8-11 奪還作戦 戦地に行くまでも奇襲です
「アリサテヘダ様、マリテヘダ様、至急議事堂にお越し下さい!」
街に戻った僕らを待っていたのは、連邦から秦野に対する、ハコネと僕を引き渡す様にという要求だった。そのためにマルレーネが人質に取られた。
呼び出しに2人は部屋に戻らず議事堂へ向かうが、僕らは一旦、宛がわれた部屋に戻る事にする。
「僕らが居る事、情報が漏れてた?」
「元老院で討議されたので、そのうち情報が漏れるだろうとは思っていました。しかし、あまりに早い。使者の移動時間を考えたら、ありえません」
あるいは、何らかの通信手段が確立されていて、この街から奴らのところにすぐに連絡が行ったのだろうか?
スロは祖母の危機にも冷静に振る舞っている。マルレーネが危険な所に自ら飛び込むのは珍しく無いため、慣れているそうだ。
「捕らわれている場所はどこじゃ?」
「おそらく、小田原です」
場所が明確に分かる理由は、わざわざその様に伝えてきたからだ。おそらくというのは、向こうが言う事を信じるならば、という事。
どう対応するか、アリサやマリが戻ってからになるが、おそらくは引き渡すという結論だろう。国家の重要人物と、単なる来客。しかし単なる来客とは言え、それなりの力があるだけに、引き渡す事が出来るかどうかという議論で紛糾するだろうか。時間が掛かれば掛かる程、マルレーネの身が危険になる。
「取り返しに向かうのはどうじゃ?」
それも1つの手だけど、マルレーネを人質にすれば僕らを呼び出せるとなれば、今後も同様な人質案件が発生してしまうかも知れない。誘拐犯の望みを聞いてはいけないのだ。
「1つアイデアがあるんだけど」
「願っても無いが、唐突な作戦じゃな。もっと慎重に進めたかったのでは無かったのか?」
「僕らが秦野の利益じゃ無く、僕らの利益のために動いてる。秦野は無関係、という形になればと思ってね」
むしろ、秦野は僕らに大事なものを奪われた被害者になって貰った。
僕らは、アリサ達が作った兵器の中に居る。ちなみに、アリサ達に了解は取ってない。彼女達は、本当に被害者だ。
「しかし、それほどに遠回りせねばならんのか?」
今居る場所は、秦野から北へ山を越えた宮ヶ瀬という場所の上空。今向かっているのは相模原。目的地とは正反対の方向に進んでいるけど、これはそう言う作戦。
秦野から連邦領に出れば、僕らが秦野に居たと分かる。もしあちらが戦略ビューを使えるとしたら、秦野から連邦領に入った時点で見付かるだろう。だから監視下に無いはずの場所を通って、秦野から出る必要がある。それに適したルートは、北側だけだった。
今から進む道は、連邦領をぎりぎり通らずに、目的地を急襲できるルート。とんでもない遠回りになるけど、ちょうど目的地に着く頃に夜になるから、時間調整も考えればベストな選択だと思う。
ハコネが風の魔法で追い風の突風を起こす中を、僕の物理魔法で飛行する。機体は境界を越えて、相模原へ。
曇天に白い機体で、きっと地上からは視認できないだろう。しかし、戦略ビューは別だ。未確認飛行物体が来て、サガミハラさんはどうする?
そう思ったらすぐにサガミハラさんがやって来て、併んで飛行する。ちょっと挨拶くらいしてこうかな。
ハコネに機体の制御を任せて、操縦室から外に出る。
「サガミハラさん、どうも」
「どうもじゃ無いわよ。何これ? この形、何の意味があるの?」
「ロマン、じゃないかな?」
アリサ達が作ったのは、人型ロボット兵器。以前土木工事用に作っていたけど、戦闘用に装甲を付けたら、重くて一般人には動かせなくなったという、ある意味失敗作。
捕獲した空中砲台から持って来たヘイヤスタが、全身を纏う装甲に使われている。
アリサ達はこれを歩兵戦力として使うつもりだったそうだけど、僕らはそんな機能は無視して飛ばす事が出来る。あくまでも鎧として使おうという目的だ。空中砲台の火力だけはまずいから。
しばしサガミハラさんに説明し、この辺のお天気、主にどこに雲があるかを聞いて別れる。曇り空を、さらに北へ。
次は八王子の空へ。高尾山の南くらいだろうか、そこでみさきちが出迎える。
出発前に連絡して、上空飛行の許可を取ろうとしたら、どんな物か見せろと言ってきた。そういうの好きなんだっけ?
さすがに人里ではダメという事だったから、場所は彼女が選んだ。
「ガ○ダムと比べて短足ね。足は飾り?」
「作った人、確かに偉い人だけどさ……」
ちょっとだけ中を見せてたりして、そのまま別れる。進路を東へ取り、多摩川を見かけた所で、川沿いに海を目指す。魔王の支配領域だけど、特に出迎えも無くスムーズな空の旅。
―――
敵に奪われて解析されてはならない技術が、いくつか指定されている。鉄道やエーテルエンジンはその指定に入っていないが、飛行機関や電信は指定されている。おかげでこの地域で電信が使えるのは、小田原以西の鉄道沿いと、基地がある箱根に限定されている。敵に奪われかねない場所に電信は配備されないため、前線とは未だに中世の様な通信手段でしか繋がっていない。それと比べて女神の力は素晴らしい。戦略ビューは敵の居場所を教え、外交は力を使える者同士の即時連絡を可能にする。
ふと見た戦略ビューに、高速で動く赤い点がある。位置は小田原の南、そのまま進み、箱根に入る。
「大至急、箱根に電信せよ。敵襲の恐れありと!」
副官が電信機に駆けて行き、箱根要塞を呼び出す。しかし、繋がらない。既に攻撃を受けて、通信出来なくなっている可能性がある。
電信連絡を諦め、副官を伴い父の元を訪れると、父は既に、空中砲台の係留場所に向かったと。
急ぎ足で係留場所に着くと、父の背中を見付ける。離陸準備を始める様に指令を出していた。
「要塞との連絡が途絶しています」
「そんな事を出来るのは、奴らしかおるまい。ついに帰って来たか」
女神が守る都市との戦いは経験した。都市を力でねじ伏せ、都市を人質に女神をねじ伏せる。しかし、女神が奪いに来る戦いは、経験が無い。本当の人質が居る状態だが、そもそも私の身内であり、女神が母を守る理由が無いため、交渉材料にはならないだろう。これから行われるのは、本来の力を発揮する女神との戦い。
母の身柄は、私が預かっている。このまま小田原に置くという選択肢もあるが、やはり連れて行こう。ここに置いても、ろくな事をしない気がする。
―――
僕らは海から箱根上空に直進。まず、重要なインフラの破壊から入る。それは電信のケーブル。過去に偵察に来たスロが発見していた物だ。電信なんて物は秦野の人々にも知られていないが、転生者である彼はそのケーブルの意味を理解していたので、僕らに教えてくれていた。
そして、1年前に僕らが空中砲台に敗れたはずの場所に到達。地上には要塞があるはずで、一般の住民は住んでないと聞いている。ここに居るのは僕らを撃った人達。撃つ者は、撃たれる覚悟をせよ。
「まず1つ!」
長さ3mくらいのヘイヤスタで出来た杭を構えて、トーチカに上から突撃。刺さると同時に、急いで反転離脱。
杭は内部に空洞があり、底部から掛けた魔法が内部で反射し、維持される様に設計されている。そんな杭が勢い良く打ち込まれた建物はどうなるか。建物が破壊されると同時に、杭も破壊されて、内部で維持されていた魔法が解放される。
解放された魔法はトーチカ内部で暴れるも、魔法を反射する装甲は、内側で暴れる魔法も内部に閉じ込める。恐ろしい事が起きてるだろうが、やられた事をやり返したまでだ。
「さあ、次!」




