7-20 女神新時代 和メイドは見た
7-3、復活後最初のシーンを少し変更してあります。
「おひとりで背負わずとも良いのです。今の方法を、某が姫を支えて飛べば、狙い通りに行った事でしょう」
「その手があった!」
とは言え、すぐにやり直しが出来ない。私の魔力は空っぽだ。かなり休まないと行けないけど、時間を与えれば武田方から増援が来たりするんじゃないかと心配。
そして、伊勢さんもそれほど長く飛べる程の余裕は無いはず。上空からの偵察でかなり消耗したはずだし。
「今は少しお休み下さい。城下からエーテルを集めさせますゆえ」
―――
窓から東を見上げたら、姫様が空から攻撃を加えているのに気付きました。姫様、頑張れ!
ところが、急に落下してしまわれました。一大事です。 空を飛ぶことだけでも結構な負担だと聞きますので、限界が来たのでしょう。
自力で城を落とさねばならないと意気盛んでしたが、こうなっては仕方がありません。
「僕らも行って手伝った方が良いかな?」
扉を抜けて昨夜居た陣へ向かうと、敵襲も収まったのかのんびりと佇む皆さん。柵が壊れてるところはありますが、無事守りきってくださいました。ところで、人数増えてません?
「女神の守護がある城を1人で攻撃して落とせるとしたら、それはもはや人ではない」
「守護の力を完全に使いこなしてたらそうでしょうが、奪って完全に使える様になるかは分かりません。やって損はないですが、飛びながらと言うのが宜しくなかったのでしょう」
手伝いたそうなサクラさんですが、それは姫様に聞いてからにして頂きたい。
「じゃあ、僕がエーテルを届けるだけ、手は出さないってのはどうかな?」
「補給のみの支援で、実力行使は姫が行う。それくらいなら、良いのではないでしょうか。この陣の守りは、我々だけで足りるかと思いますから」
サクラさんは大量にエーテルを持っているらしい。それを届けてもらえば、姫様はまだ戦える。
―――
戦略ビューで見られても良いやってことで、八王子までひとっ飛び。見えてきた城下町も城も特に変わった所はないけど、門に近い所に人が集まってる。みさきち達一行と、あと野次馬多数?
「はい、ごめんなさい、通して下さい」
野次馬を押し退けて、兵士の人に近づく。昨夜会って顔を覚えていてくれたのか、すぐに通して貰えた。
「サクラ殿、陣は?」
「援軍も来たので、僕だけ抜けてきました。戦況は?」
伊勢さんから聞いた情報は、サツキさんが教えてくれたのとほぼ同じだった。遠くから見てるだけで状況をピタリと言い当てたサツキさんはかなり有能だ。
「手出しは……しない方が良いんでしたね」
「姫様のお命に関わる状況になればそうも言っておられませんが、まだ手はありますゆえ」
その手とやらが城下町でのエーテル集めだと聞いて、だったらと僕の持つエーテルXを提供しようか。
エーテルの提供だけならと伊勢さんも受け入れてくれたので、みさきちが休んでる宿屋に向かう。
「結局来ちゃったのか。まあ、いいか。エーテル貰うくらいは」
「そうそう、使えるものは使えってね。それに長引いたら、僕らが直接実力行使しないと行けない状態になるかも知れない。実は……」
基地を離れる少し前、サガミハラさんから怪しい動きがあることを知らせられてた。西から来る多くの人員。西にある湖の辺りはサガミハラさんの管轄だそうで、そこに西から入って来た所属不明の人々。湖から西は武田陣営の直轄領だそうだから、武田軍だろう。今回の反乱に呼応してこの城に入ろうって動きじゃないかとのサガミハラさんの予想。
「時間はないわね。分かった。エーテルをしばらく借りるわね」
500mlの空きボトルに入れてきたエーテルXを手渡す。これ位あれば、ハコネがユクシで強力な1発をお見舞いできるレベルだけど、みさきちが使う分には消耗するごとに僅かずつ飲めば十分だろう。
「じゃあ、第2弾ね」
門に続く橋のたもと、みさきちが飛び上がり、それを見送る他の人達。あー、盛大に撃ち始めた。
ふと戦術ビューで見ると、城の耐久度も見えることが分かった。じわじわ削っていってるけど、まだ時間がかかる。みさきちはたまにエーテルに口をつけながら、撃ち続けている。城の方もさすがにまずいと思ったのか、矢を射かけたり魔法を撃ったりしているけど、渡した盾がいい活躍をしてる。
あと少しという所で、後ろが騒々しくなる。
「来てしまったか」
城下町の入口に向かって来る2列の車両。何台居るかは分からないけど、車両が来るという事でどこの所属かは言うまでもない。
「あれはどうします? あれはきっと山賊ですよ。捕まえて確認しないといけませんね」
野次馬にも聞こえるように、山賊って所を強調しておく。伊勢さんがニヤッとして、
「城の奪還は我らで成すべきこと。されど山賊退治までは手が回りません。通りすがりの冒険者のサクラさんに、討伐の指名依頼を出させて頂く」
「了解しました」
さあ、みさきちの邪魔はさせないよ。
―――
城下町を前に、道が凍らされている。ご丁寧に川へ向けて傾斜が付けられている。双眼鏡で見ると、金髪の少女が魔法を撃っている。
我が軍をあの少女1人に任せるとは、それほどの力を持つものだとすれば、この地の女神だろうか? 邪魔をするなら排除するまで。
「あれを狙え」
「了解」
バシュッ、バシュッ……
「お前が外すとは珍しいな。他の者も続け」
「そんな筈は……」
「前4両、あの女を撃て」
全弾当たっている。それなのに、何の変化もない。それはまるで、我々が幻を見ているかのように、弾丸は標的に吸い込まれて消える。
「効きません!」
「桁違いの耐久力、やはり女神か。ならば全力で当たるのみ。徹鱗砲!」
飛龍との戦いに苦しんだ末に産み出された、飛龍の鱗さえも突き破り撃ち落とすと言われる砲。大瓶ほどの弾丸は、標的に当たるとそこで爆発し、龍の鱗も内から破られるという。車載砲としては最強の部類で、この部隊の切り札。弾数が限られるから使いたくはなかったが、龍神さえ倒したというこの砲であれば、女神とて打ち破れよう。
「撃て!」
衝撃とともに砲が火を噴き、前面で大きな爆発が起きる。近距離の敵で炸裂した爆発の衝撃は大きく、車体が揺れる。煙に前が見えないが跡形もなく……
「なぜだ!」
地面は抉れ大穴が出来るも、全く変わりない姿でそこに立つ。
―――
デコイ。鑑定さえ欺く、最高の偽装。魔法を撃ってそうな姿勢で立つ僕のデコイ。
実体はそこに無いから、弾丸の雨が降り注ごうとも変化はない。僕本人は、屋根の上から見守る。こうやって全弾撃ち尽くさせることが出来れば、犠牲を出さずに無力化できそうと踏んだ。
弾丸はデコイを突き抜け、後方の伊勢さん達に届く前に失速して地面を跳ねる。後で回収して解析してもらおう。
次に出てきたのは、車体に固定された大型の砲。あれは流石にまずい。デコイを突き抜けて伊勢さん達に犠牲が出かねない。発射後の一瞬に物理魔法で軌道を曲げて、地面にめり込ませたらそこで爆発した。どうも信管も備わっているらしい。技術の進歩は大したものだ。
第2射も落とした所で、道に大きな穴2つ。さすがに街の後片付けが大変になるので、そろそろ止めにしてもらおう。
僕のデコイを打ち破れず困っている山賊達に、おしおきを。前進!
―――
「標的、来ます!」
手を前に翳し、前進してくる標的。歩かず滑るように前進だと? あれは何者だ!?
いや、以前習った魔法使い対策にあった! あれはデコイ! 我らは幻影を見せられていたのか。本体はどこだ?
すると先頭車両が横に吹っ飛ぶ。一瞬で前4両がやられた。何をされているのかも分からず、対策が打てない!
見回すと、幻影と同じ姿が屋根の上に! そっちが本体か!
「見付けたぞ! 徹鱗砲、右上方を!」
―――
こっちに気付かれ、大型の砲がこちらを向く。あれは直撃だと、さすがにダメかもしれない。僕が避けるか軌道を変えたら、弾丸は街のどこかに大穴が開く。今度は道ではなく、誰かの家に。
砲が火を噴いたその瞬間から、長く感じる一瞬。飛んで来る弾丸に全力の物理魔法で減速。爆発は起きないが、僕の所までに止められない! 止めるのは諦め、次は全力で冷却。そして両手で弾丸を受け止めるように止めに行く!
手には目一杯冷えた弾丸。冷却で信管からの点火が止まったんだ。この弾丸に組み込まれた信管の原理が、僕の知っている物と同じだったおかげ。いや、ジョージBが持ち込んだ技術は、つまり僕も知ってる技術。こうやって対策は打てる。
彼らには僕が弾丸を素手で止めて、爆発も抑えたように見えただろう。ありえない物を見た恐怖。その思考停止に付け込んで一気に攻勢。物理魔法で車両を川へ。全車両を物理魔法で吹っ飛ばし、15両が川へドボン。
乗っていた兵士には岸に上がった所で、今度は強めのフリーズに凍えてもらう。雪が流れる冷たい川に落とされてずぶ濡れな上に、地上に上がった所を冷やされ、手に持ってる銃を使うことも出来ない。動けなくなってる所で、伊勢さん達が駆けつけて武器を取り上げて縛り上げていく。
全員捕らえた所で、車両は回収。空き地に並べていく。山賊の背後関係を洗う証拠品として回収しないとね。




