したんだろう。この様な純粋な魔法攻撃であれば、耐えられるって事だ。

 実は、このくらいの威力に耐える事は試験済み。秦野で見せて貰った時、ハコネにさっきと同じくらいの一撃を加えて、損傷が無い事を確認してある。ハコネの言葉はその通りだけど、それ、アリサ達のおかげだから。


 そのまま頭上を過ぎ掛けている先頭1機が反転を始めたのと同時に、2人掛かり全力の物理魔法で、機体は空へ飛び上がる。さっきの魔法が発せられた瞬間に見えた空中砲台の1点。そこに砲台があると見て、突撃する。機体の両手で掲げた杭が、砲台付近と思われる場所に突き刺さる。砲手がいなければ、砲台も使えまい。

 一呼吸間って杭を引き抜き、また思いっきりの物理魔法で、開いた穴から壁を引き裂く。僕らの機体が入り込めるだけの穴を開けて、機体の上半身を押し込む。このやり方も、2人掛かりの魔法なら可能だって実験済み。秦野で捕まった空中砲台と、装甲自体は大差ない様で良かった。


「ハコネ、ここは任せる」

「朗報を持っておるぞ」


 ハコネを機体に残し、僕だけが砲台の中に出る。ここからは言うなれば白兵戦。そういう血なまぐさい事は好きで無いけど、交戦規定は「やられたらやり返す」とシンプルに考える事にして、僕らに攻撃してきたこの砲台は、倒さなくてはならない相手。少なくとも砲手と司令官には、その攻めを受ける責任がある。

 そんな覚悟を決めても、周囲の様子は惨たらしい。戦死者達に良き来世があらん事を。


 ゲームの同シチュエーションなら、艦内をくまなく回ってアイテム拾いなどをするんだろうけど、普通やらないよね。そしてゲームで無いこの艦内は、無駄に全体を回る必要は無く、僕は前方と思われる方に進む。そこに緑の点があるからだ。

 すると突然、艦内が傾斜する。僕が進む通路が、進む先が高くなる様に傾く。何かの仕掛けがあるのでは無く、空中砲台全体が傾いて居るんだろう。その傾斜で出来た坂を駆け下る様に、兵士達が殺到する。なるほど、上から敵兵が、下にいる僕を攻撃するポジションになるのか。うまく考えられてるね。

 だがしかし、そんな手は通じない。今の僕は物理魔法で、通路の天井付近を飛行している状態。敵兵が発砲して来るも、全く効かない。あちらさんも艦内では、威力をセーブしているのかもしれない。

 そんな兵士達が居る通路は、兵士の頭と天井の間にそれなりのスペースがある。敵兵が壁になろうとも、僕はその上を飛行して行けるのだから、障害にならない。兵士達を飛び越えた先では、通路のシャッターを閉められそうになったけど、走るのとは速度が違う。閉まりきる前に滑り込めた。


 城の様な大きさの空中砲台と言え、飛んでしまえば大した広さで無い。緑の点まであと少しだ。通路は階段にさしかかり、階段の上から発砲してくる兵士。当たると同時に爆発する何かを浴びつつ、階段を上ろうとした瞬間、大きな衝撃音と共に艦が大きく揺れて、兵士達が階段を転がり落ちる。今のは僕じゃ無いよ。

 転がり落ちる兵士達を飛び越え、扉の前に立つ。今の揺れは、何か大きな物がぶつかった時の様な感じだった。ハコネの方も何かあったんだろうか?

 戦略ビューを確認すると、緑の点は間違いなくこのすぐ先に居る。


 さて、扉を前に取るべき行動は? 特殊部隊の様にぶちやぶる? 話は聞かせて貰ったって開ける?

 コンコン?

 なんとなく癖で。もっと変な行動を取った。突入前にノックをするとか。


「どうぞ」


 まさかの返答があったので、音も無く片扉を開ける。中に居たのは、中年の男と、中年の女性。マルレーネじゃ無い? マルレーネ、80歳くらいだったはずだよね?


「サクラ、おかえり。よく来たね」


 と思ったら、やっぱりマルレーネみたいだ。よく来たねって、人質になってたんじゃないの?


「さて、迎えが来てしまったから、私はこの船を降りるよ」

「はいそうですかと、行かせるとでも?」

「お迎えが来たら見送るのは、息子の役目でしょう?」


 息子って事は、この男性がスロのお父さん。だったら、あまり手荒な事はせずに、この状況を終わらせたい。


「足柄氏綱さん、あなたの息子さんが、マルレーネお祖母さんを待っています。抵抗せずこのまま帰して下さい」

「私に勝ち目が無い状況である事は、理解している。だが、話は聞いていけ」


 そう言うと、立派なソファーに向かい、こっちに来いと手招きする。


「母との今生の別れだ。時間は取らせない」


 そう言われると弱いけど、事態が急に動いても何とか出来るはずだ。ハコネの方を確認して何事も無ければ良いかと、戦略ビューを確認したら、赤い点の塊が、この艦の側面に!


「他の空中砲台が体当たりしてきてる!? そのための時間稼ぎ?」


 氏綱がちらっと何かを見る仕草をしたかと思えば、視線をこちらに戻す。


「ああ、そう言う事か」


 そう言って、ソファーから立ち上がる。


「これは時間を取らせては、私が時間稼ぎをしたと見られるな。それは本意では無い。すまないが、母をよろしく頼む」


 いや、今生の別れなんて儀式をやると、本当に死ぬフラグだから、どっちも長生きフラグが立ったんじゃ無いかな?


「さあ、行こう。ハコネが待ってる」


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