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8-4 奪還作戦 隔離ブロックにて

 港から来る途中にちらっと見えた厚木の街並みは石畳とレンガの家が並ぶ美しいものだったけど、このゲットー、いや、隔離ブロックは道は未舗装で建物もレンガ造りは同じだけど密集してごみごみした感じ。行政府がここには最低限のお金しか掛けないという意思を感じる。

 魔法を使う人が隔離されているのかと思えば、黄色い帽子を被る人には殆どおらず、それだけでは無い様だ。


 指定の宿に向かう途中、ブロックの中央に周囲の景観に似合わずとても美しい建物を見つけた。神殿だ。

 扉は開かれており、中には女神の像と祈る人が見える。女神への祈りはここでは異端のはずだから、隔離されたんだろう。気になる。


「こんにちは、入っても良いですか?」

「えっ? は、はい……」


 入り口にいた若い女性は、見知らぬ人が来てかなり警戒している。

 神殿の中を見ると、金属の燭台が錆びたりしてるものの、建物はどこも綺麗で、誰かがここを守ろうと頑張ってる事が分かる。最初に挨拶した女性以外にお爺さんとお婆さん、そしてもう1人。


「ここに何か御用ですか?」

「旅の途中にこの街に寄ったら、この地域に泊まるように言われました。宿に向かってましたら、立派な神殿があったので寄りました。ここの女神様について聞かせて貰いたくて」


 近付いて来たのは、黄色い帽子をかぶったお爺さん。つまり魔法を使える人なんだろう。

 警戒して近付いてきた様だけど、女神に()を付けたのが気に入ったのか、険しい表情を崩した。他の人は()を付けないから、それを付けるかで女神への姿勢が示される。

 僕らにどこから来たのかか問うので、外向け用の身分である八王子って事にして、相模原を経てここに来たと説明する。


「私達はこの街から離れられませんので、旅の方から聞く外の情報が頼りです。ハチオウジでは女神様が行方不明と聞きました。その後どうなったんでしょうか?」

「戻られて、領主の方と仲良くされてますよ」

「おお、そうですか、それは素晴らしい。羨ましい事です」


 この帽子の老人は、ここに女神アツギが居た時代には、神官として魔法で人々を癒やしていたそうだ。このブロックは神殿の管理下に置かれていた門前町。厚木でも最も美しい場所だったらしい。

 52年前、女神が不在の間に侵攻を受けて、連邦により厚木は併合された。神殿の破壊は免れたが、神殿への寄付を行っていたアツギ伯が居なくなり、門前町は信徒のボランティアで辛うじて維持されて来た。


「50年前、女神様は復活なさいました。しかしすぐに兵が来て、連れ去られてしまいました。この街や信仰を持ち続ける我々の無事と引き換えに、囚われの身となることを受け入れられたのです」


 周辺のブロックが発展するに従って、新しい世代は信仰から離れていった。女神が居た時代を知る者が老いて居なくなりつつある今、門前町はスラム一歩手前にまで荒廃しつつある。


「それでも、まだ私達は恵まれた方です。大陸縦断鉄道沿線では、異端審問により女神様を信仰する者を追放したそうです。私達は女神様の近くに居て特権的な立場を失っただけで、何も失っていません」




 言われていた宿は、1階は食堂で2階が客室。食堂は黄色い帽子の2人組が食事してるだけ。僕らと同じ理由で、この宿に来た客だろう。2人は、良く見たらエルフだ。


「若い人族、魔法、珍しい」

「この子と私は、ハダノから来たの。サガミハラへ魔法を使った戦い方を学びに行くの」


 なぜか片言なのは、ただの面倒くさがりだろうか? それとも何か意味が? 僕らも例によって八王子の冒険者と言う事にして自己紹介。


「ハダノのアリサとマリは元気か?」

「アリサ、マリ、知らない」「知りませんね」

「そうか、知らぬか……」


 僕が聞く前にハコネに聞かれてしまったけど、若い時であれだけの事をしてた2人だから有名になってるかと思ったけど、そうでもないのか、あるいは……あまり考えたくない。

 エルフの2人との話はその位にしておいて、宿泊の手続きを済ませて部屋を確保。夕食はハムカツとオニオンリングにパン。緑が足りないけど、無いのなら仕方が無い。さっきの2人はもう食べ終わって部屋に向かったんだろうか。

 僕らも食べ終わって、部屋に戻ったら、反省会。


「さっきの秦野から来た2人に話した内容だけど、信用できる相手か分からない内は止めた方が良いって」

「そうか?」


 今の僕らは、10代半ばの自称八王子の人族。それに対して、アリサとマリは秦野の70歳オーバーなエルフ。呼び捨てにするような知り合いである事が、まずおかしい。いや、アリサとマリが八王子に何かの用事で来て、そこで仲良くなったという可能性は? それは、万が一アリサとマリが10年以上前に亡くなってましたとなったら説明が付かなくなる。

 また、アリサとマリは呼び捨てにしてはいけない様な高貴な身分になっていて、不敬罪で逮捕なんて事も。その高貴な人じゃ無く、別人のアリサとマリですって言う? アリサとマリが良くある名前なのかも分からないから、誤魔化しきれないかも知れない。

 そんなどこからボロが出るか分からないので、こちらの知ってる情報を出すのは慎重で無いといけない。そんな事をハコネと話し合う。




 翌朝、困った事に気がついた。

 僕らの正体を隠すためのデコイの魔法が、寝てる間に効果切れになってしまっていた。これまでに攻撃魔法を受けた時の例からすると、デコイの魔法で作り出した囮は、ある許容量を超えるまで攻撃を受けると消滅する。それは物理的な攻撃であったり、魔法であったり。つまり僕らは、いつの間にか攻撃を受けて許容量を超えたんだろう。

 でもおかしい。少なくとも昨夜の時点は、デコイはまだ存在していた。寝ている間に誰かが忍び込み、僕らに攻撃を仕掛けた? ハコネが寝ぼけて何かやった? でもハコネのデコイも無くなってるし、ハコネ以外の攻撃者が居たと考えた方が良い。

 では侵入者が? ドアには内側からかんぬきを掛けてあるから、そこから侵入の線は考えにくい。じゃあ窓は? これも内側からかんぬき。窓枠がちょっと濡れてるけど、温度差のせいだろう。ここから誰かが入ったとも考えにくい。

 だったら壁越しに魔法? 見えていない対象に魔法を掛ける事が出来ないとは言い切れないけど、見えない相手に魔法を掛ける? まあ、ベッドの位置を知っている人なら、そこに居るはずだとして掛けられるのかも知れない。でも攻撃魔法なら壁が邪魔するから無効だ。壁が壊れるほどの魔法で起きない事は、あり得ない。

 もっと静かな、壁越しに掛けられて気付かない様な魔法もあると考えよう。少なくとも、壁越しの鑑定魔法で無い点は安心だ。鑑定魔法を壁越しに掛けたら、壁が鑑定されるから。


 それはそれとして、これから警戒しないといけないのは、鑑定魔法。デコイの掛かってない今の状態では、鑑定魔法を使われると僕らの正体は丸わかり。しかしそれを回避するためにデコイの魔法を使うと、僕らの帽子の色が変わって魔法を使った事も丸わかり。

 鑑定魔法を使う人が居ない事を期待して、街を出るまでやり過ごすしか無いか。




 朝食を食べてチェックアウト。チェックアウトは昨日話したエルフ少女2人と重なったけど、早々にこの街を出たい僕らは“急ぎの旅”という事にしていたので、順を譲ってもらえた。

 宿を出て、このブロックから出る門に行くと、昨日と様子が違う。門の所には兵士らしい姿が数人と、車両が見える。少し物々しい。

 門の手前で様子を見ている人に小声で聴いてみる。


「何かありましたか?」

「帽子改めだよ」


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