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8-9 奪還作戦 歴史的遺産

 翌朝、迎えに来たのはスロ1人だけだった。僕らに宛がわれた部屋で、これから行く場所の打ち合わせ。こんなにのんびりしてるのは、マルレーネが戻るのを待つため。


「母達は元老院の方々と会議だそうで、今日は私だけです。色々ご案内します」


 僕らはアリサへの来客という扱いで、この街や領内の移動は自由という事だ。

 まず行きたい場所は…… 予備知識色々を仕入れられそうな場所って事で、博物館を見せて貰う事にした。ハダノの博物館というのは、地下1層目の旧市街に建てられた、民家10軒分くらいの建物。この都市国家に蓄積された歴史的遺物や書籍が納められている。

 警備員がいる入口を過ぎると、右は書籍を収めた図書室、左は遺物を収めた博物館と分かれており、今回は左に行く。展示だけでも分かる様に配置されているけど、スロの説明というサービス付きで解説されながら見てまわる。


「まずは歴史を説明する展示へ行きましょう。太古からの遺物展示です」


 歴史展示の前半部分は、この大陸全体について紹介している。農耕が始まり、鉄と魔法が使われはじめ、大きな国が生まれる。やがて馬車は鉄道に置き換わり、繁栄が頂点を迎える。発掘された遺物は元の姿が分かる様に復元され、鉄道は模型が展示されて走る様になっている。これは楽しい。

 そして展示物は、魔王の時代へ。


「魔王の時代、エルフに限らずあらゆる文明的種族が山でのみ生き残れました。この時代の人骨は小さく、食糧事情が悪かったと推測されています。以前栽培していた作物は育てられず、食料生産にとても窮したのでしょう。定住地の遺物に獣の骨が多い事から、狩猟採取生活をしていたと推測されます。そんな暗黒時代が400年続き、山の生活で役立たない技術は失われました」


 どの種族がどの山に逃れていたか、地図で示されている。西丹沢にドワーフ、東丹沢にエルフ、秩父に人族、伊豆にフ族などだ。

 そして再征服と、勇者による魔王打倒。


「私達がなぜ魔法に頼る所が大きいのか、それは魔法は暗黒時代にも失われなかったからです。これら遺物を作り出す様な技術は失われていましたが、魔法はどこに居ても生活を助けました」


 展示の中盤は、暗黒時代から立ち直る秦野の歴史。北の山奥から戻ってきたエルフがこの地に街を再建し、その後地下に都市を造り始めた。その後の発展でも、失われた技術の全てを取り戻してはいないが、遺物の意味を理解できる様になった。


 最後の展示室は、戦争に関する展示を集めた様な部屋。どこかで見た様な武器のレプリカか、戦場の地図が展示されている。


「これらが、今に続く問題です。ご説明しましょう」


 僕らが居なくなって10年後、小田原方面から押し寄せる、フ族戦士との戦い。個々の戦闘力が高く、人数でも劣勢で苦戦する。

 そんな中でアリサとマリが、手数を増やすタイプの魔法兵器を作成し、防衛線となる陣地に配置。少人数で魔法の弾幕を張れるため、数に劣るハダノの助けになったらしい。防衛に特化したハダノの作戦は功を奏し、幾度も押し寄せる武田軍を撃退。ついには原状復帰での講和にこぎ着けた。


「この功績で、まだ若い母達が元老院のメンバーに取り立てられました。元々この武器はサクラさんと一緒に作った物だったそうですね」


 展示された武器の紹介には、開発者にアリサとマリに加えて、サクラとある。ハコネが不満げだけど、アイデアを出したのは僕だったから、この表記で間違ってない。

 そして1番新しい戦争に関する展示スペースは、大きな絵。横にある説明には『我らの女神』と。竹林が拡がる台地の絵だ。こればかりは、持って来て展示というわけにも行かなかったのか。


「この竹林じゃが、いつからこうなったのじゃ?」

「私が生まれる少し前だそうです」


 展示を利用して、スロが竹林について説明してくれる。今から35年前、武田家は陸と空から侵攻した。空からと言うのは、初めて実戦投入された空中砲台。空から強力な魔法で攻撃すると共に、魔法反射装甲により地上からの魔法攻撃にはびくともしない。そんな新兵器に防衛線を破壊され、地下都市への籠城を余儀なくされるハダノ。そのままでは、いつか食糧も不足する。

 その状況で、ハダノさんが竹になった。猛烈な勢いで拡大する竹に反撃を試みた侵攻軍は、切っても焼いても再生してくる相手に音を上げ、ついには撤退した。そのまま竹林は秦野の平野を覆い尽くし、境界まで拡がる世界林となった。


「ハダノ様の林は、その後も侵入者を排除し続けています。良からぬ者の侵入があれば、速やかに密度を増して壁となる。侵入者が切ればすぐに伸びて穴を塞ぎ、焼かれても即消火して再生します。上を飛ぶ物は防げませんが、大地を覆い着陸場所を与えません」

「良からぬ者というのは、何が含まれるのじゃ?」

「我々を害する魔物や獣、我々に敵意を向ける者です」


 秦野の竹林にスライムが1匹も見当たらなかったけど、一緒に排除されてしまったんだろうか。




 図書館は今度にして、早めのランチを食べたら、地上へ。1つの用事を片付けよう。


「外に出ても良いですか? こいつが外に出たいんだって」


 取り出したスライムに驚くスロ。スライムの件は夕食会でしか説明してなかったから、その後に会ったスロへの説明はまだだった。このスライムがどういうモノなのか、簡単に説明する。


「西の魔王ですか…… ですが、世界林の中にはスライムは居ませんので、出しても交信出来ないと思います」

「じゃあ林の外に置いてきて、明日の朝回収しても良いかな?」


 南の境界までなら、ここから歩いて2時間。来た時同様、僕らが進むと竹林が左右に動いて道が出来る。川を渡ると竹林が無く畑が広がる場所に出た。


「この畑に空中砲台は降りて来れぬのか?」

「その答えは、もう少し進んだら見えますよ」


 何が見えるのかと楽しみにして、さらに進む。すると、密度の高い竹林の中に、巨大な廃墟の様な鉄骨が見えた。そこの竹は曲線状に長く伸び、鉄骨を包み込む繭の様になっている。これが見せたかった物だろうか?


「これは?」

「畑に着陸した空中砲台の成れの果てです。着陸したが最後、ハダノ様の力で大地に縛り付けられ、2度と飛ぶことは出来ませんでした」


 巨大だった空中砲台を地面に縫い付けたハダノさんの竹。これだけの力を発揮することと引き換えに、人の形を捨てたのか。


「そして、これに乗って来たのが、私の父です。逃れられないと悟り、飛行のための機関は乗組員に破壊されていました。壊されていなければ、母達がこれを飛ばせて居たことでしょう」


 竹に絡め取られて飛べなくなった空中砲台。中身は解析し尽くされ、装甲は剥ぎ取られて再利用。残ったのは鉄骨が少しだと言う。あえて残したのは、戦いを記念するモニュメントでもあるからだとか。


「さて、先に進みましょう。南の端は、まだまだ先です」




 それから2時間くらい歩く間、すれ違ったのは馬車が1台。鎖国とまでは行かないが、周辺国とのやり取りはとても少ない様だ。

 そしてついに、竹林の先に石造りで2階建ての門にたどり着く。兵士が数人居るが、防衛と言うより通行人の検査をするだけな様だ。


「この門が国境です。あの上からなら、領外の森が見通せます。スライムの居場所には良いのでは無いでしょうか。門番と交渉してきます」


 そう言うと、兵士の所に向かうスロ。僕らは門の上に登らせて貰うと、確かに門の南方少し先には、森が見える。そこにならスライムがいるだろうか。

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