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7-18 女神新時代 ハチオウジ

 待ってる間暇だから、外から陣の設備を覗く。

 陣を囲む井形に組まれた丸太で出来た柵。夜の闇の中、入り口に篝火が備えられ、外で待つ僕らもその明かりに照らされる。陣には木造の小屋が幾つも見え、その中で一際大きいのがサツキさんが入っていった小屋。陣の外は門から外に出る道だけ除雪されていて、その除雪されている道は陣の中へも続き、サツキさんが入っていった小屋に続く。ここまで建物があると、仮設の陣というより前線基地ってところだろうか。

 何人か兵士達が見える。兵士の人達には僕らがサツキさんの護衛と思われてるので不審者扱いではないけど、外で待たされる事には変わりない。


「ハチオウジの体制が変わってます」


 サガミハラさんは外交モードで八王子を確認したみたいだ。勢力を守護する立場でない僕らには外交モードは見えないから、説明してもらう。


「ハチオウジでは以前から領主は不在、領主代理が伊勢さんと丹波さんって方でした。守護する女神はもちろんハチオウジさんですが、ハチオウジさんは権限を領主代理の方達に預けておられました。トンネルの件を私に伝えてきたのも、領主代理の丹波さんでした。サガミハラへの外交では、軍事に関する事は伊勢さん、内政に関することは丹波さんから連絡が来ていたのです」


 権限を預けるというのは、以前オダワラさんがハコネに、アタミさんが僕に委任したのと同じみたいだ。女神が領邦の物に対して行使できる女神の力を、一時的に誰かに渡せる。女神が女神へだけかと思ったら、女神から人へも渡せるって事らしい。


「その丹波さんが今は代理でない領主になっていて、女神の権限も握っています。女神の権限を人が正式に受け取るなんて、まるで武田の君主のような……」


 城を奪ったのは、この陣に居る伊勢さんと共同で領主代理を務めていた丹波さんで決まりか。これまで領主代理として女神の権限まで使っていたのを、なぜ今になって乗っ取りを? 思い当たるのは、みさきちが帰ってきて代理が不要になる可能性だけど、代理解任の話でも出てたんだろうか。

 そんな事を考えてると、サツキさんが戻ってきた。僕らにも来て欲しいそうだ。




 呼ばれて入った建物には、机を囲んだみさきちと伊勢さん、それから兵士より立派な鎧で武装した人が4人、そして金色の髪をした女性。


「奪われた城を取り戻さないとね。でも相手は誰なんだろう?」


 そうか、城を取られましたって伝えに来ただけだった。そこでサガミハラさんを紹介して、外交モードで知った情報を伝えた。憶測までは挟まずに。


「その様なことをする奴ではないと信じていたが」

「まさか、私が戻ってきたのが原因じゃ……」

「いいえ、姫のお戻りは、あるべき形に戻る、目出度いものです。それを受け入れられないというのなら、袂を分かつしかありません」


 みさきちと伊勢さんの話を静かに聞く他の人達。確かみさきちがここの姫だってのはまだ公表してないはずだけど、ここに居る人にはもう知らせたみたいだ。


「さて、我らはハチオウジを取り戻しに戻らねばなりません。この戦、姫のお戻りを知らしめ、あるべき足利家に戻す第一歩としましょう。時間を掛けては、裏で糸を引くかもしれぬ武田がつけこむ恐れもあり、北の兵まで呼び戻す時間はない。そうなれば、取り戻すにはこの陣に居る全軍を持って当たらねばなりますまい。されど……」


 伊勢さんの話では、この基地も奪われたくないとのこと。魔王軍と戦う最前線で、ここが奪われると八王子の広い範囲が危険に晒されるようになり、交通と交易、農業生産に支障が出て、今の勢力を保てなくなるそうだ。


「そこでこの陣は、ハチオウジ様にお守り頂きたく」

「今の私は力を奪われ、眷属も呼び出せない状態。陣を支えるまでは、可能か分かりません」


 ここ居いる金髪の女性は、ハチオウジさん。部屋に入った時点で戦術ビューを見て分かっていたけど、守護女神という権限を奪われている。その権限があれば単身で戦えたのだろうか。


「サクラ、ハコネ、協力をお願いできない?」

「そうじゃな、我らの宿願にも手を貸すと言うなら、引き受けよう」

「姫には姫の仕事がありますが、私で良ければ手を貸しましょう」


 ハチオウジさんとの取引か。僕らがハチオウジさんを助ける、ハチオウジさんがいつか僕らを助ける。それで良いか。




 みさきちや伊勢さん達、それとこの基地に居た兵士達は、暗い中を出発して行った。扉を使えばすぐに到着できるけど、今回の戦いはみさきちの凱旋を見せつける為もあり、正々堂々と正面から進むそうだ。ただし、サツキさんと偵察が得意な2人の兵士だけ、僕の扉から城の屋敷に入るとのことで別行動だ。


「ご挨拶が遅れました。ハチオウジです」

「我はハコネ、こちらはサクラじゃ。お主と同じ、守護すべき領土を失った女神じゃ」


 長年の隣人であるサガミハラさんのことは当然知っていたので、紹介不要。


「本来の私であれば、8人の眷属を呼び出し、この陣を守ることも可能でした。それが今では私一人。点を守ることは出来ても、線を守ることは出来ません」


 眷属と言っている従者をハチオウジさんは必要な時に呼び出せていたそうだ。その従者はとても強く、ハチオウジさんと合わされば一軍の代わりになるのだとか。しかしその眷属を呼び出す力は、奪われている。それがみさきち達が全軍を率いて戻った理由でもある。城の兵士が謀反側に寝返っているとは考えづらいけど、眷属を使われたら苦戦を免れないのだとか。


「それでこの陣に攻めてくるのは魔王軍との事ですが、どんな相手ですか?」

「魔獣を使役した獣人の一団です。力が強い大型の獣人が多いのも特徴です。上級の獣人は私の眷属にも匹敵する力を持っていました」


 小型も含め獣人を見たことはないけど、魔王軍は獣人と使役される魔獣、それに勝手に暴れる獣から構成されているらしい。城攻めに適した象の魔獣だとか、大物にはハチオウジさんが対応して、背丈の近い相手には兵士が当たっていたのだとか。

 人数が多く居たほうが良い状況なら、4人組も連れてくるべきだったか。


「ハコネ、今からでも4人を連れて来ない?」

「そうじゃな。我がサガミハラまで飛んで、部屋に収納して運ぶか」


 向こうでハコネが扉を出して4人を収容、ハコネは再度こちらに来て、4人を出してくれたら良い。




「来ます!」


 多数の兵士が基地を離れたことを察したのか、早速の襲来だ。周囲の森から現れる影。獣人とは言え人類と認識できてしまう相手で、出来れば傷つけたくないけど、向って来られるからには多少は仕方がない。せめて生きて帰ってくれることを祈ろう。


「ホームングフレイムアロー」


 大型の魔獣を足場に柵を越えようとする者を打ち落とす。胸に炎の矢を受けた犬顔の兵士が柵の向こうに落ちていく。


「倒してしまわないの?」

「ほら、怪我人が出ると、怪我人を助けるために人員が割かれるって言うでしょ。知性を持ってる相手になら、この方が攻めてくる数を効率的に減らせるんだよ」


 嘘ではない範囲で、命までは奪わない理由を作る。納得してくれたのか、ハチオウジさんも少し手を緩めてくれた様だ。

 サガミハラさんは空から基地へ別方向から攻めてくる相手が居ないか監視してもらってる。少人数での防衛だから、各方向から一斉攻撃されると持たないけど、力の差があるため点での防御では圧倒的にこちらが優位。


「向こう側、大型が来ます! こっちにも!」


 空から降りてきたサガミハラさんの知らせで、ハチオウジさんが向かう。僕らが待っていた門の方か。また空に上るサガミハラさんが、遠距離射撃で牽制する。向かってくる大型のが居るという方向へだ。

 大型とやらは僕の方にも向かって来ている。あれは…… ワニ?

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